捕虜とりこ)” の例文
大将は篝火かがりびで自分の顔を見て、死ぬか生きるかと聞いた。これはその頃の習慣で、捕虜とりこにはだれでも一応はこう聞いたものである。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
生きて八上の城へせ帰ったものは、十人に足らなかったろう。——その余の小者はすべて明るいうちに捕虜とりことなっていたものだった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まるで自分はていのいい捕虜とりこ……気をひきしめねば、と自らをはげましつつも、源三郎、いつしか眼の皮がだるくなってくるので。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「まず来年の春までは、雪も氷も解けはしませぬ。そのうちじゅうはあなた様には、この家の捕虜とりこにござります。そうご観念あそばされませ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「わかりそうなものではないか。宇宙を快速で飛ぶ力のある本艇を捕虜とりこにすることができる『相手』だ。ただ者ではない。もうわかったろう」
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、こまったことに、わたくしどもがこちらから人間にんげん世界せかいのぞきますと、つまらぬ野天狗のてんぐ捕虜とりこになっている方々かたがた随分ずいぶん沢山たくさんられますようで……。
落胆の沼に陥り、絶望の城に捕虜とりこになったかと思うと、いつの間にやら、また享楽の都を通る旅人になっているのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
もし私に性來の臆病と、一種の自尊心とが無かつたら、早く私は少年らしい好奇心の捕虜とりこと成つたかも知れません。
そのうちに日が暮れかかると、草むらから幾人の男があらわれて、有無うむをいわさずに彼を捕虜とりこにしてき去った。
そして、彼女は自分の固定観念の捕虜とりことなった。これまで彼女は、いかに苦しんだとは言え、オリヴィエと別れることをかつて頭に浮かべはしなかった。
意気地いくじもなく捕虜とりこになって、生命いのちおしさに降参して、味方のことはうっちゃってな、支那人チャンチャンの介抱をした。そのまた尽力というものが、一通りならないのだ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして普魯西プロシヤ捕虜とりこになつてゐる甥の名前と収容所の所書ところがきとを渡すと、それから一週間ほど経つて、甥は不具かたはになつた捕虜の幾人いくたりと一緒に瑞西に送り帰されて来た。
生田葵山と恒川陽一郎とが、めい/\半玉を捕虜とりこにして膝の上に乗せながら、乙に澄まして椅子にかけてゐた。「なんでえ、あのざまは」と、われ/\は又悪口を云つた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
色の浅黒さと、眼元の涼しさと、そして聡明らしさから来る抜群の魅力と、健康と野性と、情熱で醸し出された不思議の肉感が、若い殿様をグイグイと捕虜とりこにしてゆきます。
いや現に、洵吉自身ですら、タッタ一度、二三時間の訪問で、すっかり水木の捕虜とりことなり、彼の意のままに、奇怪な写真の創造に欣々と、従う一個の傀儡かいらいとなってしまっているではないか……。
魔像 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
民はみなかちどきあげぬ美しき捕虜とりこの馬車のまづ見えしとき
短歌 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
そして親切な言葉が人を捕虜とりこにしないところへ
「それは貴女を捕虜とりこにする手段さ」
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
かれに映じた女の姿勢は、自然の経過を、尤もうつくしい刹那に、捕虜とりこにして動けなくした様である。かはらない所に、ながい慰藉がある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして、階下の一方にうずくまっている捕虜とりこの呂布へ、冷然と一べんを与えると、自身、白門楼の長い石段を降って、——下なる首の座に坐った。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信徒は恐怖に麻痺しびれながら、尚遁がれようともがいたものの、それほんの一瞬で、見る見るうちにグッタリとなった。完全に捕虜とりことされたのである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
意気地もなく捕虜とりこになつて、生命いのちが惜さに降参して、味方のことはうつちやつてな、支那人チャンチャン介抱かいほうをした。そのまた尽力といふものが、一通りならないのだ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
卒は遂に彼を捕虜とりこにして、川のなかに坐らせました。その様子がただの人らしくないと思ったので、画工は走って廟中の人びとに訴えると、大勢が出て来ました。
鉄火てっかとはいえ、女の手だけでどうしてあの重囲じゅういを切り抜けて、ここにこうして、今つづみの与吉を、なかば色仕掛いろじかけで柔らかい捕虜とりこにしようとしているのであろう。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
世辭愛嬌せじあいけうも申分なく、それよりも男を惹きつける、不思議な魅力があつて、この女に接近する者は、どんなに道心堅固でも、最後には他愛もなく捕虜とりこにされ、金も精氣もくらひ盡されて
怪星ガンの捕虜とりこになってしまったというのだ。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼の目に映じた女の姿勢は、自然の経過を、もっとも美しい刹那せつなに、捕虜とりこにして動けなくしたようである。変らないところに、長い慰謝がある。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ご安心ください。彼らも、私の勧告に従って、兵戦を休め、沢山な捕虜とりこをみな放してよこしました」と、奏上した。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うまうま捕虜とりこにされたんだからねえ。お前さんも随分別嬪だよ、そこでこの娘を片付けたら、今度はお前さんの番だとさ。太郎丸様が味わうそうだよ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのうちの数人がたきぎを採りに上陸すると、島びとに見つけられて早々に逃げ帰ったが、その一人は便所へ行っていたために逃げおくれて、遂にかれらの捕虜とりことなった。
丁度ちょうど自分が捕虜とりこになつて、敵陣にゐました間に、幸ひ依頼をうけましたから、敵の病兵を預りました。出来得る限り尽力をして、好結果を得ませんと、赤十字の名折なおれになる。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すつかり捕虜とりこにして了ひ、最初は町々の寄席よせを歩いて居りましたが、凄まじい人氣に押しあげられて、三月になると兩國に小屋を借り、『娘手踊栗唐一座』といふ大看板だいかんばんを掲げてしまひました。
汝らが迅速なれば、その襟がみをつかんで、彼奴あやつ捕虜とりことなすこともできる。——それっ、近づいてきた。かかれっ
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
究竟くっきょう捕虜とりこがしはせぬ! 引っ捕えてさか磔刑はりつけ、その覚悟あって参ったか? 返答致せ、えい、どうじゃ⁉
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
進んでその手をると、お葉は拒みもせずにふらふらとあがった。お杉は捕虜とりこを窟の暗い奥へ連れ込んでしまった。焚火に映る重太郎の顔は、火よりも熱して赤く見えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ちょうど自分が捕虜とりこになって、敵陣に居ました間に、幸い依頼をうけましたから、敵の病兵を預りました。出来得る限り尽力をして、好結果を得ませんと、赤十字の名折なおれになる。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「せめて、口にでも、恋しいというて、我慢のうさをはらしたまでよ。——時に、捕虜とりこの善性坊はどうしておるな」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……最初俺達は敵の大将ホーキンの子供を捕虜とりこにした。そこで俺達は考えた。このジョンという子伜こせがれめをどうぞうまくおとりにつかって敵の大将をおびき出したいとな。
自分が舞台からじょうのこもった眼を投げれば、かれを捕虜とりこにすることはさのみむずかしくもないというような、一種の誇り心も起った。そうは思っても、やはり林之助が恋しかった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
支那人が礼をいって捕虜とりこを帰して寄越したのは、よくよくのことだと思え!
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「厳顔はすでにわが軍の捕虜とりことなったぞ。降る者はゆるさん。刃向うものは八ツ裂きにしてししおおかみの餌にするぞ」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さてさて情を知らぬ奴! 屈竟くっきょうの武士が賊どもに捕虜とりこにされて、尚おめおめ生きているものと思いおるか! 捕えられた時は死ぬ時じゃ! 腹かっさばいて死ぬ時じゃ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
支那人が礼をいつて捕虜とりこを帰して寄越したのは、よくよくのことだと思へ!
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
どの人の胸にも幾分の不満と不安とが潜んでいながらも、主人の愛娘といい、もう一つにはかれに備わっているおのずからの強い力にし伏せられて、素直にかれらの捕虜とりこをゆるすことになった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いや、あなたのつれて出た精兵も、あらましは軍師呉用の八陣の計に落ちて、そっくり捕虜とりこにされている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主税ちからめどうして手に入れましたものか、主馬之進しゅめのしん殿のご内儀を捕虜とりことし、左様人質といたしまして、その人質を盾となし、二階座敷に攻勢をとり、階段を上る我らの味方を
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、彼は女戦士扈三娘こさんじょうを先に、ひとり幕舎を出ていった。およそ捕虜とりこを見るなら、兵に命じて、かせて来るべきが作法である。人々はみな宋江の意に不審をいだいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おお解りました。あの男——市之丞とか云う敵の捕虜とりこ成敗せいばいなさるのでございますね」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「宮部善性坊が身は、おぬしに渡しておく。捕虜とりこだからといって、粗略にするな」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「みんな唄うがいい! みんな踊るがいい! 敵の大将を捕虜とりこにしたぞ!」