狼煙のろし)” の例文
鉄砲みがき組支配田付四郎兵衛景利とともに大小火砲、石火矢いしびや棒火矢ぼうびや狼煙のろし揚物あげもの、その他、火術の一般を差配することになった。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それは、狼煙のろしのように——風が無いものですから、思うさま高く伸びきって、のんのんと紅い色を天に向って流し出したのです。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とばかり軍鼓ぐんこ堂々と、東南の道へくだッて行き、その歓呼と狼煙のろしの下に、慕蓉ぼようもまた手を振ってその征途を見送ったものだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何でもこの位の眼鏡は西洋にも多度たんと御座いませんさうで、招魂社しようこんしやのお祭の時などは、狼煙のろしの人形がく見えるのでございます。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「まあ露西亜派でしょうね。僕は露西亜派でたくさんだ」と云って、松本はまた狼煙のろしのような濃い煙をぱっと口から吐いた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう今では自分の進路は、一言で言える。支那の杉田玄白になる事だ。それだけだ。支那の杉田玄白になって、支那の維新の狼煙のろしを挙げるのだ。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
が、このタイタニック号の狼煙のろしを認めた通行船はなかった。火影を認めた船はあっても、狼煙とは思わなかった。
運命のSOS (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
またはもっとこうからか、ときどきさまざまの形のぼんやりした狼煙のろしのようなものが、かわるがわるきれいな桔梗ききょういろのそらにうちあげられるのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
碩学せきがく老デリッジはこの一節を評して「暗黒中に打ちあげられし狼煙のろしの如し」というた。光明は暗黒を破って一度輝きしも、またたちまち消えて再び暗黒となった。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
能登の狼煙のろし村の山伏山やまぶしやまでは、常陸坊はこの地まできて義経と別れ、仙人になってこの山に住んだ、おりおりは山伏姿で出てきたと『能登国名跡志のとのくにめいせきし』に書いてあるが
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これに対する快味は今日の人では判るまい。なお岩城島の山頂で世子の船が見えたというと、狼煙のろしを揚げる。それから主なる島々が受継いで、三津浜の向うの興居島ごごしまに達する。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
この燃草もえぐさききが可かった。ぱっと煙が、むらむらと立つ狼煙のろしを合図に、二階から降りる気勢けはい
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
竹藪たけやぶに伏勢を張ッている村雀むらすずめはあらたに軍議を開き初め、ねや隙間すきまからり込んで来る暁の光は次第にあたりの闇を追い退け、遠山の角にはあかねの幕がわたり、遠近おちこち渓間たにまからは朝雲の狼煙のろしが立ち昇る。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
狼煙のろしのように、サルフィユの言葉は空中へ突進した。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
つづいて銅鑼どら陣鼓じんこの音が、雲を裂くかとばかり野に起ると、山上からも狼煙のろしが揚がり、山くずれのような一陣の賊兵が麓ぢかく陣をしいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこからかまたはもっと向うからかときどきさまざまの形のぼんやりした狼煙のろしのようなものが、かわるがわるきれいな桔梗ききょういろのそらにうちあげられるのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
蟻をならべた並木の筋に……蛙のごとき青田あおたの上に……かなたこなた同じ雲の峰四つ五つ、近いのは城のやぐら、遠きは狼煙のろし余波なごりに似て、ここにある身は紙鳶たこに乗って、雲のかけはし渡る心地す。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は煙草たばこ道楽と見えて、今日は大きな丸い雁首がんくびのついた木製の西洋パイプを口から離さずに、時々思い出したような濃い煙を、まだ火の消えていない証拠として、狼煙のろしのごとくぱっぱっと揚げた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
狼煙のろしのしたくをしているまには、おお、すぐそこにいる蛾次郎がじろうめが、クロの背をかりて、宙天ちゅうてんへ逃げ失せてしまうであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
円顔で頬皺ほおじわの深い口のおおきい、笑うと顔一杯になりそうな、半白眉のふっさりしたじいさま一人、かんてらの裸火の上へ煙管きせる俯向うつむけ、灰吹から狼煙のろしの上る、火気にかざして、スパスパと吸って
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
向うには勿論花で飾られた高い祭壇さいだんが設けられていました。そのとき、私は又、あの狼煙のろしの音を聞きました。はっと気がついて、私は急いでその音の方教会の裏手へ出て行って見ました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
こくもはやく合図あいず狼煙のろしをあげてしらせたいがと、あっちこっちを見まわしたのち、クロをそこへ置きすてて、いっさんにうらの小山へ登りだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飜然ひらりゆらぎ、おでん屋の屋台もかッと気競きおいが出て、白気はくきこまやかに狼煙のろしを揚げる。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
血相けっそうかえて、小山の素天すてッぺんへけあがってきた早足はやあし燕作えんさく、きッと、あたりを見まわすと、はたして、そこの粘土ねんどの地中に狼煙のろしつつがいけてあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
台場だいば停車場ステエションから半道はんみちばかり、今朝けさこの原へかゝつた時は、脚絆きゃはんひも緊乎しっかりと、草鞋わらじもさツ/\と新しい踏心地ふみごこち、一面に霧のかゝつたのも、味方の狼煙のろしのやうにいさましく踏込ふみこむと、さあ、ひとひと
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
即ち、同日同時刻、安土から揚った一柱の狼煙のろしを見て、一斉に発向した三道三軍の編制は、次の組織であった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それと共に、山の上からは、物見のあげた狼煙のろしのひびきが、全軍へわたって、急を報らせていた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、指揮を発し、全軍の豹虎ひょうこが、ふもとへ降りたと見ると、おかの一端から狼煙のろしをあげさせた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これらが蛮国王孟獲もうかくの打ち揚げた狼煙のろしによって、久しぶりに大きな刺戟を得、諸邦から軍勢をひきつれて、続々と糾合きゅうごうに応じ、たちまち雲霞うんかのごとき大軍団を成したのであった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
合図の狼煙のろしはその前にここから揚がっていたものとみえ、喨々りょうりょうたる螺声らせい、金鼓の音は、すでに孔明の三軍が近づきつつあることを告げ、それを知るや禿龍洞とくりょうどうの大兵も、先を争って
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泊中はなんとも毎日なごやかで、水寨すいさいに矢たけびなく、烽火台のろしだい狼煙のろしの音もしなかった。しかし、中央から地方へかけて官軍のうごきは、決して万里春風ばんりしゅんぷうの山野、そのままではなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、河口の警備隊は、これをつな狼煙のろしで、沿岸の味方へ報らせた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
轟然ごうぜんと、一発の狼煙のろしは、天地をゆすぶった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——狼煙のろし! 狼煙!」
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)