腹癒はらい)” の例文
「こいつは金になる。ならなかったら範宴のやつを素裸にして、都大路みやこおおじさらし物にして曳き出し、いつぞやの腹癒はらいせをしてやろう」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも、敏子に対する腹癒はらいせの感情も手伝った。綺麗さっぱりとはねつけられた返礼としては正に屈竟くっきょうの手段であらねばならぬ。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
この腹癒はらいせには何かうまい口実を見付けて、手当の五十円を半分に引下げてさえしまえば、つまり二人で一人の女を抱えたという名義が立つ
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この片一方の腕にてえしても、かおが合わせられねえ仕儀さ。何とかしてこの腹癒はらいせをしねえことには、この虫がおさまらねえ。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「自分デ恋ノ冒険ヲ楽シムコトガ出来ナクナッタ腹癒はらいセニ、セメテ他人ニ冒険サセテ、ソレヲ見テ楽シム。人間モモウコウナッチャ哀レナモノサ」
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それはんな世上の噂だよ。私に構って貰えない世上の女達が、勝手な事を言いふらして、腹癒はらいせをして居るのだよ。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「それみろ! てめえは浪岡が高価な馬だってことを知っていて、わしへの腹癒はらいせにわざと怪我をさせたんだろう?」
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
私はその腹癒はらいせに、ありのままのことを言ってやりました。彼女はただ一笑に付し去って、平然と私に答え返します。
遊女から振られた腹癒はらいせに箪笥たんすの中にくそを入れて来たことなどを実験談のようにして話しているが、まだ、少年の私がいてもすこしも邪魔にはならぬらしい。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
腹癒はらいせもあったが、空にひっかかった月からがして、何かこうおれたちをいじめつけるようにきびしく、ロマンティックで、反撥と誘惑のようなものから
放浪作家の冒険 (新字新仮名) / 西尾正(著)
余り期待が大きかったので、これなら規模は小さいが、岩は寧ろ一之関の厳美いつくし渓の方がよいと思わず独語したのは、少しあてのはずれた腹癒はらいせに外ならない。
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
この腹癒はらいせには、何か復讐をしてやらなければ気が済まないと、連れの八重子のいぶかるのもかまわずに、ぷん/\腹を立てながら、もう約束の時間にも間もないので
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
パルク・ロアイヤル街を横ぎっていると、林檎菓子りんごがしを食えなかったことがいまいましくてたまらなくなり、ま昼間芝居の広告を思う存分引き裂いて腹癒はらいせをした。
この調子では今に警視庁は都下に起る毎日百人ずつの死者の枕頭ちんとうに立って殺人審問をしなければ居られなくなるだろうなどと毒舌どくぜつふるい、一杯かつがれた腹癒はらいせをした。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
よしよし日ごろやっつけられる腹癒はらいせに今日こそいじめてやれと、私は意地のわるい考えをした。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そうして、それがお母様の世間に対する腹癒はらいせであるかのように思われまして「不義者の子」という名前が、何ともいえず気持ちよくさえ思われて来るので御座いました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
基康や、あの裏切者の成経や康頼の目前で死んだならば、すこしは腹癒はらいせにもなるのだったと思った。今死んでは犬死にであると思った。が、死のうという心は変らなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
砂馬を殺せなかった腹癒はらいせに、こんなことをしようとしたのか。砂馬の埋めあわせだったら、砂馬と同じ日本人をバラしたらいいんで、何も中国人を殺そうとしなくてもいい。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
遅蒔きながら何とかその腹癒はらいせもならぬものかと、左思右考してわずかに一策を得た。
亥「ちゃんおらア了簡があって業平橋の文治郎のどてっ腹を抉って腹癒はらいせをして来るのだ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
寒い!(がたがたと震えて、)いつでもお爺さんに河豚鍋のおつきあいで嘲笑あざわらわれる腹癒はらいせに、内証ないしょで、……おお、寒! ちびちびとかたきを取ろうと思ったが、恐入って飲めんのでした。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
軍人で出先きをふさがれた腹癒はらいせを禅学にぶち込んだ程あつて、胡椒のやうにひりゝとした禅機の鋭さにかけては、その頃の居士こじ仲間の随一であつたが、ある時その居士の玄関へ立つて
反動的な嫌悪けんおの情が彼の総身に寒気さむけを立てさすであろうとは思ったが、それと同時に、何か腹癒はらいせに彼女をさんざんもてあそんでやりたいような悪魔的な野心も芽生めばえないわけに行かなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そう思いながら僕も滅入った気持を引立てようとこの詩人にならって、(仏蘭西へ行けない腹癒はらいせに、)せめては新しき背広なりと着て、——いや冗談じゃない、そんな贅沢ができるものか。
十年 (新字新仮名) / 中島敦(著)
文子にふられた腹癒はらいせに酒をのみ女にたはむれるわけではないのである。むしろさういふ生き方や、こぢつけや、解釈を彼は最も軽蔑してゐた。それぞれひとつの現象にすぎないのである。
張飛は拝謝して、腹癒はらいせのように痛飲したが、関羽は口にふくんだ酒を、曹操の眼がそれた隙に、うしろへ吐いてしまった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして相当の容貌ようぼうだと思ったので、腹癒はらいせのために、わざとザビーネの注意をひくように、大声にちやほやした。彼はうまくザビーネの注意をひき得た。
小気味よしと見たのではあるまいが、また、自分が逃げ出すことのできない腹癒はらいせの私怨とのみは思われません。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それがせめてもの——あくる日は死んで行く私の腹癒はらいせだったのです。その晩帰ると、奉公人に皆んな暇を出し、この家に火をつけて、私は首でも縊るつもりでした。
きつと自分が連れて行つて、思ふさまいぢめて、腹癒はらいせをする気なのだらう。さうでなかつたら、庄造の好きな物を一つでも取り上げて、意地悪をしようと云ふのだらう。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
エポニーヌの方はジャヴェルの手で「あげられた。」しかしそれはジャヴェルのつまらない腹癒はらいせだった。エポニーヌはアゼルマといっしょにマドロンネット拘禁所に入れられた。
これを思って来ると、おきみも陰険でいやらしい女と思いますが、そんなことを知らないで坊っちゃん気質にまかせ手近かで腹癒はらいせしたがる池上も随分浅墓なものだと思われて来ます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
俺は無名の作家たちが、文壇の流行児はやりっこの悪口を思う存分にいい合って、自分たちの認められない腹癒はらいせをする場合を、考えることができた。俺と吉野君との会話も、ほとんどそれに近かった。
無名作家の日記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
例の、闘鶏師とりし仲間の者が、腹癒はらいせに、その後、藩邸にまでって来たので、問題は、家老の耳にも、主君にも、家中全体に知れ渡ってしまった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
詩人はむっとして、腹癒はらいせに音楽を批評した。邪魔な音楽で詩句を聞かせる妨げになると不平を並べた。
それがせめてもの——翌る日は死んで行く私の腹癒はらいせだつたのです。その晩歸ると、奉公人に皆んな暇を出し、この家に火をつけて、私は首でもくゝるつもりでした。
きつと自分が連れて行つて、思ふさまいぢめて、腹癒はらいせをする気なのだらう。さうでなかつたら、庄造の好きな物を一つでも取り上げて、意地悪をしようと云ふのだらう。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは相思そうしのなかであろうともなかろうとも、男女がさし向いで話をすることを、その狐は理由なしにねたむ、そうしてその腹癒はらいせのために、何か悪戯をして帰るとのことじゃ。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
苦しめた奴は、こいつとこいつだ。腹癒はらいせにかたづけてきた。——沂嶺きれいの虎をあわせれば都合これで六匹だ。畜生に身を
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現在の光栄に到達するまでにはいろんな目に会ってきたが、成功してその腹癒はらいせをしてるのだった。
きっと自分が連れて行って、思うさまいじめて、腹癒はらいせをする気なのだろう。そうでなかったら、庄造の好きな物を一つでも取り上げて、意地悪をしようと云うのだろう。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何か失敗があったその腹癒はらいせか、そうでなければ、首尾よくマドロスに私刑を加え終って後、こうして駒井の番所近く、第二の示威として藁人形を焼き立てようとするものらしい。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
叱られた腹癒はらいせに、素晴らしいネタを挙げて来ようというのでしょう。
色より慾に引ッくり返った新造は、乾分の仁三を女衒ぜげんの久六の所へ走らせ、手筈をきめて、京の色街へ、千浪を売り飛ばそうとたくらんだ。それが彼の腹癒はらいせであった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先年あれほど彼に屈辱を与えたそのみじめな作イフィゲニアが、ドイツの批評家らから賞賛され劇場から求められてるのを見るのは、彼にとってはやはり一つの腹癒はらいせだった。
彼が行きがけの駄賃だちんに屍骸の鼻を斬ったのは、口惜しまぎれの腹癒はらいせであったか、せめて目的の一端を果たす気であったか、或は、大胆な少年もさすがにその時は狼狽ろうばいした結果であったか
さて——と、今晩、これから落着くところは、自暴やけだな、自暴と二人連れで、この腹癒はらいせに乗込んでみてえところはさ、目抜きのところはすっかり焼けてしまっていて、どうにもならねえ。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
叱られた腹癒はらいせに、素晴らしいネタを擧げて來ようと言ふのでせう。
それをてめえ、有り難えと思わず、ふさいで、さアあったという段になってから、じぶくるなんざあ吾儘わがまますぎるッてもんだぞっ。俺たち夫婦を、板ばさみにして、腹癒はらいせする気かっ
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしては良人おっとを怒らしたり、またこの小都市で受くる厭な事柄の腹癒はらいせをしていた。