拷問ごうもん)” の例文
「その方の衣服と扇子は、それで判っておるが、そのあまり贓物ぞうぶつは、どこへ隠してある、早く云え、云わなければ、拷問ごうもんにかけるぞ」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
人命は明日を期しがたきもの故、早く罪を定めんとするが第二の理由である。これ人が人を審判さばくに当って拷問ごうもんの起る理由である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
なんでたまろうかい兄弟の調べもほんの形ばかり、拷問ごうもん爪印つめいんの強制、大牢送りの宣告と、わずか二日ほどのうちにかたをつけられ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで長いあいださまざまの偉大な苦行を積んだ結果、ついに認められて信仰のための拷問ごうもんを受け、殉教者として死にくこととなった。
余り拷問ごうもんが厳しいので、自分もつい苦しくってたまりませんから、すっかり白状をして、早くその苦痛を助りたいと思いました。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いくら拷問ごうもんにかけられても、知らない事は申されますまい。その上わたしもこうなれば、卑怯ひきょうな隠し立てはしないつもりです。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
拷問ごうもん同様の目に逢わせてみても、口がいよいよ固くなるばかりだ。のみならず、大抵の責め道具では、あいつには利かない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
異様の風体で、山中を徘徊はいかいして居たものだから、てっきり官軍の間諜と目星を指されて、追究拷問ごうもん至らざるは無しである。
田原坂合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこで彼等は拷問せられて、廃太子道祖王、黄文王は杖に打たれて悶死もんしをとげ、古麿と東人も拷問ごうもんに死んだ。生き残った人々は流刑に処された。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
無理を通そうとするから苦しいのだ。つまらない。みずから求めて苦しんで、自ら好んで拷問ごうもんかかっているのは馬鹿気ている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これでは、将校がやろうとしていた拷問ごうもんというものどころのさわぎでなく、直接の殺害だ。旅行者は両手をのばした。
流刑地で (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
また、ある程度まで其の品質に見るべきものがあるような脚本を書き得る人は、鉈や鱠の拷問ごうもんに堪えられなかった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それがためにチベット政府は非常の疑いを増して、無辜むこの知人を獄に下し大いに呵責かしゃく拷問ごうもんして居るということです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
▲支那や朝鮮では今でも拷問ごうもんをするそうだが自分はきのう以来昼夜の別なく五体すきなしという拷問を受けた。誠に話にならぬ苦しさである。(十二日)
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「ふうむ、恐ろしい牢屋じゃわい。古代西班牙イスパニア拷問ごうもん部屋もこれにはなかなか及びそうもない。よくこの中で今日まで市之丞殿は活きておられたものだ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
警察署でマリアは二人の士官から恐ろしい拷問ごうもんを加えられた。そのため彼女の顔は、裁判のとき、これは人がちがうと証人が言ったほどの変りかたをしていた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「これは拷問ごうもんの見本だから、そのへんで許してやろう。お前たちの年頃は、わけもわからずに生意気でいけない。そう生意気な連中には拷問が一番ききめがある」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
○支那や朝鮮では今でも拷問ごうもんをするさうだが、自分はきのふ以来昼夜の別なく、五体すきなしといふ拷問を受けた。誠に話にならぬ苦しさである。(九月十二日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
まさか拷問ごうもんにかけるわけにも行かず、二三日の後には、石原の利助も少し持て余し気味になりました。
伏見の城にこうじ、つづいて秀頼も大阪夏冬の両陣に破れて自害したことを聞くと、さめざめと涙を流して泣き、それ以来、さまざまな拷問ごうもんや、牢屋の責苦にったが
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
殿の屋形にいてからの姫は日夜拷問ごうもん責苦せめくい、そのはてはとうとう屋形のうしろの断崖から突き落されてこと切れた。無慚むざんな伝説であるが、伝説はまだ終らない。
西光さいこう殿をあらゆる残酷ざんこく拷問ごうもんによって白状させたあとで、その口を引きさいて首をかけたほどの清盛です。あゝ彼らは父を殺すのにどんな恥ずべき手段を用いたことか!
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
例えば毒殺の嫌疑を受けた十六人の女中が一室に監禁され、明日残らず拷問ごうもんするとおどされる、そうして一同新調のすずしのかたびらを着せられて幽囚の一夜を過すことになる。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「左様でござります、よく存じておりますが、それを申し上げましては侍の道が立ちませぬ。たといどのような拷問ごうもんを受け、骨をひしがれましょうとも、決して白状いたしませぬ」
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
勿論もちろんこの拷問ごうもんの苦痛に堪へかね偽りの申立を致候事なれど、いづれに致せ、賽銭を盗み候儀は明白に御座候間、そのまゝ入牢じゅろうと相きまり候処、十日ばかりにて牢内において病死致候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
皆さんに余計なご苦労をかけたことをおびします。しかし、最後にひとことだけ、申上げたいことがあります。あなた方のやり方は、からだの拷問ごうもんではありませんが、心の拷問でした。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
(ほんとうは拷問ごうもんで殺されたのだが、新聞には心臓まひで死んだと報じられた)
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
それは私以外の人達が一人も気付いてお出でにならない……そうして同時にタッタ一人私だけを苛責いじめ、威かすために執行とりおこなわれた、世にも恐ろしい、長たらしい拷問ごうもんだったのですから……。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ところがねえ」と法水は苦笑して、「実は、僕の恫愒どうかつ訊問には、妙なことばだが、一種の生理拷問ごうもんとでも云うものが伴っている。それがあったので、初めてあんな素晴らしい効果が生れたのだよ。 ...
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「このごろずっとあんなふうだ、あれは稽古じゃあない、拷問ごうもんだ」
これは何かの拷問ごうもんなのだという想念が浮かんだ。
「夜ごと日ごと、問罪所の白洲しらすで、拷問ごうもんにかけられておるそうな。——常磐をかくしたに違いあるまい。義朝とした子供等の行方を云えと」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ま、どうでしやう。余り拷問ごうもんきびしいので、自分もつひ苦しくつてたまりませんから、すつかり白状をして、早くその苦痛を助りたいと思ひました。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そんなことはございませんと言いわけをしますと、どうでございましょう、若主人を引きつれてあの宿屋へ行って拷問ごうもんにかけているのでございます。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は神に苦めらるるが如く感じつつあったのである。実に彼は神がおのれ拷問ごうもんにかけていると思ったのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
自分が先き立ちになってお此を責めたのではあるが、蛇責めのむごい拷問ごうもんには彼女もさすがに驚かされた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
船虫ふなむし瞽婦ごぜに身をやつして、小文吾こぶんごを殺そうとする。それがいったんつかまって拷問ごうもんされたあげくに、荘介そうすけに助けられる。あの段どりが実になんとも申されません。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「見たまえ。チャンウーの足を……あの足を炭火のうえにのせ、拷問ごうもんしていたんだ。ひどいことをするやつもあればあるもんじゃないか。まったく鬼だよ、悪魔だよ」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『われわれの国に拷問ごうもんがあったのは、中世においてだけでした』とか、おっしゃるでしょう。
流刑地で (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
拷問ごうもんでよほど痛めつけられたらしいよろよろした足どりで、重野は鉄格子の扉をくぐって
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
いうまでもなく用人相沢半之丞の妾お組というのが、雁字がんじがらめにされて、水をブッかけられたり、弓の折れで打たれたり、芝居の責めをそのままの拷問ごうもんにかけられているのです。
こんな拷問ごうもんに近い所作しょさが、人間の徳義として許されているのを見ても、いかに根強く我々が生の一字に執着しゅうちゃくしているかが解る。私はついにその人に死をすすめる事ができなかった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうですから容易にげることも出来ずその石牢の中で苦しんで居るので、折々この世の日影を見るような事が出来ると、必ず打ち叩かれるか恐ろしい拷問ごうもんに遇わされるそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
で、その五つになる女の子を教養ある両親がありとあらゆる拷問ごうもんにかけるのだ。
そのたんびに腹立たしさがジリジリと倍加して行く。しまいにはその寝息の一つ一つが、極度に残忍な拷問ごうもんか何ぞのように思われて来て、身体からだ中にビッショリと生汗なまあせがニジミ出て来るのです。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なにか、拷問ごうもんのような恐ろしいことを、はじめるのではないでしょうか。
魔法博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あなたが西八条にとらわれていらっしたあと、平氏の役人どもがやかたに押し寄せて近親のかたがたをことごとくからめとり、連れかえって拷問ごうもんし、謀叛むほん次第しだいを白状させてことごとく首をはねました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
セヴィリアの公刑所には、十字架と拷問ごうもんの刑具と相併立せり。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一口に、山屋敷といえば、水責め火責めの拷問ごうもん道具に、異人の血と陰火が燃えているように、外部の者は想像していますが、それは昔の話。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せめて、朝に晩に、この身体からだ折檻せっかんされて、拷問ごうもん苛責かしゃくくるしみを受けましたら、何ほどかの罪滅しになりましょうと、それも、はい、後の世の地獄は恐れませぬ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)