枯野かれの)” の例文
跡にて口善惡くちさがなき女房共は、少將殿こそ深山木みやまぎの中の楊梅、足助殿あすけどのこそ枯野かれの小松こまつ、何れ花もも有る武士ものゝふよなどと言い合へりける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
老人と少年と、立てられた自転車が、広い枯野かれのの上にかげを落として、しばらく美しい音楽にきき入った。老人は目になみだをうかべた。
うた時計 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
素直に伸びたのを其のまゝでつけた白髪しらがそれよりも、なお多いのははだしわで、就中なかんずく最も深く刻まれたのが、を低く、ちょうど糸車を前に、枯野かれのの末に
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
人穴城ひとあなじょうの火が、枯野かれのへ燃えひろがって、いちめんの火ですよ、そのために、徳川勢とくがわぜい武田方たけだがた合戦かっせんは、両陣ひき分けになったかと聞きましたが、人穴城から焼けだされた野武士のぶし
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たいした雪でもなかったが、退屈していた資盛は、雪にかこつけて、枯野かれの鷹狩たかがりに出かけていった。年頃も、同じ程度のいずれおとらぬ、腕白共を従え、京に帰ってきたのは、既に日暮れ方である。
こおろぎの細々ほそぼそれて、かぜみだれる芒叢すすきむらに、三つ四つ五つ、子雀こすずめうさまも、いとどあわれのあきながら、ここ谷中やなか草道くさみちばかりは、枯野かれの落葉おちばかげさえなく、四季しきわかたずうた
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
わが漂泊の詩人芭蕉ばしょうは『旅に病んで夢は枯野かれのをかけめぐる』
てら/\と石に日の照る枯野かれのかな
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
なぎさけし芭蕉ばせをざしにかざあふぎらずや。ほゝかひなあせばみたる、そでへる古襷ふるだすきは、枯野かれのくさせたれども、うらわかえんとす。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もう、こずえのすがたは見えなかった。白い枯野かれの朝靄あさもやから、からすが立ってゆく。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蕭条しょうじょうとして石に日の入る枯野かれのかな
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
たとひ今は世に亡き人にもせよ、正に自分の恋人であればだけれども、可怪おかし枯野かれのの妖魔が振舞ふるまい、我とともに死なんといふもの、恐らく案山子かかしいだ古蓑ふるみの
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
枯野かれのひえ一幅ひとはばに細く肩のすきへ入つたので、しつかと引寄せた下着のせな綿わたもないのにあたたかうでへ触れたと思ふと、足を包んだもすそが揺れて、絵の婦人おんなの、片膝かたひざ立てたやうなしわ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
中途ちうとちるのは、とゞかないので。砂利じやりが、病院びやうゐん裏門うらもんの、あの日中ひなか陰氣いんきな、枯野かれのしづむとつた、さびしいあか土塀どべいへ、トン……と……あひいては、トーンとあたるんです。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)