田中たなか)” の例文
「はつ‥‥」と、田中たなかはあわてて路上ろじやう腹這はらばひになつてばした。が、はなかなかとどかなかつた。手先てさき銃身じうしんとが何度なんど空間くうかん交錯かうさくつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
斯くて江戸は東京となり、我々は靜岡藩士となつて、駿州すんしう田中たなかに移つた。其の翌年、わし沼津ぬまづの兵學校の生徒となつて調練などを頻りに遣らされた。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
そのころ半年はんとしあまり足繁あししげかよつてくるおきやくなかで、電話でんわ周旋屋しうせんやをしてゐる田中たなかをとこが、行末ゆくすゑ表向おもてむ正妻せいさいにするとふはなしに、はじめはそのをとこのアパートに
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
二、三年前、田中たなかさんから頼まれたのです。その頃頼みに来て下さった方はもう御卒業なさったでしょう。それ以来十数回の御依頼を受けましたが、みんな御断りしました。
無題 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あ、田中たなかやつ、おれらが畑から来たとき、ここにいて先生の服をいじってたっけが……」
錯覚の拷問室 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
るといつたらうそいが、るべく喧嘩けんくわはうかちだよ、いよ/\先方さきりにたら仕方しかたい、なにいざとへば田中たなか正太郎位しようたらうぐらゐ小指こゆびさきさと、ちからいはわすれて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一游亭いちいうていと鎌倉より帰る。久米くめ田中たなかすが成瀬なるせ武川むかはなど停車場へ見送りにきたる。一時ごろ新橋しんばし着。直ちに一游亭とタクシイをり、聖路加せいろか病院に入院中の遠藤古原草ゑんどうこげんさうを見舞ふ。
自分の社とふだんから競争の地位にたっているA新聞の記者田中たなかがちゃんと乗りあわせて、矢張り電文の原稿は書いてしまって現に自分のそばに、何げない様子をして自分と話をしている。
頭と足 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
これは田中たなか孫作、大浜弾兵衛おおはまだんべえ中島民部なかじまみんぶ河井良平かわいりょうへい渡辺忠右衛門わたなべちゅうえもんという連中で、『むこうみず五人組』とよばれる荒武者のひと組だった、——いうまでもなくわざとしかけたけんかである。
だんまり伝九 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それじゃア田中たなか中間ちゅうげんの喧嘩の龜藏かめぞうという奴で、身体中きずだらけの奴がいるだろう、あれ藤田ふじた時藏ときぞう両人ふたりに鼻薬をやって頼み、貴様と三人で、明日あした孝助が相川の屋敷から一人で出て来る所を
灰いろの海鳥うみどりむれし田中たなかには朝日のひかりすがしくさせり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
大丈夫だいぢやうぶだ、みづあさい‥‥」と、高岡軍曹たかをかぐんそうはまた呶鳴どなつた。「おい田中たなかはやじうつてやれ‥‥」
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
いつも上野の森蔭や根岸の垣根道に時間を定めて忍び會ひ、其れからは足の行くまゝ氣の向くまゝ、遠く向島のはづれまで走つて、もうかはづの鳴いてゐる田中たなかの温泉宿に泊る。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
田中たなか正太しようた可愛かわいらしいをぐるぐるとうごかして、幻燈げんとうにしないか、幻燈げんとうに、れのところにもすこしはるし、たりりないのを美登利みどりさんにつてもらつて、ふでやのみせらうではいか
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
田中たなかさんが下すったの。御存知じゃなくって? 倉庫会社の——」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
田中たなかなに愚圖々々ぐづぐづしとるかつ‥‥」と、軍曹ぐんそう躍氣やつきになつてあしをどたどたさせた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
さま/″\の手遊てあそび數多かずおほきほど見得みゑにして、七つ九つ十一つくるもあり、大鈴おほすゞ小鈴こすゞ背中せなかにがらつかせて、足袋たびはだしのいさましく可笑をかし、むれれをはなれて田中たなか正太しようた赤筋入あかすぢいりの印半天しるしばんてん
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お君さんの相手は田中たなか君と云って、無名の——まあ芸術家である。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)