把手ハンドル)” の例文
五十ぢかいその運転手は、見るも気の毒なくらいおどろき慌てて把手ハンドルを力一杯に廻すと、車体をグルッと廻して大通りの方へ逃げだした。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は目をつむつて水あげポンプの把手ハンドルにぶらさがつて、曳哉々々とあをつてゐたが、薄目をあくと、もう灯りの点いた浴室の硝子戸に
そう云って艇長は、蓄音器の把手ハンドルをまわし、「あおきドナウ」をかけた。三鞭酒シャムパンを抜く、機関室からは、兵員の合唱が洩れてくる。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「さアお入りなはれ。」と千代松は標札の文字を確めてから言つたが、竹丸は俄に尻込みして、扉の白い把手ハンドルを握ることが出來なかつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
私は思わず手を添えて持ち上げてやったが、未亡人の白い指からその銀瓶の把手ハンドルに黒い血の影が移ったのを見ると又ハッと手を引込めた。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼が追いすがった時に彼女は自動車の中に躍り込んでピシャリとドアをしめた。彼は手を延ばして把手ハンドルを掴みドアを開けようとした。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
若者は把手ハンドルの壊れたドアを開けて、薄苔の生えた土間に入って行った。忽ち蠅の群が、かすかな唸り声をあげて襲いかかった。
放浪の宿 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
そこにある電話の口も把手ハンドルも、電話帳も、その狭い室にさし込んで来るの光線も何も彼もすべて喜悦よろこびに輝いてゐるやうにかれには思へた。
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
加減弁レギュレーターヴァルヴ把手ハンドルを握る腕も、めっきり上達するようであり、機関士席に据えた腰にも僅かなことに動じない落ちつきが見え出す。
今しも全速力を出そうと把手ハンドルを握っていた秋山男爵は、この砲声に思わずその手を放すと、把手は逆に回転して、飛行船は少しく下降した。
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
無論腕木うでぎの支柱があり、黒鉄の上下こうが横斜めに構えてはいた。その把手ハンドルを菜っ葉服の一人が両手でしっかと引き降しにおさえた刹那せつなである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
時としては、把手ハンドルを握つたまま一秒の弛みもなく眼を前方に注いで立つてゐる運轉手の後姿を、何がなしに羨ましく尊く見てゐる事もあつた。
硝子窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
僕の部下は、最初金庫の指紋を採った時、その滑かな面や把手ハンドルを綺麗に拭き取っておいた。犯人が再び金庫に触れることを予期したからです。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ビアトレスは軽く会釈をして、手をかけた把手ハンドルを廻しながら、扉を開けた瞬間、背後うしろに立っていた給仕が突然いきなり躍りかかった。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
真っ暗闇の扉の把手ハンドルをガチャガチャと廻すと同時に、パッと飛鳥のように躍り込んで来た黒影がある。躍り込むと同時に
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
コンパスは狂いつづけ、舵機だきや、スクリウは、僕の命令に従わない。僕は、把手ハンドルから手を離し、呆然ぼうぜんとして腕組みした。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
外套のすそか、はうきの柄か、それとも子供のかよわい手か、戸をしめる時弱い抵抗をしたのを、彼は見境もなく力まかせに押しつけて、把手ハンドルを廻し切つた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
狂気きちがいのように為吉はボイラから降りて音のした釜戸ドアの前に立った。外部からは把手ハンドル一つで訳なく開けることが出来た。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
それに次いでお目見得をしたのは*3紙腔琴シャルマンカであった。ノズドゥリョフは早速、二人の前で把手ハンドルを廻して見せた。
うっかり緩めた把手ハンドルに、と動きを掛けた時である。ものの二三町は瞬く間だ。あたかもその距離の前途ゆくての右側に、真赤まっかな人のなりがふらふらと立揚たちあがった。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、彼のさうした決心にも拘はらず、彼の右の手は、しびれたやうに、ドア把手ハンドルにかゝつたまゝ動かなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
傍で、把手ハンドルを廻しながら彼女の楽しむ様子を眺め、私はレコードを買って来てよいことをしたと思った。
祖母のために (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
掌砲長が砲の把手ハンドルを握りしめて、口惜しさうに敵をにらんで叫ぶのを、嘲笑あざわらつてでもゐるやうに、敵弾はぶん/\飛んで来て、ところきらはず命中するそれだのに
怪艦ウルフ号 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
やがて彼は小さな身体と大きな頭を地中に棒のように立っている鋤の大きな把手ハンドルにもたれさせた。その眼はからっぽで額には幾条いくすじひだがただしくならんでおった。
ところへ書物を持った書生体しょせいていの男だの、扇を使う商人風の男だのが二三人前後して車台にのぼってばらばらに腰をかけ始めたので、運転手はついに把手ハンドルを動かし出した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
コミックの女のように肩をゆすって彼女は立ち上ると、部屋の把手ハンドルをあらあらしく廻した。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
そればかりではない、そのドアには把手ハンドルが附いていないのだ。
脳波操縦士 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
その間に、僕は戸口のところへいって、把手ハンドルを廻して押してみた。扉は錠が下りているらしく、押せども蹴れども、開きはしなかった。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一般の入院患者さん達よ。病院泥棒が怖いと思ったら、ドアの把手ハンドルを繃帯で巻いてはいけませんよ。すくなくとも夜中やちゅうだけは繃帯を解いて鍵を
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
場合によっては一人で火を焚きながら加減弁レギュレーター把手ハンドルを執る要領も実地に教育して欲しいと云うことまで頼まれた。
が、彼のそうした決心にもかかわらず、彼の右の手は、しびれたように、扉の把手ハンドルにかゝったまゝ動かなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ドア把手ハンドルがぐるりと廻つて、さつきの女中の小づくりな蒼白い顔がひよいと見えて、その向うに、色の白い、眼のぱつちりした——その眼から額へかけては
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「畜生、しッ……畜生。」とこぶし揮廻ふりまわすのが棄鞭すてむちで、把手ハンドルにしがみついて、さすがの悪垂真俯向まうつむけになって邸町へ敗走に及ぶのを、斑犬ぶちは波を打ってさっと追った。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女は、建物全体の電燈を点滅する、大元のスイッチの把手ハンドルを掴むと、滅茶滅茶に、切ったりつないだり、おもちゃにした。パチパチと、青白い火花が散った。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
突然歯をむき出して気たゝましい叫びと共に前脚を挙げて、くだんの乗り手に踊り掛つた。僕の祖父も、馬よりも仰天して把手ハンドルを廻すがいなや全速力で逃走をくはだてた。
余計反動の強い上方の撚り目が釘からはずれるでしょうから、そこで、弩の上方が開き、またそれにつれて、胴木の発射把手ハンドルの部分も横倒しになるので、把手ハンドルが釘で押され
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
張り切つた残酷な大きな力が、何等の省慮もなく、張り切つた小さな力を抱へてゐた。彼はわなゝく手をやみの中に延ばしながら、階子段はしごだんの下にある外套掛ぐわいたうかけの袋戸ふくろど把手ハンドルをさぐつた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
「それッ!」とばかり、僕は、石油ポンプの把手ハンドルを力の限り押した。燃え上った一団の火へ、石油を雨のように注いだからたまらぬ。たちまち、格納庫内は、火の海と化してしまった。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
市中の地理は隈なく知っているはずの運転手でさえ、二度も三度も把手ハンドルを止めて、汗みずくで探し廻らなくては、目指すプラツア・デ・カタルニア街というのはなかなか見当らなかった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
其店そこの大きい姿見が、村中の子供等の好奇心を刺戟したもので、お定もよく同年輩の遊び仲間と一緒に行つて、見た事もない白い瀬戸の把手ハンドルを上にひねり下に捻り、やつ少許すこし入口の扉を開けては
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
照れ隠しにペイルソルプが運転台のドアの把手ハンドルに手を掛けると
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
扉の把手ハンドルを握ったまま、れんはあわてて二三度腰をかがめた。
或る日 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
柿丘は出鱈目でたらめの実験目的を説明したうえで、右手を押釦おしボタンの前に、左手を、振動を僅かの範囲に変えることの出来る装置の把手ハンドルに懸けた。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうしてニッコリとあざみ笑いをしいしい入口のドア把手ハンドルを、袖口でシッカリと拭い上げてから、舞台正面、中央の青ずんだフットライトの前まで来ると
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
向ひ合ひの把手ハンドルのついた大鋸で、夫々の木挽が鯨を料理するかのやうに、手つ取り早く胴切りにした。
山を越えて (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
と、画工ゑかきさん、三うらさんがばた/\とた、その自動車じどうしやが、柴小屋しばごやちいさく背景はいけいにして真直まつすぐくと、吹降ふきぶりいとつたわたしたちの自動車じどうしやも、じり/\と把手ハンドルたてつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
加減弁レギュレーター把手ハンドルを扱うのにも彼はこのように引いたとか、いくら注意しても脇路活栓バイバッスを蹴飛ばしてばかりいたとか、前方の注視には心持ち首をかたむけているのが癖であったとか
うるしで澄みわたった黒鏡のように輝いている鋼鉄扉の前に立つと、真斎は身体をかがめて、取り出した鍵で、右扉の把手ハンドルの下にある鉄製のはこを明け、その中の文字盤を廻しはじめた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
扉は外からしめられて、把手ハンドルの手のぐるりと廻る気勢きせいがしたが、廊下を伝つて階段の方へと下りて行く跫声が暫しの間きこえて、そしてあとはしんとなつた。Bはまた溜息をついた。
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
博士は把手ハンドルを廻して見た。把手はカチッと音を立てて回転した。引く手につれて、重い扉が音もなく開いた。鍵はいつの間にか外れていたのだ。扉が開ききった。中は空っぽである。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)