終焉しゅうえん)” の例文
歩けば先へ立って行く、冥府から出迎いにでも来た悪鳥のように、この鳥の姿が消えるとき、自分たちの運命も終焉しゅうえんを告げるように。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
やがて、氷の曠原こうげんを踏んで猟虎入江ホプローバヤいりえを過ぎ、コマンドル川の上流に達したとき、その河口に、ベーリングの終焉しゅうえん地があるのを知った。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
被衣かずきやうちかけなどを濡らして頭からかぶったまま、はすの如く池の中にひたって、焼け落ちる伽藍がらんと信長の終焉しゅうえんを目のあたりに見つつ
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一代の奇才は死の瞬間までも世間を茶にする用意を失わなかったが、一人の友人の見舞うものもない終焉しゅうえんは極めて淋しかった。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
間もなく南洲なんしゅう終焉しゅうえんの地というのに辿り着いて俥から下りた。大将がかくれていた岩崎谷いわさきだに洞窟どうくつにも敬意を表した。引き返して城山へ登りながら
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
終焉しゅうえんの恐怖の中における窮極のしかも無益なる避難所!……彼は一瞬間落着いたように見えた。なお意識のひらめきを示した。
また物怪が一時的に絶息をさせたのかもしれぬと僧たちは加持かじに力を入れたのであるが、今度はもう何の望みもなく終焉しゅうえんていはいちじるしかった。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかしこれらの場合には単なる師の終焉しゅうえんを語っているのではない。その死がちょうど師の教説の核心となるような独特な死を語っているのである。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「ヴァージニバス・ピュエリスク」の著者は、長い病苦に責められながらも、よくその快活の性情を終焉しゅうえんまで持ち続けたから、うそは云わない男である。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし太子の祈念は必ずしもまっとうされたとは言えない。外戚の弊が除かれ血族相剋の日が終焉しゅうえんしたわけでもない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
資本と大土地所有との支配に歴史的終焉しゅうえんを与えて、一切の生産手段を直接生産に従事する全勤労者の手に取り××××戻すことによってのみ、そしてまた
十月革命と婦人の解放 (新字新仮名) / 野呂栄太郎(著)
「濁り江」のお力は、その芸妓になった女をモデルにしたともいわれている。そしてそこが終焉しゅうえんの地となった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
絵としては、あまり芸術的なものでないかも知れませんが、難航中写真機を紛失しましたので、令弟終焉しゅうえんの地の都会風景として写真代りに御覧に入れます。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
もしも平衡点離脱に成功しなかったら、本艇の乗員三百九十名の生命は終焉しゅうえんだ。そればかりではない。折角の計画が挫折することは人類にとって一大損失だ。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
枳園の終焉しゅうえんに当って、伊沢めぐむさんは枕辺ちんぺんに侍していたそうである。印刷局は前年の功労を忘れず、葬送の途次ひつぎ官衙かんがの前にとどめしめ、局員皆でて礼拝した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
終焉しゅうえんの合図であった。京子はそれと知るや夫人の胸に顔を埋めてむせび泣いた。新一は土のように青ざめた顔で、じっと目の前の空間を見据えながら、声を呑んだ。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
イエスにおいては死は生の終焉しゅうえんではなく、かえって生の目的であった。生は死の準備であり、死は生の完成であった。彼の福音は実に彼の死の福音であったのです。
一夕、家父の砂糖をもとむる夢を見たりしが、その翌日、家父死亡の電報に接し、急に帰りきたりてこれをたずぬれば、家父終焉しゅうえんの際、に砂糖をもとめたりという
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
富士山の行者の起りより古い気づかいはない。これに反して小町塚は各地にあるが、その由来がまだ明らかでないので、土地だけでは小野小町の終焉しゅうえんなどを信じている。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
老いたる父はその森が自分の終焉しゅうえんの場所であるのを予感し、此処にこのまま止まる決心をする。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それは維也納ウィーンのある博士が、ある医師会の席場に試みた、終焉しゅうえんに関しての講演の筆記であった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
その恰幅かっぷくの堂々たるのと、歌のうまいのは我々も見たが、その上抜群の芝居上手じょうずで、『ボリス・ゴドノフ』の終焉しゅうえんの場の如きは、鬼気そびらに迫るものがあったと言われている。
青春は喜びのある所へ、にぎわいの方へ、強い光の方へ、愛の方へ、進んでゆく。老衰は終焉しゅうえんの方へ進んでゆく。両者は互いに姿を見失いはしないが、もはや抱擁はしなくなる。
並に仁和寺の比丘尼西妙はその前夜法然の終焉しゅうえんの時を夢み、その他花園の准后の侍女参河局、花山院右大臣家の青侍江内、八幡の住人右馬允うまのじょう時広が息子金剛丸、天王寺の松殿法印
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大正某年十一月某日午後零時三十六分、———自分はこの日のこの時刻に、ついにナオミと別れてしまった。自分と彼女との関係は、この時をもっあるい終焉しゅうえんを告げるかも知れない。………
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その中でもいたましいのは、ウェーゲナー教授の死である。大陸移動説の提唱者として、日本にもよく知られているこの優れた地球物理学者の終焉しゅうえんの地は、グリーンランドの氷冠の中である。
白い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ああよくできたこれでおれはいつ死んでもえいと、父は口によろこばしきことをいったものの、しおしおとした父の姿にはもはや死の影を宿し、人生の終焉しゅうえん老いの悲惨ということをつつみ得なかった。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
僕の最初の幼い歌は脱走する日輪、太陽の終焉しゅうえんに対して捧げられた。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
備前、備中の境にある吉備きびの中山が、大納言終焉しゅうえんの場所と言われる。
終焉しゅうえん斎戒さいかい果てゝ
終焉しゅうえん——
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
「待てば海路とやら、諸相しょそう、いよいよ幕府の終焉しゅうえんをあらわしてまいりました。御宗家ごそうけからここへも、何かとはや、密々のおさしずが?」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、しだいに犯人は、それを中央の太陽の位置にまで縮めてゆきました。太陽は、当時算哲博士が終焉しゅうえんを遂げた位置だったのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
日本の言文一致の先駆者(あるいは創始者)として文壇の風雲を捲起まきおこした一代の才人の終焉しゅうえんとして何たる悲惨の逸事であろう。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
あの最後の歌の露が消えてゆくように終焉しゅうえんの迫ってきたことが明らかになったので、誦経ずきょうの使いが寺々へ数も知らずつかわされ、院内は騒ぎ立った。
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
大阪でためて来た金は、九女八が、何か計画して考えていたことには用いられず、終焉しゅうえんの用意となってしまったのだが、台助は、そんな予感がしたのかどうか、ふいと
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかしその輝きは少しも物を照らさないで、夜のやみよりもいっそう人の心をしめつけた。その輝きのために周囲の暗さがいっそう陰気になっていた。それは終焉しゅうえんの光だった。
云わば危機の連続であったが、奈良朝に入るとともにひとまずこれも終焉しゅうえんしたかにみえる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
かくして、あれ程世間を騒がせた三重渦巻の怪殺人事件も、ここに全く終焉しゅうえんをつげたのである。被害者一家はみなごろしになってしまった。加害者は二人とも自殺をしてしまった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
津田の知らないに、この閑静かんせいな古い都が、彼の父にとって隠栖いんせいの場所と定められると共に、終焉しゅうえんの土地とも変化したのである。その時叔父は鼻の頭へしわを寄せるようにして津田に云った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしふと気がついたのは、僕の寿命じゅみょうは、あの婦人が僕に会いに来るすこし以前に終ったのではなかろうか。しかもそれはあの海底都市ではなく、他の場所で終焉しゅうえんを迎えたのではなかろうか。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
執政官制ディクテーター終焉しゅうえん。ヨーロッパの全様式は瓦解がかいした。
後にこの茶室が父の終焉しゅうえんの所となった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いや、僕はもっと極言しましょう。蘭貢ラングーンで投身したというディグスビイの終焉しゅうえんにも、その真否を吟味せねばならぬ必要がある——と
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
晩年、岩殿山霊巌洞いわとのやまれいがんどう枯骨ここつを運んで、坐禅しながら死を待つあの寥々りょうりょうとした終焉しゅうえんの身辺も、この家庭から生んだものと僕は思う。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんなことを言って熱心に世話もしないのであったが、宮は終焉しゅうえんの床で、夫人がもう意識も朦朧もうろうになっていながら、生まれた姫君を気がかりに思うふうで
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
遠くヒマラヤの雪巓を観望する丘の上に燃ゆるが如き壮志を包んだ遺骸を赤道直下の熱風に吹かれつつ荼毘に委したは誠に一代のヒーローに似合わしい終焉しゅうえんであった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
終焉しゅうえんは人が思ったよりも早かった。彼女はやがてジャックリーヌのほかはだれにも会わなくなった。つぎには、ジャックリーヌに会う時間もしだいに短くならざるを得なかった。
階下の事務室に寝ているものを起して六時になったら名あてのところへ持ってゆけと言附けたあとで、彼女は恩師であり恋人であった故人のあとを追う終焉しゅうえんの旅立ちの仕度にかかった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そして、彼の終焉しゅうえんもこの運動の闘士としての過労からきた病死だったのである。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)