挫折ざせつ)” の例文
思いもよらざる事柄が飛び出して挫折ざせつしたわけでもないのだ。つまりは諸氏の望みと諸氏の用意との間に齟齬そごがあったのである。
「四人とも自由民権論者だったらしい。自由民権運動の挫折ざせつから、大陸へ志をのばそうとしたのだと、それは自分で言ってたが」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
どこかで一つ秀吉が挫折ざせつするような難局の出現を、心ひそかに待っているような心理にあった宿将も二、三には止まらなかったのである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「工員を煽動せんどうしてストライキを起こさせ、そいつを種に社長を強請ゆする。……きみのような人間がいるからだよ、運動が途中で挫折ざせつするのは」
五階の窓:05 合作の五 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私の何もかもが途中で挫折ざせつしてしまったころ、心苦しくてなりませんでしたことがどうやら少しずつよくなっていくようです。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
万里の波濤はとう俯瞰ふかん睥睨へいげいする大ホテル現出の雄図、むなしく挫折ざせつした石橋弥七郎氏の悲運に同情するもの、ただひとり故柳田青年のみならんや!
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
あれもやはり造化の妙機であって、ちょうど「鎖骨挫折ざせつ」のような役目をするためにどこかがどうかなるのかもしれない。
鎖骨 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それに学問というものを一切していないのが、最も及ぶべからざる処である。うぶで、無邪気で、何事に逢っても挫折ざせつしない元気を持っている。
けれどもなお彼は、鎖骨の挫折ざせつからくる容態のために、二カ月余りも長椅子ながいすの上に身を横たえていなければならなかった。
カンテラが燃えている。仰向あおむくと、泥でれた梯子段が、暗い中まで続いている。是非共登らなければならない。もし途中で挫折ざせつすれば犬死になる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれは、ただちに病院びょういんへかつぎまれました。きずさいわいにあし挫折ざせつだけであって、ほかはたいしたことがなく、もとより生命せいめいかんするほどではなかったのです。
空晴れて (新字新仮名) / 小川未明(著)
このことは私の沖縄行を挫折ざせつさせました。時折思い出しては、機会を失ったことを惜しく思いました。ただ様々にその島のことを胸に描くのみでありました。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「山県先生が幕府の手にかかるのは時日の問題となった。わしの藩政改革に反対する一味の者は、すでに幕府へ訴状を出してしまった。万事挫折ざせつだよ、功刀」
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小説においては、済勝せいしょうの足ならしに短篇数十を作り試みたが、長篇の山口にたどりついて挫折ざせつした。
なかじきり (新字新仮名) / 森鴎外(著)
歌は感傷家程度で挫折ざせつしたが、批評の方ではさすがと思わせた故中山雅吉君が、当時唯一人、私の態度の誤りを指摘して居る。なんの、そんな事言うのが、既に概念論だ。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
するとまた一方には、財力の援助がないばかりに空しく挫折ざせつする、若々しい新鮮な力がある。
妾は彼らのために身を尽さんとにはあらず、国のため、同胞のためなれば、などか中途にして挫折ざせつすべき、アア富井女史だにあらばなどと、またしてもなき思いにもだえて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「えゝか、ぎつといてるんだぞ」醫者いしやあし怪我人けがにん腹部ふくぶてゝ兩手りやうて挫折ざせつしたつてかうとした。怪我人けがにんおそろしさにわつとこゑはなつていた。醫者いしやめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それから生長するに随って様々の希望が起り、それを満足せしめんとして皆働いているのである。しかしながら世の中の事はなかなか思う様に行くものではない。失敗もする。挫折ざせつもする。
父の死にって、その望みは挫折ざせつしてしまった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
衆をたのむほどなら、やめたがましじゃ。必ず、途中でくずれる、挫折ざせつする。内蔵助のやり口は手ぬるい。あれはあてにはならんぞ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分がまだ二十代で、全く処女のやうな官能を以て、外界のあらゆる出来事に反応して、内にはかつ挫折ざせつしたことのない力を蓄へてゐた時の事であつた。自分は伯林ベルリンにゐた。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ともかくこの溝渠インクラインを見ての私の感じでは、規模が大きいとか着想が雄大だとか、そんなことよりもこれだけの施設を整えながら、中途で挫折ざせつしてしまってさぞ残念だろうと
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
挫折ざせつしようとしている、それは将軍綱吉が、この正月に死に、ついで、事を起こす中心とたのんでいた人が、失脚してしまった、幕府ではその人に関連して、登世の企てをも感づき
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あらゆる急激な進歩に見らるるとおり、七月革命のうちにも目立たぬ挫折ざせつの個所がいくらもあった。しかるに暴動はそれらの挫折を感づかせた。あゝここが砕けている、と人に叫ばした。
怪我人けがにん醫者いしやまへると恐怖きようふおそはれたやうににはか鳴咽をえつした。醫者いしやよこふくれたおほき身體からだでゆつたりと胡坐あぐらをかいたまゝ怪我人けがにんひだりまくつてた。怪我人けがにん上膊じやうはく挫折ざせつしてぶらりとれてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それを彗星すいせいの如く出でて突如挫折ざせつを加えたものが孔明であった。また、着々と擡頭たいとうして来た彼の天下三分策の動向だった。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはこれまで度々一時の発動に促されて書き出して見ては、挫折ざせつしてしまったではないかと云うささやきである。幸な事には、この咡きは意志を麻痺まひさせようとするだけの力のあるものではない。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
娘たちは仕事の挫折ざせつした父親の心の中を察していたのかも知れません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
御旗みはたもとはしる気にもなれず、きょうの戦いにも、平家方の陣におりましたが、深く考えてみると、折角のお旗挙げが、ここで挫折ざせつしたら、腐ったままの世の中が
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや上洛じょうらくして、自己の三軍のを誇示し、綸旨りんじを仰ぎ、将軍や管領を強迫し、もって八道へ君臨しようという野望家は、ひとり先にその途上で挫折ざせつした今川義元があるばかりでなく
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
要するに、盲動もうどうだった。——帰りがけの鳥越城における空巣稼あきすかせぎの程度では、その消耗も士気の挫折ざせつも埋まるはずもないほどな打撃である。殊に、かれの悶情もんじょうは、ゆべくもなかった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)