無手むず)” の例文
雨戸を一枚蹴開けひらいて、其儘朧銀おぼろぎんの夜の庭へ、怪鳥の如く飛降りるのを待つてましたとばかり、下から無手むずと飛付いたものがあります。
彌次馬の聲援、畢竟は我が味方と、芳は勇み立つて、無手むずと對手の襟髮を掴むや、馬手めての下駄は宙を飛んで、その頬桁ほほげたを見舞はんとす。
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
言畢いひをはつて、かたけ、ゆきなすむねだらけの無手むずき、よこつかんで、ニタ/\とわらふ。……とたぼ可厭いとはず、うなじせななびいてえる。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それはイガ栗頭の黒木繁であったが、毛ムクジャラの両腕を引き曲げて、寝巻の胸に沈み込んだメスの柄を、品夫の右腕と一緒に無手むずと掴んだ。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ひょろひょろころげかけるところを無手むずと私のえりをひっつかまえて、まるでさいかわらの子供が鬼にふんづかまえられて行くような具合に、柵外へつかみ出されてしまった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
床前の白綸子のしとねに僧形の三斎は、無手むずと坐って、会釈えしゃくも無く、閾際しきいぎわに遠慮深く坐った平馬と、その傍に、膝こそ揃えているが、のほほんと、目も伏せていない
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
たちまち武男は無手むずとわが手を握られ、ふり仰げば、涙を浮かべし片岡中将の双眼と相対あいむかいぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
お銀様が驚いて飛び上ろうとするのを、主膳は無手むずと押えてしまいました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
脱けても知らずに口をいて、小さな舌を出したなりで、一向正体がない……其時忽ち暗黒くらやみから、茸々もじゃもじゃと毛の生えた、節くれ立った大きな腕がヌッと出て、正体なく寝入っている所を無手むず引掴ひッつか
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そをやう/\にへ忍びて、心も危ふく御酌おしゃくに立ち候ひしに、御盃の数いく程も無きうちに、無手むずと妾の手をり給ひつ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二つ、三つ、五つ、曲者は額と頤と、てのひらを打たれひるむところを、力自慢の八五郎が、後から無手むずと組み付いたのです。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
婦人おんな右手めて差伸さしのばして、結立ゆいたて一筋ひとすじも乱れない、お辻の高島田を無手むずつかんで、づツと立つた。手荒さ、はげしさ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いうより早く隣席にありし武男が手をば無手むずと握りて二三度打ちふりぬ。同時に一座は総立ちになりて手を握りつ、握られつ、皿は二個三個からからとテーブルの下にまろび落ちたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
其處にマゴマゴして、追ひ詰められた鼠のやうに、逃げ路を搜して居た彌吉は、ガラツ八の手に無手むず襟髮えりがみを掴まれたことは言ふ迄もありません。
と叫んで椅子から跳ね起きて、さっと頬を染めながら私を突きけて逃げ出そうとした。その右手を私は無手むずと捕えた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
好接異客このんでいかくにせつす、はいが、お追從連つゐしようれん眼下がんかならべて、自分じぶん上段じやうだんとこまへ無手むずなほり、金屏風きんびやうぶ御威光ごゐくわうかゞやかして、二十人前にじふにんまへぬりばかり見事みごとぜん青芋莄あをずゐき酢和すあへで、どぶろくで
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……われを忘れて立上った。爪先走りに切戸のかたわらに駈け寄って、白木の膳を差入れている、赤い、丸々と肥った女の腕をねらいすまして無手むずと引っ掴んだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
馬場要は無手むずと膝を掴みました。もう一言言ひ過ぎたら、平次を拔き討ちにやつ付けたかも知れません。
銭形平次捕物控:050 碁敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
百人長は毛脛けずねをかかげて、李花の腹部を無手むずまへ、ぢろりと此方こなた流眄しりめに懸けたり。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
八五郎はその前へ、火鉢を挾んで無手むずと坐りました。女と差向ひになると、妙に固くなる八五郎です。
……鷹揚おうやうに、しか手馴てなれて、迅速じんそく結束けつそくてた紳士しんしは、ためむなしく待構まちかまへてたらしい兩手りやうてにづかりと左右ひだりみぎ二人ふたりをんなの、頸上えりがみおもふあたりを無手むずつかんで引立ひつたてる、と
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
無手むずと私の両手を掴みながら、抱き寄せるようにして湯の中から引っぱり出した。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お富は繩を打たれないばかり、八五郎に無手むずと腕を押へられて、ツイ艶めかしい悲鳴をあげるのです。
と眼を丸くして見上げ見下ろす祖父の手首を与一は両手で無手むずと掴んだ。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
石地蔵いしじぞう無手むず胡坐あぐらしてござります。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八五郎は疾風しっぷうの如く飛んで行くと、畑を突っきって逃げて行く男の後ろから、無手むずと組みつきました。
肩を無手むずと取ると
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
不意に、木戸に隱れて居たガラツ八、飛出さうとする清次の後ろから、無手むずと組み付きました。
娘お駒の視線に追はれて、パツと逃出した男は、八五郎の糞力くそぢから無手むずと組付かれました。
その後ろから無手むずと組付いたのは、ガラツ八の八五郎でなくて誰であるものでせう。
咄嗟とつさの間に、飛出さうとする女は、八五郎の馬鹿力に、無手むずと押へられたのです。
群衆の中から八五郎が飛出して、曲者の後ろから、無手むずと組み付いたのです。
平次は小さい方を追ふと見せて、實は大きい方の影へ無手むずと組み付きました。
曲者の匕首を持つた手は無手むずつかまれました。ぎやくひねつて膝の下に敷くと
無手むずと手首などをつかんで、引っ立てるような恰好でつれて来たのです。
ガラツ八は漸く葛籠つゞらをハネ開けて、曲者の後から無手むずと組付きます。
パツと飛ぶのを、平次の十手は後ろから無手むずとその肩を押へました。
後ろから伸びた八五郎の手は、その帶際を無手むずと掴みました。
縁側で待機して居た八五郎は、無手むずとそれに組付きました。
ひるむ後ろから、無手むずとガラツ八が組付いて居たのです。
八五郎が無手むずと組み付いたのです。