生身なまみ)” の例文
かんがへてりやあ生身なまみをぐつ/\煮着につけたのだ、尾頭をかしらのあるものの死骸しがいだとおもふと、氣味きみわるくツてべられねえツて、左樣さういふんだ。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私は、丁度、濡れそぼたれた獣同志が、互に身を寄せて暖め合うような、生身なまみの愛と憎と惨めさを感じずには居られないのである。
無題 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
生身なまみに匕首を突刺されて、叫び声一つたてぬ筈がない、これはその時すでに完全に死んでいた証拠さ、それには一寸毒殺以外にない
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
それがほんとうの生身なまみであり、生身からしたたらす粘液がほんとうの苦しみからにじみ出たものである事は、君の詩が証明してゐる。
それがほんとうの生身なまみであり、生身からしたたらす粘液がほんとうの苦しみからにじみ出たものである事は、君の詩が証明してゐる。
月に吠える:01 序 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
いはば私が、大理石の肉体から次第に生身なまみの人間になつて行く歴史がはじまる。しかしその変化は直ぐにはやつて来なかつた。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
それは平手か、コブシかわからないが、とにかく生身なまみの柔らかい手で、コンクリートの壁をポトポトとたたく音であった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして、それを覆う千古の氷雪と、大氷河の囲繞いにょう。とうてい五百マイルの旅をして核心を衝くなどということは、生身なまみの人間のやれることではない。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
身は桑門そうもんとなるまでも生身なまみの大黒天と崇め奉らんと企つる内、唐穴からっけつになって下山しとうとう走り大黒を拝まなんだ。
「それは君、お互生身なまみの人間だ。機械とは違うんだから、半期に二日や三日の欠勤は不可抗力じゃなかろうか?」
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
鮭の脂と塩気とがいゝ塩梅に飯に滲み込んで、鮭は却って生身なまみのように柔かくなっている工合が何とも云えない。
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ほら、あれを見たか。あれが、叩きつける“椅子”じゃ。あれでは硬い壁に叩きつけられて、生身なまみの人間は一たまりもあるまい。可哀かわいそうに死んだか」
体質の弱い人間が生身なまみに墨や朱をすと、生命にかゝわると昔からきまっているんだから、どうにも仕様がない。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「まずあの女もこっちのものだ。生身なまみ賞翫しょうがんした上に、いや応なしに献金させる。悪くないなア、おれの商売は」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いや、あの人は軽々しく偶像のために、それこそ神から与えられた生身なまみをむなしく犠牲にするような愚かなまねはしないであろう。——そして、そうだ。
大日向教は、人間の心の病ひをなほさうと云ふ心願のもとに生れたのです。生身なまみの躯をる医者はあつても、精神を診て慰めてくれる医者はありません。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
竹光で外から搜つて、三度目に致命的な突きをくれるといふのは、生身なまみの人間を相手には出來ないことです。
生身なまみの体はいつどんなことがあるか知れないで、それでわしが言わないことじゃなかった。いい加減に締っておくだったい。」と、母親は弟にうらみを言った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ふざけちゃあいけねえぜ、米友様だってこれ、生身なまみを持った身体からだだ、飛道具でやられてたまるかい。ムク、こうしちゃあいられねえぞ、おいらに続け、合点がってんか」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
食われる物がわれわれの生身なまみを支持し、もしくはわれわれの精神生活を鼓舞する糧となるのでなくて、われわれのうちに巣くう蛆虫の食い物となる場合である。
またとらえられたいっぴきの縞鯛しまだいが人魚の食膳にのぼりました。ほくそんでむしゃむしゃと生身なまみの魚をかじる人魚の口は、耳まで裂けているようにみえました。
人魚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
いや堪え難いのみでなく、生身なまみの体だ、その苦痛にちきれなくなって、この口から、万一にも、勤王方の不利なこと一点でも洩らしたら愧死きししても足りないことだ。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれにしても、肉を生身なまみで食うのが一番美味うまいのだから、素人しろうとは皮だの腸だのは食わなくてもよい。しかし、頭肉、口唇こうしん、雄魚の白子しらこは美味いから、ちりにして味わうべきだ。
河豚は毒魚か (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
、いくら上手におつしやつたつて、あたしの胸に、ぴんと来ないから、いや……。あたしは、たかだか女よ。生身なまみの女よ。一度失つたものは、もう取り返すことのできない、あわれな女よ
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
興福寺濫觴記こうふくじらんしょうき』という本は信用のできるものではあるまいが、その中に次のようなことを伝えている。——北天竺乾陀羅ガンダーラ国の見生王は生身なまみの観世音を拝みたくて発願入定三七日ほつがんにゅうじょうさんしちにちに及んだ。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「ますます手厳しいな、こっちも生身なまみの躯だぜ」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
生身なまみはだへをいたはりつつ
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
然しそれは真珠貝の生身なまみが一顆小砂にられる痛さである。痛みが突きつめれば突きつめるほど小砂は真珠になる。
然しそれは真珠貝の生身なまみが一顆小砂にられる痛さである。痛みが突きつめれば突きつめるほど小砂は真珠になる。
月に吠える:01 序 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
マストの一本も捻じ倒されたらしく、生身なまみの骨をちぎりとるような音と、シンバルを打つような甲板に突きあたる音が、船室にいた英夫たちをおどろかした。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そしてあらゆる夢と希望を矢ひ、優越感を泥土でいどに委し、はじめて生身なまみになつた自分を意識した。……
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
それで生白なまじろい色をして、あおいものもあるがね、煮られて皿の中に横になった姿てえものは、魚々さかなさかな一口ひとくちにゃあいうけれど、考えて見りゃあ生身なまみをぐつぐつ煮着につけたのだ
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうです、人造人間です。ですから、毒瓦斯を吸って死んだマリ子は、にせ者のマリ子にちがいありません。そして、そいつは、生身なまみの人間でしょう。いま、よく調べてみます」
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あるいは生身なまみ鉄鎖てっさにつなぎ、開封かいほうの都まで差立てましょうや、この一事も至急お使いをつかわし、お父君の大臣府へ伺いを立てれば、お父君も大そう面目をほどこし、かつまた
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東側から地形じぎょうは棟の上端までは二十四間三尺二寸七分あるから、いくら米友の身が不死身に出来ているからといって、もともと生身なまみを持った人間のことだ、この高さから下へ落ちては
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そやけど、あの散らしには魚の生身なまみが這入ってえへなんだよってに、………」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは、剣もこぼれるというジーグフリードの身体からだに、どこか一個所、生身なまみと異ならぬ弱点があるからだ。それを知ろうと、ハーゲンはクリームヒルトをたぶらかし、聴きだすことができた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
幸ひその間は戰爭つゞきで、あわただしく過してゐたせゐもあつて、別に生身なまみな男の淋しさと云ふものを味はつた事はなかつた。さうしたきざしがあれば、酒を飮んでうさをごまかしてもゐた。
崩浪亭主人 (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
「當り前さ、俺は親から貰つた生身なまみを汚すことなんか大嫌ひだよ」
生身なまみ素肌すはだの神の如
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
また後醍醐のきみとて、生身なまみでおわすからには、不予ふよのお病気わずらいや万一などもないとは限らん。そのたびには、尊氏を憎む者から、この尊氏はあらゆるむじつの疑いと悪逆の名をかぶせられよう。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生身なまみのおうらだか、ざうをんなだか、分別ふんべつかないくらゐ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
看経かんきん二タとき、巧雲は、御本尊の地蔵菩薩ぼさつまでが、いつかしら裴如海はいにょかいの色白な顔に見えてきて、るると乱れる香煙の糸もあやしく、心は故人の願解がんほどきどころか、わが生身なまみ願結がんむすびで、うつつはなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)