ゆあ)” の例文
夜おそく、人々が寝静まつたのを見定めてから、馬小屋の隣りにある浴室で、闇の中でミツキイはゆあみをしなければならなかつた。
誠にさなり、彼は病客なるべきをと心釈こころとけては、はや目も遣らずなりけるひまに、男はゆあみ果てて、貸浴衣かしゆかた引絡ひきまとひつつ出で行きけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ニンフがそこでゆあみをする時、爪先からそろそろと水底の小砂利を踏んではいっていってこそ、ニンフ水浴の図になる。
温泉2 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
よく見ればいかにも女だ。しかし、すぐゆあみをするようにかがんだかと思うと、その姿が水中に消えてしまったのだ。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
産婆は三日間来ただけで、あとはおときがゆあみをさせた。惣吉が生れた時そっくりの、眼の大きな女の子である。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
鉄砲疵てツぱうきづのございますさるだの、貴僧あなたあしつた五位鷺ごゐさぎ種々いろ/\ものゆあみにまゐりますから足痕あしあとがけみち出来できますくらゐきツそれいたのでございませう。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おみおつけの海に抜手ぬきてを切るべく、お米の御飯の山を跋渉ばっしょうすべく、はたまたお醤油の滝にゆあみすべく——。
一風呂ひとふろゆあみに二人は今日の疲れをいやし、二階の表に立って、別天地の幽邃ゆうすいに対した、温良な青年清秀な佳人、今は決してあわれなかわいそうな二人ではない。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
古インドの叙事詩『バガヴァッド・ギーター』の巨大にして宇宙的な哲理にわたしの知性をゆあみさせる。
洒落しゃれ潔癖けっぺきからのものではなく、少年の頃、逆境と漂泊のあかにまみれて、ふた月も三月も、湯になどゆあみしなかったことはままあったので、その当時の慾望が
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆあみしてしかる後に適度な温度の中で(この温度という奴が僕には一番大切だ)、仰向けに寝ころんで(寝ころぶという姿勢は重力に対して最小の努力で抵抗できる)
伊豆の国にて (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
普通柏木辺かしわぎあたりの人は、入の波の川のふちいている温泉へゆあみに行って、あそこから引き返して来る。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「女これかれゆあみなどせむとて、あたりの宜しき所に下りて往く云々、何の葦影にことづけて、ほやのつまのいずし、すしあはびをぞ、心にもあらぬはぎにあげて見せける」
死灰再燃しかいさいねん、人も同様、身体が弱れば食物しょくもつを変えたり、転地療治りょうじをしたり、温泉にゆあみしたりして健康を回復するが、住居も変えず、居ながらにして心的境遇を一変する方法もあろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
花を墓に、墓に口を接吻くちづけして、きわれを、ひたふるに嘆きたる女王は、浴湯をこそと召す。ゆあみしたるのち夕餉ゆうげをこそと召す。この時いやしき厠卒こものありて小さきかご無花果いちじくを盛りて参らす。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
微塵みじんも汚れのない、雪のように肌の浄い乙女がどこからともなく来て、裸体になって、その丈にあまる黒髪をも洗わせながら、ゆあみをしようではあるまいか、何故といって、秘密の美しさは
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
吹く風にゆあみすべし。[#「浴みすべし。」は底本では「浴みすべし。」]
さうして家族かぞくぼつしたにしても何時いつになくまだあかるいうちゆあみをしてをんなまでがいた菖蒲しやうぶかみいて、せはしいあひだをそれでも晴衣はれぎ姿すがたになる端午たんごるのをものうげにつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ゆあみしている昔の美女の大理石像を思わせました。
やはらかにゆあみする女子のにほひのごとく
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
お前は この光のなかに悲しげにゆあみして
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
ゆあみしてりかゝる
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
いずれの隙間すきまからか雪とともに、鷺がち込んでゆあみしたろう、とそうさえ思ったほどであった。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乱世に立って、群盗乱臣を平らげ、風にくしけずり雨にゆあみし給うなど、三十余年、万民のために、また漢朝のために、身をくだかれて来たことは、ひとしく天人ともに知るところです。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてそこでゆあみしたこともなく、それを愛したこともなく、それを保護したこともなく、それについて善い評判をしたこともなく、神がそれを造ったことを感謝したこともない。
古いストル・トルグの広場——一五二〇年丁抹デンマアクの暴王クリスチャン二世がここでスウェイデンの貴族達を虐殺したという、歴史に有名な「血のゆあみ」のあと。株式取引所のまえだ。黒い石畳。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
ひと日ゆあみし肺病の女の肌を忍ぶごとく
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
鉄砲疵てっぽうきずのございます猿だの、貴僧あなた、足を折った五位鷺ごいさぎ種々いろいろなものがゆあみに参りますからその足跡あしあとがけの路が出来ますくらい、きっとそれが利いたのでございましょう。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
池まで出かけてゆあみし、飲むかわりに、少なくともガンジス河のごとく神聖であるべきその水をパイプで村まで引き、それで自分たちの皿を洗おうともくろんでいる!——栓をひねり