暫時しばら)” の例文
……「一体何処に何うしているんだろう?」と、また暫時しばら其様そんなことを思い沈んでいたが、……お宮も何処かへ行って了うと、言う。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それから二人は暫時しばらく無言で歩いていると先へ行った川村の連中が、がやがやと騒ぎながら帰って来たので、一緒に連れ立って宿に帰った。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
致すと尋ねられしに勘兵衞ハツといひきり暫時しばら返答へんたふ出來ざりしがやうや季節ときの物を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
倉蔵は目礼したまま大急ぎで庭の方へわった。村長は腕を組んで暫時しばらく考えていたが歎息ためいきをして、自分の家の方へ引返ひっかえした。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
れたならば市之丞が折角のこゝろざしも通りまた貴郎あなたの御義心もつらぬくと申もの双方さうはうの御趣意も立て宜く候まゝ是非々々然樣さやうなされよと申ければ文右衞門は暫時しばらく考へしが成程是は其方そなたの申通り一時の融通ゆうづうに此金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
暫時しばらくすると箱根はこね峻嶺しゆんれいからあめおろしてた、きりのやうなあめなゝめぼくかすめてぶ。あたまうへ草山くさやま灰色はひいろくもれ/″\になつてはしる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
少女は此二階家の前に来ると暫時しばら佇止たちどまって居たが、窓を見上げて「江藤えとうさん」と小声で呼んだ、窓は少しあいていて、薄赤い光が煤にきばんだ障子に映じている。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
舟は暫時しばらく大船小船六七さうの間を縫ふて進んで居たが間もなく廣々とした沖合に出た。月は益々冴えて秋の夜かと思はれるばかり、女は漕手こぐてとゞめて僕の傍に坐つた。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一寸ちよつとお待ち下さい、少し心当りがありますから。」と言ひ捨てゝ室を去つた。暫時しばらくして立還たちかへ
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
親父おやぢさんいたくちふさがらない。暫時しばら我兒わがこかほつめて居たが『それはおまへ本氣ほんきか。』
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そこで直ぐは帰らず山内のむしい所をってぶらぶら歩るき、何時いつの間にか、丸山の上に出ましたから、ベンチに腰をかけて暫時しばら凝然じっと品川の沖の空をながめていました。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
心持こゝろもちになつて、自分じぶん暫時しばらくぢつとしてたが、突然とつぜん、さうだ自分じぶんもチヨークでいてやう、さうだといふ一ねんたれたので、其儘そのまゝいそいでうちへり、ちゝゆるし
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「うん……」と細川は暫時しばらく考えていたが、「お梅さんに宜しく言っておくれ」
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
い心持になって、自分は暫時しばらくじっとしていたが、突然、そうだ自分もチョークで画いて見よう、そうだという一念に打たれたので、そのまま飛び起き急いでうちに帰えり、父のゆるしを得て
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
づ二だいの三等車とうしやつぎに二等車とうしやが一だいこのだいが一れつになつてゴロ/\と停車場ていしやぢやうて、暫時しばらくは小田原をだはら場末ばすゑ家立いへなみあひだのぼりにはひとくだりにはくるまはしり、はしとき喇叭らつぱいてすゝんだ。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
意外なのは暫時しばらあわぬ中に全然すっかり元気が衰えたことである、元気が衰えたと云うよりか殆ど我が折れて了って貴所の所謂いわゆる富岡氏、極く世間並の物の能く通暁わかった老人にって了ったことである
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
父は暫時しばらく腕組をして考えて居ましたが、おもむろに顔を上げて
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
此處こゝまた暫時しばらたされるのか。』
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
暫時しばらく誰も黙っていたが
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)