くく)” の例文
「間違いもなく首をくくって、——それも検死の様子では、人に絞められたのでは無くて、自分で首を縊った年寄の巡礼だったんです」
二、趙家では道士を喚んで首くくりの幽霊を祓う事(首縊幽霊くびくくりゆうれいは最も獰猛なる悪鬼あくきで、阿Qが女を口説いたのもその祟りだと仮想する)
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
人の知らないところへ行って、身でも投げたか、首でもくくったか。それとも平気で生きているか。そんなことはいっさい判りません。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「まだ面白い事があります首をくくるとせい一寸いっすんばかり延びるそうです。これはたしかに医者が計って見たのだから間違はありません」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人里にも住めず山にも帰れず、その時いったいどうするぞ? 首をくくるかのたれ死にをするか? どっちにしても可哀そうなものだ
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其内、稲次郎は此辺で所謂即座師そくざし繭買まゆかいをして失敗し、田舎の失敗者が皆する様に東京に流れて往って、王子おうじで首をくくって死んだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「常々、ご病身でもあったせいでしょうが、問罪の状をお渡しすると、その夜、自らおくびくくって、あわれ自害してお果て遊ばしました」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
堅いようなのを買って糸でくくって風通しの好い処へ釣るしておくと二、三日目か四、五日目位でちょうどいい食べ頃が来ます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
これがこうじると自分までヒステリーのようになって、暇を取ったくらいでは気がすまないで、面あてに首でもくくろうかと思う時さえあった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あのお臀の上で首をくくりたいというやつがいたが、全く死場所ではああいうつるつるてんの、ゴクラクみたいな処はないね。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そして、ある月のよい晩のこと、窓の外に出っ張っている、電線引込用の小さな横木に細引ほそびきをかけて、首をくくって自殺をしてしまったのです。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
また或る時、借金のために財産をなくしかけて、首をくくろうか、身を投げようかと思案しながら道を歩いている町の人に出遭でっくわしたことがある。
形式だけの検束をうけて、留置場の中で特別の待遇をうけて居た鈴木が、この明け方、首をくくっていたのを、看守の巡査が発見したのだった。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
庭の松が、ただ慄然ぞっとするほど、その人待石の松と枝振は同じらしい。が、どの枝にも首をくく扱帯しごきは燃えてはおりません。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この町へ帰って来てしばらくしてから吉田はまた首くくりの縄を「まあ馬鹿なことやと思うて」んでみないかと言われた。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「お前も新聞で美人と書かれちやア、もう、——また一度毒を飮むか、くびをくくるかしなけりやア、義理がすむまいぜ。」
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
それはまるで、めいめいの長靴を、きちんと上の棚にのせておいて、さてゆうゆうと首をくくった自殺者じさつしゃのようだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
広い会所の中は揉合うばかりの群衆ぐんじゅで、相場の呼声ごとに場内は色めきたつ。中にはまた首でもくくりそうな顔をして、冷たい壁にしょんぼもたれている者もある。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
首をくくるべきであろうか? 各人をして自分の仕事に意をそそぎ、彼が作られたものになろうとつとめしめよ。
その話の途中で、私が前に寺田先生から聞いていた、寒月の「首くくりの力学」の出所を話したら、それは面白いからぜひ書くようにと勧められたわけである。
ただでさえ脾弱ひよわいのが益々病身になってしまいましたが、とうとうしまいには心の罪に責められて、あの婆の寝ている暇に、首をくくって死んだと云う事です。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
権助が主人の使いに行き、一両の金を落として途方に暮れ、旦那へ申し訳なしとて思案を定め、並木の枝にふんどしを掛けて首をくくるの例は世に珍しからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
貧乏で首をくくる人も無いことは無い。しかしそれは貧乏がその人を殺したと云わんよりは、貧乏即不幸福の強迫観念がその人を殺したと云った方が正しかろう。
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ほほう」と検事は目を丸くして「では儂が首をくくらん前に、事件の真相を報告するようにしてくれたまえ」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
頸をくくられた鶏か何かのやうに、ひくひくと全身を痙攣させながら手足をばたばたさせてゐるのだつた。
癩を病む青年達 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
「ですけど先生、いったい小六さんは、自分から首をくくったのでしょうか、それとも、誰かほかに……」
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
事件というのは西村のおっかさんが昨夜ゆうべのうちに首をくくったので、昨日きのうのハイカラ美人さんが殺したのじゃないかと、疑いがかかっているらしい……というのであった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
例えば、その家には先年自害したものがあるとか、首くくりしたるものがあるとかの言い伝えがある。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「借金を背負っても、首はくくれるし、女に迷うても、水に陥れるぞ。この間の死の区別は如何いかん
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「俺は、仕舞ひには彼処で首をくくりはしないか? 彼処では、何かが俺を招いてゐる」
いっそ首でもくくって我と我が命を断つにかないと屡々しばしば思い詰めた事でありました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
どうした破目かで破産して、夫といふ人が首をくくつて死んで了つた為め、新家の家の家政を手伝ひ旁々かたがた、亡夫の忘れ形見の藤野さんを伴れて、世話になりに来たのだといふ事であつた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
房枝が帯をかけた鴨居に帯をかけて首をくくり、机の上に三本の遺書が置いてあった。
錯覚の拷問室 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
……それから僕は、どんなことになっても決して、監獄で首をくくったりはしないよ。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
この神職はもと負荷人足にもちにんそくの成上りで、一昨冬妻と口論し、妻首くくり死せる者なり。かくて神林伐採の許可を得たるが、その春日社趾には目通り一丈八尺以上の周囲ある古老杉三本あり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
くくって死んだんです。貞吉君はうせ親父に責め殺されるんだと言っていました
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
つい首なんぞくくってしまったのでしょうが、どうもそういうことがあってからは村の者たちも気味悪がってあの近辺へも寄りつかぬような始末でして、さぞ荒れていることと思いますが
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そんな平凡な生活をする位なら、いっそ首でもくくって死ンじまえ、などと蔭では嘲けったものだったが、嘲けっているうちに、自分もいつしか所帯染しょたいじみて、人に嘲けられる身の上になって了った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あいつは気の弱い奴だから、そんなことばかりしていると、いずれ首でもくくってしまう。高木は血便が出るほど勉強して、俺を無罪にしたンだから、それ位の罪は、とっくに消滅している。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おや、おばあさんはもう切子灯籠を釣ったのかとよく見ると、それは灯籠ではなくて、おばあさん自身、首をくくっていたのでした。真新しい白い浴衣が切子灯籠の垂れ紙にも見えたのでした
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お杉の母親は、まだお杉が幼い日のころ、彼女ひとりを残しておいて首をくくって死んだのだ。お杉はそれからの自分が、どうしてこの上海まで流れて来たか、今は彼女の記憶もおぼろげであった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それが出来ないような意気地なしなら、首でもくくって一思ひとおもいに死んでしまえ
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
こんな山奥に逃込むとは驚いた女もあるものかな、もしや男と共に谷間へ投身みなげでもしたのではあるまいか、どこかそこらの森林で首でもくくって死んだのではあるまいかと思うと、余りい気持はせぬ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
そして一番先にぶつかった柳の木で首をくくっちまうぞ!
富籤 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「首でもくくろうかってときに、夫婦喧嘩ができるかい」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「奴、今に厭世自殺するぜ、くびくくってよ。」
背後 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
「放っておけば大黒屋の亭主は本当に首でもくくるかも知れませんよ。それに、品川小町のお関を見ただけでも、とんだ眼の法楽ほうらくだ——」
もしや首でもくくるのかと、提灯を袖に隠しながら抜き足をして近寄ると、それが丸多の主人であったので、おどろいて声をかけました。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
甲州街道は大部分繃帯ほうたいした都落ちの人々でさながら縁日のようでした。途中でこんきて首をくくったり、倒れて死んだ者もあります。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「わかっている。まちがえばこの首を、千年杉のこずえくくるだけのことだ。……だが心配は無用、わしだって、まだ死にとうない」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)