揉込もみこ)” の例文
頬桁ほおげたへ両手をぴったり、慌てて目金の柄を、鼻筋へ揉込もみこむと、睫毛まつげおさえ込んで、驚いて、指の尖をくぐらして、まぶたこすって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて針医の揉込もみこむ針はくびの真中あたりへ入り、肩へ入り、背骨の両側へも入った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
此奴こいつら、大地震の時は弱ったぞ——ついばんで、はしで、仔の口へ、押込おしこ揉込もみこむようにするのが、およたまらないと言った形で、頬摺ほおずりをするように見える。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わ、と立騒ぐ群集ぐんじゅの中へ、丸官の影は揉込もみこまれた。一人かれのみならず、もの見高く、推掛おしかかった両側の千人は、一斉に動揺どよみを立て、悲鳴を揚げて、泣く、叫ぶ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
噛り着いていた小児こどもは、それなり、薄青い襟を分けて、真白な胸の中へ、頬も口も揉込もみこむと、恍惚うっとりとなって、もう一度、ひょいと母親の腹の内へ安置されおわんぬで
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それたゞくるしいので、なんですか夢中むちうでしたが、いまでもおぼえてりますのは、其時そのとききりを、貴方あなた身節みふし揉込もみこまれるやうに、手足てあしむねはらへも、ぶる/\とひゞきましたのは
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
突然いきなりどんつくの諸膚もろはだいだいきほひで、引込ひつこんだとおもふと、ひげがうめかた面當つらあてなり、うでしごきに機關ぜんまいけて、こゝ先途せんど熱湯ねつたうむ、揉込もみこむ、三助さんすけ意氣いき湯煙ゆげむりてて
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すでひざつて、かじいて小兒こどもは、それなり、薄青うすあをえりけて、眞白まつしろむねなかへ、ほゝくち揉込もみこむと、恍惚うつとりつて、一度いちど、ひよいと母親はゝおやはらうち安置あんちされをはんぬで
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たかだか目的地まで三時間に足りないのだけれど、退屈だなと思いましたが、どうして、退屈などと云う贅沢は言っていられない、品川でまた一もみ揉込もみこんだので、苦しいのが先に立ちます。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飛びもしないのに、おやおやと人間の目にも隠れるのを、……こう捜すと、いまいた塀の笠木かさぎの、すぐ裏へ、頭を揉込もみこむようにして縦に附着くッついているのである。脚がかりもないのにたくみなもので。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ものの切尖きっさきせたおとがいから、耳の根へかけて胡麻塩髯ごましおひげが栗のいがのように、すくすく、頬肉ほおじしがっくりと落ち、小鼻が出て、窪んだ目が赤味走って、額のしわは小さな天窓あたま揉込もみこんだごとく刻んで深い。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口のつぼみが動いたと思うと、睫毛まつげが濃くなって、ほろりとして、振返ると、まだそこに、看護婦が立っているので、慌ててたもとを取って、揉込もみこむように顔を隠すと、美しい眉のはずれから、ふりひるがえって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)