真言しんごん)” の例文
旧字:眞言
この一山には、三千の僧衆がこもって、真言しんごんを修め、経典を読んではいるが、堂塔も、碩学せきがくも、社会にとっては、縁なき石に等しい。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うかれ男 (故更に厳粛の貌を装ひ)や、それこそは邪法の内秘、吉利支丹きりしたん宗門の真言しんごん軽々かろがろしうは教へられぬ。したが白萩よく聞きや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
人間の頭ぐらいげんこくだくことができると云っている。んだか山師やましのようでもあるが、また真箇ほんとう真言しんごん行者ぎょうじゃのようでもある。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
われわれ人間の浅はかな知恵などでは到底いつまでたってもきわめ尽くせないほど不思議な真言しんごん秘密の小宇宙なのである。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのチー、チー、タワ、チョェ、チャンというのは(〔はじめのチーは〕)文珠菩薩もんじゅぼさつの心という〔種字〕真言しんごんなんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
世間にては加持祈祷と唱えて、加持と祈祷とは同一のように思っておれども、加持は真言しんごん宗に限りて用うる語である。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
私が壇を設け棚をしつらえ、置くべき所に物を置いて、これと日夜を送るのは、丁度真言しんごんの坊さんたちが、曼荼羅まんだらを構えて、諸仏を念じるようなものである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
おろし立ての手帛ハンケチのやうに真白でしわの寄らない心を持つた或る真言しんごんの尼僧は、半裸体の仏様のお姿を見て
殊にこの僧都は天台てんだいとか真言しんごんとかの美くしいころもでもた坊さんであろうから、それが春の水の上に浮んでいるところに、美くしさの上の調和もあるのであろう。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
淡路の島では十六日を「真言しんごん始め」といい、鉦はこの日までは鳴らしてはならぬことになっていた。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
つまりこの般若波羅蜜多が、そのまま陀羅尼だらになのです。真言しんごんなのです。じゅなのです。で、この般若の功徳を四通りに説明し、讃嘆したのが、ここにあるこの四種の呪です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
と言い、心で真言しんごんじゅを読み、印を作っていたが、そのために明らかになったか、僧都は
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
三井寺の公顕こうけん僧正を師範として、真言しんごんの秘法を学んでいられたが、大日経だいにちきょう金剛頂経こんごうちょうきょう蘇悉地経そしつちきょうの三部の伝授も済み、九月四日、三井寺で御灌頂ごかんじょうをお受けになることとなった。
それからさまざまの艱難かんなんを経て、ある時は相模さがみ大山石尊おおやませきそん参籠さんろうし、そこで二十四の時に真言しんごんに就いて出家をとげ、それより諸国を修行し、或いは諸所の寺々の住職をし
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上人と見たのは栂尾とがのおの上人である。上人は茶の種を播いたばかりではなかった。上人は夢だといわれた。それは暗示である。上人は信の種、真言しんごんの種を播かれたにちがいない。
其時在所ざいしよの者が真言しんごん道場だうじやうであつた旧地へ肉食にくじき妻帯さいたい門徒坊もんとぼんさんを入れるのは面白く無い、御寺の建つ事は結構だがうか妻帯をさらぬ清僧せいそう住持じうぢにしていたゞきたいと掛合かけあつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
他の多くの家は真言しんごん宗、一向いっこう宗の信徒が圧倒的で、冠婚葬祭には特に、相互の往来や交渉はなく、村長である島田家の祝宴にも、参会者は同じ宗旨の十二、三人しか列席していなかった。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
西蔵馬に乗った押送使と四人の警兵が附添い、大地に平伏して摩抳マニ(ラマ教の真言しんごん)をとなえさせ、何十里あろうとおかまいなく、西康なり青海なり、潜入してきた国境まで匍匐ほふくさせる。
新西遊記 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もとより隠者はかうあらうと心にして居つたによつて、この間も秘密の真言しんごんを絶えず声高こわだかし奉つたに、見る見る黒雲も薄れれば、桜の花も降らずなつて、あばら家の中には又もとの如く
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
だから、ある時は、修験者のかける大きなつぶの数珠じゅずを首からかけて、みけんへ深い立皺たてじわをよせて真言しんごん秘密、九字の咒文じゅもんをきっていることもある。あたしの父が、悪太郎の時分からの知りあいだ。
慈円僧正の態度は、三千のわれわれ大衆を無視しているばかりでなく、真言しんごん千古の法則を、座主みずから、勝手にみだしているものと、俺は思うのだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真言しんごん宗の霊場、紀州の高野山こうやさんは誰も知らぬ人はありません。ですがその麓にある村の古沢や河根かねなどでかれる「高野紙こうやがみ」もこの寺につれて記憶されねばなりません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いったい「じゅ」とか「真言しんごん」とか「陀羅尼だらに」などというものは、いわゆる「一字に千理を含む」で、たった一字の中にさえ、実に無量無辺の深い意味が含まれているのですから
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
心のごとくなるところの真言しんごんを書いた紙を沢山に集め、其紙それを円く長い筒のようにしてその外部そとを銅板で綺麗におおいなお金銀で飾りを付け、そうしてその中心には鉄の心棒があって
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
吾々人間の浅墓あさはかな智慧などでは到底いつまでたっても究め尽せないほど不思議な真言しんごん秘密の小宇宙なのである。それが、どうしてこうも情ない、紙細工のようなものにしか描き現わされないであろう。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
真言しんごんのうちでも封教となっておる秘密なきょうだ。それへ勝手な教義や荘厳しょうごんを加え、宮中でおすすめしているばかりでない。
一面真言しんごん秘密の場合と同じように、また原始宗教がすべて禁制(タブー)にるのと同じように、みだりに口外すべきことでなく、またこれを犯す者は天罰を受けるという固い信仰による。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そこでその堂に詰め切って毎日その守護神すなわち馬頭妙王ばとうみょうおうあるいは執金剛妙王しつこんごうみょうおうあるいは剛蓮華生ごうれんげしょう等に供養をして祈祷をしますので、それが昼夜三遍ずつやって毎日毎日沢山な真言しんごんを唱えるのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
由来、お寺の“逢曳あいびき”というものは、妙に秘かな春炎と妖情を増すものだった。釈迦しゃかおしえ華厳けごんまじない真言しんごんの秘密。それと本能が闘って燃える。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほとんどすべての大本山がここに集ります。浄土宗の知恩院ちおんいん百万遍ひゃくまんべん真言しんごん宗の東寺とうじ智積院ちしゃくいん、真宗の両本願寺ほんがんじ、禅宗の南禅寺なんぜんじ妙心寺みょうしんじ大徳寺だいとくじ、時宗の歓喜光寺かんきこうじ、天台宗の妙法院みょうほういん延暦寺えんりゃくじ
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「寺をつくるなら、なにもわしでなくともよかろう。天台や真言しんごん律宗りっしゅうがよい。……いずれ、そこもとの発願も、後醍醐の怨霊おんりょうしずめがその目的であろうでな」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう表言を用いてよくはないでしょうか。真言しんごん秘密と申しますが、密々に体得されるものがなければなりません。分らぬ域に分るものがあり、分る所に分らぬものが含まれてよいと思います。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)