きらめ)” の例文
のらに向かッて壁のようにたつ林の一面はすべてざわざわざわつき、細末の玉のくずを散らしたようにきらめきはしないがちらついていた。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
空が瑠璃のやうに奇麗に晴渡はれわたツて、星が降るやうにきらめいている晩に、螢を追駈廻してゐるのは、何樣どんなに愉快な事であツたらう。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
甚兵衛の太刀先を相手が避けて、飛び退すざったはずみに、二人の位置が東西になったと思うと、敵の十字架に、折柄入りかかる夕日がきらめいた。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのたもとに触れ、手に触り、寄ったり、放れたり、筋違すじちがい退いたり、背後うしろへ出たり、附いて廻って弥吉は、きょろきょろ、目ばかりきらめかして黙然だんまりで。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこには、拳銃ピストル使用の許可証と同時に、丁抹内務大臣によって下付される、王冠と獅子ライオンと白鳥を組み合わせた銀の小型の探偵章が、燦然さんぜんきらめいている。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
須臾しゅゆの間、昼の陽を銀や紅の面にきらめかして忽ち人々の手に拾われる紙の蓮華、煩悩菩提を愛の両面に煌かして忽ちに無可有に入る人の子、女のいのち。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
チカチカチカときらめくなり、まるで映写中のフィルムが切れたときのように、博士の顔がパッと消えて、あとには透明な硝子板のほかになんにも見えなくなった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
心配なのは、くさめせきをすることだ。彼は息をころす。そして、目をあげると、戸の上の小さな窓から、星が三つ四つ見える。え渡ったきらめきに、彼はすくみあがる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
かのわが寶のほゝゑむ姿を包みし光は、まづ日の光にあたる黄金こがねの鏡のごとくきらめき 一二一—一二三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
太田ミサコの黒いスカートが冷たい路上で地下の電光に白くきらめいた。彼女の横顔が官衙かんがと銀行と、店舗のたちならんだ中央街の支那ホテルのまえまでくると細かくふるえた。
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
無論あかるい真昼間の出来事で、赤熱した砂浜が、ひろくピカピカときらめいてゐたのです。
帆影 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
故枝太郎の「島原八景」は朧夜おぼろよの百目蝋燭の灯影ほかげきらめく大夫のかんざしのピラピラが浮き彫りにされ、故枝雀の「野崎詣」は枝さし交わす土手の桜に夏近い日の河内平野が薄青く見えた
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)
膝ノ上ニキャッツアイヲきらめカシツヽ座布団ノ上ニ横ッ坐リニ坐ッタマヽデアル。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
仏壇は大きい立派なもので、ともされた蝋燭ろうそくの光に、よくみがかれた仏具や仏像が金色にぴかぴかときらめいていた。木之助はその前に冷えたひざそろえてすわると、かれたこうがしめっぽくにおった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
灯のともった切抜万燈のように、沢山の窓があり、その内部は燈火できらめいている。カーテンの引いてない一つの窓から、凍ったような外気越しに、若い女の頭や、白い上衣の肩がちらちら見えた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
きらめく火の粉を吹き散らしながら
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
あざやかなきらめきの夢を抱く
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
「誰が、彼處あすこ彼様あんないとをかけたのだらう。」と周三は考へた。途端とたんに日はパツとかゞやいて、無花果の葉は緑のしづくこぼるかと思はれるばかり、鮮麗にきらめく。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
墓の形が穹窿アーチ形に、あかがねや青銅、そして中には金と覚しく、陽光を受けて燦然さんぜんきらめいているのもあった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
上にありて堅き第三の段は斑岩はんがんとみえ、脈より迸る血汐のごとく赤くきらめけり 一〇〇—一〇二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
哲学者は直ちに霊前に合掌してこれを誓い、柳沢は卵塔の背後うしろに粛然としてうなずいたが、一人竜田は、柳沢の胸にその紅顔を押当てて落涙しつつかぶりった。星はその時きらめいたであろう。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるいは畑のかなたの萱原に身を横たえ、強く吹く北風を、積み重ねた枯草でけながら、南の空をめぐる日の微温ぬるき光に顔をさらして畑の横の林が風にざわつききらめき輝くのを眺むべきか。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
きらめき、波立つ光の上を
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
待乳山まつちやまの若葉は何うかすると眼映しいやうにきらめいて、其の鮮麗せんれい淺緑あさみどりの影が薄ツすりと此の室まで流れ込む。不圖カン/\鰐口わにぐちの鳴る音が耳に入る。古風な響だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そこに花綵はなづなを巻いて、微風は袖を翻し、裳裾をなびかせ、しかもゆったりと腰に纏うた飾帯の金銀宝石が陽の光にきらめいて、さながら、これも名彫刻から脱け出てきたような
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
金絲のぬひはくをした上衣うはぎきらめかして大買人おほあきんどもあれば、おもさうな荷物を脊負しよつてゆく人足にんそくもある、香料かうれうたへなるかほりり/\生温なまぬくい風につれてはなを打つ、兒童こども極樂ごくらくへでもつた氣になつて
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
翼が生えたやうに宙にフワ/\して、何か知ら金色こんじきの光がキラ/\と眼の先にきらめく。と、其が鋭利な物になツて眼の中に突ツ込むで來る。其處で幻が覺めかゝツて、強く腕のしびれを感じた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
何しろ六月から七月へかけて、螢の出る季節ときになると、自分の村は螢の光で明るい……だから、日が暮れて、新樹の木立こだちの上に、宵の明星があざやかな光できらめき出すのを合圖で、彼方あつちでも、此方こつちでも盛に
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
氣が妙にうはついて來て、フワ/\と宙でも歩いてゐるかの心地ここち。で車の響、人の顔、日光に反射する軒燈の硝子のきらめき、眼前にチラ/\する物の影物の音が都て自分とは遠くへだツてゐるかと思はれる。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
まるで水晶のやうにきらめく。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)