機会はずみ)” の例文
旧字:機會
或日それをひそかに持出しコツコツ悪戯して遊んで居たところ、重さは重し力は無し、あやまって如何なる機会はずみにか膝頭を斬りました。
少年時代 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と、地面じべたのたくつた太い木根につまづいて、其機会はずみにまだ新しい下駄の鼻緒が、フツリとれた。チヨツと舌鼓したうちして蹲踞しやがんだが、幻想まぼろしあともなし。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ある日のこと、フトした機会はずみから出札の河合が、千代子の身の上についてややくわしい話を自慢らしく話しているのを聞いた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
彼と握手をする時うした機会はずみか僕の足が老人と話して居た若い詩人の卓の下に引掛ひきかゝつてその上のさかづきが高い音を立ててひつくりかへつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
最後に乗せられたお杉の亡骸は、既に頂上までとどいたと思う頃、うした機会はずみその畚は斜めに傾いて、亡骸は再び遠い底へ真逆様まっさかさまに転げ落ちた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は実に先生をこの雑沓ざっとうあいだに見付け出したのである。その時海岸には掛茶屋かけぢゃやが二軒あった。私はふとした機会はずみからその一軒の方に行きれていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春日新九郎は、何の機会はずみかぽかりと眼を開いた——そしてその瞳をだんだん大きくみひらいていた。瞬きもせずに——
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
種彦はどういう機会はずみかわが身の今日こんにちと彼れ遠山の今日とを思比べて、当世の旗本風情ふぜいにもまだまだあんな立派な考えを持っているものがあるのか知らと思うと
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何かの機会はずみに、はっとこの言葉を思い出すと、胸を刺されるような痛みを覚えますが、それでも暫くするとおかしくなって、弁信さんらしい取越し苦労を笑います。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
所がどうかした機会はずみで、急に快活に陽気になることがある。その時の僕の心持は丁度、今まで曇ってた空が俄に晴れて、美しい日の光が一面に降り注いでくるようなものだ。
白日夢 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
どうした機会はずみか少なくとも横にいた乗客の二、三が中心を失って倒れかかってきたためでもあろうが、令嬢の美にうっとりとしていたかれの手が真鍮の棒から離れたと同時に
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
機会はずみと申すは希代なもので、竹がその腰をつきます時に、ほうりましたお膳でございますが、窓からぽんと物干の上へ飛び出しまして、何と、小皿もはしも、お茶碗なんざふたをいたしましたままで
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が来ていたが、何かの話が途切れた機会はずみに、長田が
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
どうした機会はずみやら、をりをり
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
うした機会はずみかカ君の剣が中程から折れて敵手てきしゆの上に飛んだ。その刹那せつな人人は鋒尖きつさき必定ひつぢやうマス君の腹部を突通つきとほしたと信じた。中止の号令がくだつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
静子は、うした機会はずみからか、吉野と初めて逢つた時からの事を話し出して、そして、かの写生帖の事までも仄めかした。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
三千代と口をき出したのは、どんな機会はずみであったか、今では代助の記憶に残っていない。残っていない程、瑣末さまつな尋常の出来事から起ったのだろう。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
細君が静かに酌をしようとしたとき、主人の手はややふるえて徳利の口へカチンと当ったが、いかなる機会はずみか、猪口は主人の手をスルリとけて縁に落ちた。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私はどうした機会はずみ大槻芳雄おおつきよしおという学生のことを思い浮べて、空想はとめどもなく私の胸にあふれていた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
くうを撃ったお杉は力余って、思わず一足前へ蹌踉よろめ機会はずみに、おそらく岩角につまずいたのであろう、身をひるがえして穴の底へ真逆さまに転げちた。蝋燭は消えて真の闇となった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それが何かの機会はずみ浮浪さすらいの旅役者の手に移り、海を越えて、この女興行師の手に渡って、珍しい絵看板同様の扱いを受けつつ、卓犖たくらくたる旅絵師の眼前に展開せられたものとしたら
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
樹の間からいて出たような例の姿を、通りがかりに一見し、みまもり瞻り、つい一足歩行あるいた、……その機会はずみに、くだんの桃の木に隠れたので、今でも真正面まっしょうめんへちょっと戻れば、立処たちどころにまた消えせよう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
辞退をしてその席へ顔を出す不面目だけはやっとまぬかれたようなものの、その晩主人が何かの機会はずみについ自分の名を二人にらさないとは限らなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
の御総領の若様が五歳いつつになった時、ある日アノ窓のそばで遊んでいるうち、どうした機会はずみの窓の口から真逆まっさかさまに転げちて、敷石でくびの骨を強くったからたまりません
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わが作りたる者なれどあくまでおぼきったる珠運ゾッと総身の毛もたち呼吸いきをも忘れ居たりしが、猛然として思いかえせば、こったるひとみキラリと動く機会はずみに面色たちまち変り、エイ這顔しゃっつらの美しさに迷う物かは
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうして鰡八という奴のつらは、どんな面をしているか、一目なりとも見てやりたいものだと余念なく櫓の上に立っていると、どうした機会はずみか、今まで締めきってあった雨戸がサラリとあきました。
板に上ると、その機会はずみに、黒雲を捲起まきおこして、震動雷電……
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、何かの機会はずみで、平生いつも通りの打ち解けた遠慮のない気分が復活したので、その中に引き込まれた矢先、つい何の気もつかずに使ってしまったのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何かの機会はずみに小耳にはさんでおきたかったが、いよいよ話がまとまらないとなると、男女なんにょの問答は自然ほかへ移らなければならないので、当分その望みも絶えてしまった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼が満堂の注意を一身に集めて、衆人の間をあちこち徘徊はいかいしているうち、どういう機会はずみか自分の手巾ハンケチを足のもとへ落した。混雑の際と見えて、彼はもとより、はたのものもいっこうそれに気がつかずにいた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)