おそら)” の例文
おそらく満場の諸君よりも同君の内状にくはしいであらうと思ふ、我輩は最も親交ある篠田君の一友人として、松本君の指摘されたる事実は
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
毎日払い落されても、毎日これを繕ってゆく。おそらく彼はいよいよ死ぬという最終の一時間までこの努力をつづけるに相違あるまい。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今日に至るまでこれを思考することができなかったとすれば、おそらくは死に至るまで、わたくしは依然として呉下ごか旧阿蒙きゅうあもうたるに過ぎぬであろう。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
普通の事情位は退けて、再婚すべしと言ひたいのであるが、今日の軍人遺族は、おそらく自分の説をれて呉れまい。
未亡人と人道問題 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
橢圓形だゑんけいの部の周縁にの如き凹みの存するとの二つに由つてかんがふればおそらくは獸の皮なりしならんと思はる縁の部のみはぬのにて作りしものも有りしにや
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
そして単に形容たるのみならず、おそらくは渺茫びょうぼうたる大洋わだつみの中に幾日かを送る航海者に取りては、ヨブ記のこの語が宛然さながらに事実なるが如く感ぜらるるであろう。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
少くも骨の一片位はなくてはならんはずだが、品物はそのまま其処そこに身体は何処どこ渓間たにまへでも吹飛されたものか、この秘密はおそらくはれもくものはあるまい
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
なんじを訴うる者とともにみちに在るうちに、早く和解せよ。おそらくは、訴うる者なんじを審判人さばきびとにわたし、審判人は下役したやくにわたし、ついになんじはひとやに入れられん。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
し小説界の明治廿一年以前を春のや支配の時代ペリヲデーとなし、廿二年を北邙、美妙、紅葉支配の時代となさば、明治廿三年はおそらくは鴎外、露伴二氏支配の時代ならん。
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
もしかへりたらんには、おそらく踏留るは三分の一弱に過ぎざりけんを、と我物顔に富山は主と語合へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
だがそいつはおそらく殺人犯人ではない、犯人はもっと別の所にいるのだ。だから、真犯人が見つかるまでは、残念だけれど、その悪魔の正体をあばく訳には行かない。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おそらくは『洋外紀略』の「嗚呼ああ話聖東ワシントンは雖生於戎羯じゅうけつにうまるといえども其為人そのひととなりや有足多者たりておおきものあり」云々の一節であっただろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
背負揚しよいあげのうちに、何等なんら秘密ひみつがあらうとはおもはぬ。が、もしつたら如何どうする?とさけんだのも、おそら猜疑心さいぎしんであらう。わたしはそれをかんずると同時どうじに、めう可厭いやした。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
おそらくは語音通ぜず、意義感ぜざるをもって、伝うといえども、すみやかに亡びしならん。
国楽を振興すべきの説 (新字新仮名) / 神田孝平(著)
が、さいはひ、それと共に、彼の睫毛まつげに溢れようとしてゐた、涙の珠もあつたので、彼を見てゐた門弟たちは、おそらくあの辛辣しんらつな支考まで、全くこの興奮も彼の悲しみの結果だと解釈してゐた事であらう。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
重太郎はおそら何処いずこへか立去たちさったのであろう。それから塚田巡査に発見されるまでは、重蔵も夢心地で何にも知らなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
愚父のなくなりましたあの時に、此方こちらで引取つていただかなかつたら、私は今頃何に成つてをりますか、それを思ひますと、世間に私ほどさいはひなものはおそらく無いでございませう
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
併し何事でもさう云ふ風に觀察すると云ふと、おそらくは偏頗へんぱになりはすまいかと思ふのであります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
観音堂が一立斎広重いちりゅうさいひろしげの名所絵に見るような旧観に復する日はおそらくもう来ないのかも知れない。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼女かれが若かりし春の面影は、おそらく花のようにも美しかったであろうと想像されるが、冬の老樹おいきの枯れ朽ちたる今の姿は、ただ凄愴ものすごいものに見られた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
文一郎は成善の姉壻になったからである。文一郎さんは赤坂台町あかさかだいまちに現存している人ではあるが、おそらくは自ら往事を談ずることを喜ばぬであろう。その少時の事蹟には二つのきた典拠がある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こうするうちに日は暮れかかる。彼も流石さすがに途方に暮れている処へ、おそらく例の山𤢖であろう。人か猿か判らぬ一個の怪しい者がふらりと出て来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おそらくは情を知って強要したのであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
光秀もおそらく竹槍をかついで逃げ出すよりほかはあるまい。私は独りで噴飯ふきだしてしまった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おそらくはこゝらを徘徊する山賊の仕業しわざであらうといふことになつてしまつた。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
すこぶおおきいもので、おそらく舞楽のおもてかとも思われる。頼家の仮面めんというのは、頼家所蔵のおもてという意味か、あるいは頼家その人にせたる仮面めんか、それは判然はっきり解らぬが、多分前者であろうと察せられる。
今、無心にむつまじく遊んでいる犬は、おそらく何にも知らぬであろうが、見よ、一方には頸環がある。その安全は保障されている。しかも他の一方は野犬である。何時なんどき虐殺の悲運に逢わないとも限らない。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「君、これはどうもむずかしいよ。おそらく花は持つまい。」
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)