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怯懦
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きょうだ
ふりがな文庫
“
怯懦
(
きょうだ
)” の例文
クリストフはそういう一般の
怯懦
(
きょうだ
)
を笑っていた。何が起こるものかと信じていた。オリヴィエはそれほど安心してはいなかった。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
ローマ教会の教権が中世哲学に
累
(
るい
)
したごとく、国権がわが現今の哲学界を損うてる。彼らの倫理思想のいかに
怯懦
(
きょうだ
)
なることよ。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
利家は、末森を立って、津幡まで帰って来たが、その途上で、鳥越城の不始末を聞き、目賀田又右衛門の
怯懦
(
きょうだ
)
を大いに怒って
新書太閤記:11 第十一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
それはおそらく自分の
怯懦
(
きょうだ
)
から出るのであろう。しかしこの怯懦は相手があたかも良心のごとく、自分に働きかけて来るから起こるのである。
夏目先生の追憶
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
怯懦
(
きょうだ
)
と内心のあやふやとに、基づいているということを、はっきりと口には出すまいが、とにかく心の中に感じて、不愉快な気持になるのである。
ルイスヒェン
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
▼ もっと見る
今考えればわしの
怯懦
(
きょうだ
)
な性質のいたすところ、わしは自分の過ちのペーデルを日陰者にして、ただ世間へ
洩
(
も
)
れるのを、恐れていたようなものであった。
グリュックスブルグ王室異聞
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
誰にでもえらい作が出来るかと反問して
遣
(
や
)
りたいと思う反抗が一面に起ると同時に、己はその下宿屋の二階もまだ知らないと思う
怯懦
(
きょうだ
)
が他の一面に
萌
(
きざ
)
す。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
右端に死後強直を克明な線で現わした十字架の
耶蘇
(
ヤソ
)
があり、それに向って、
怯懦
(
きょうだ
)
な卑屈な恰好をした使徒達が、怖る怖る近寄って行く光景が描かれていた。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
「僕にとっての障害とは、虚栄・
怯懦
(
きょうだ
)
・許容……。そして、これらの障害を乗り切ることが僕の生活だった」
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
それは、犯罪前のあの微妙な変則的な心理の働き——
謂
(
いわ
)
ば
怯懦
(
きょうだ
)
に近い、本能的な用意、がそうさせたのだ。
花束の虫
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
だから、男という男がみんな卑屈
怯懦
(
きょうだ
)
になってしまった。女はまだいくらか廉恥を知り人倫を知っている。
渡良瀬川
(新字新仮名)
/
大鹿卓
(著)
悪風を退治するのはむしろ
容易
(
たやす
)
いことで、悪は本来退治せられるがために存在するものであるのに、
怯懦
(
きょうだ
)
な人間が、それにこわもてをして触ろうとしないから
大菩薩峠:23 他生の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
その
怯懦
(
きょうだ
)
と愚鈍からみすみすそれを
逸
(
いっ
)
し去ったのは、すくなくともこの場合、当然身を
挺
(
てい
)
して警察と公安を援助すべき公共的義務精神の熱意と果敢さにおいて
女肉を料理する男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
私の眼が高処恐怖病患者と同じ
怯懦
(
きょうだ
)
さで広い博奕場のあちこちへ走った。が、私も負けてはいなかった。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
まず相手方から撃ちだしたが、その際、俺は
怯懦
(
きょうだ
)
な畏怖心に襲われ、思わず頭を右に傾けたので、飛来した弾丸は右の
顳顬
(
こめかみ
)
と
耳殻
(
じかく
)
を破壊し、首と肩の間に
嵌入
(
かんにゅう
)
した。
湖畔
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
そしていつかそれに気がついてみると、栄養や安静が彼に浸潤した、美食に対する
嗜好
(
しこう
)
や安逸や
怯懦
(
きょうだ
)
は、彼から生きていこうとする意志をだんだんに持ち去っていた。
冬の日
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
そしてその逃亡を後ろにしながら、一歩ごとにますます雷撃を受け、ますます戦死しながら、前進を続けた。一人の
逡巡
(
しゅんじゅん
)
する者もなく、一人の
怯懦
(
きょうだ
)
な者もいなかった。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
原因が絶滅しないのだから一面、無理ないと思われ、自分の
怯懦
(
きょうだ
)
や小悧※さの罪とも思われる。
日記:10 一九二四年(大正十三年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
むかし
淮陰
(
わいいん
)
の少年が
韓信
(
かんしん
)
を
侮
(
あなど
)
り韓信をして
袴下
(
こか
)
を
匍伏
(
ほふく
)
せしめたことがある。
市
(
まち
)
の人は皆
韓信
(
かんしん
)
の
怯懦
(
きょうだ
)
にして負けたことを笑い、少年は勝ったと思って必ず
得々
(
とくとく
)
としたであろう。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
彼は、勇敢であると同時に
怯懦
(
きょうだ
)
であり、正直を愛すると同時に策謀を好む少年であるかにさえ思われたのである。あるいは、そういうのが彼の本来の面目であったかもしれぬ。
次郎物語:03 第三部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
グルモンの答は
中
(
あた
)
っている。が、必ずしもそればかりではない。醜聞さえ起し得ない俗人たちはあらゆる名士の醜聞の中に彼等の
怯懦
(
きょうだ
)
を弁解する好個の武器を見出すのである。
侏儒の言葉
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
それは前述通りこの獣半男女また淫乱故とも、至って
怯懦
(
きょうだ
)
故とも(アボット、上出)、またこれを族霊として尊ぶ民に凶事を知らさんとて現わるる故(ゴム、上出)ともいう。
十二支考:02 兎に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
その性質は非常に
怯懦
(
きょうだ
)
であって
亡国人
(
ぼうこくじん
)
のごとく全く精気がない。けれどもそれかといってこの種族が
漸次
(
ぜんじ
)
全滅に帰する傾向があるかというに、そういう傾向も現わして居ない。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
通常人間はその先祖が勇敢でありもしくは
怯懦
(
きょうだ
)
であった程度にのみ勇敢なものである。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
嘗
(
かつ
)
て見たことのない
怯懦
(
きょうだ
)
な眼つきをして、その辺にいる人達の顔をジロジロ見廻した。
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
怯懦
(
きょうだ
)
で遷延して、人質を取ってから援兵を出すことにし、それも
捗々
(
はかばか
)
しいことを得せず、相応の兵力を有しながら父を殺した光秀征伐の戦の間にも合わなかった腑甲斐無しであるから
蒲生氏郷
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
自分ながら持って生まれた
怯懦
(
きょうだ
)
と牛のような鈍重さとにあきれずにはいられない。けれども考えてみると、僕がここまで
辿
(
たど
)
り着くのには、やはりこれだけの長い年月を費やす必要があったのだ。
片信
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
敵の一将を追うことはなはだ急なりしが
竟
(
つい
)
に及ばずして還る、信長勝三にいう、
曰
(
いわ
)
く、今の逃将は必ず神子田長門である、およそ追兵のはなはだ急なる時に
方
(
あた
)
っては、
怯懦
(
きょうだ
)
の士必ず反撃して死す
竹乃里人
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
強い意志がお延の
身体
(
からだ
)
全体に
充
(
み
)
ち渡った。朝になって眼を
覚
(
さ
)
ました時の彼女には、
怯懦
(
きょうだ
)
ほど自分に縁の遠いものはなかった。
寝起
(
ねおき
)
の悪過ぎた前の日の自分を忘れたように、彼女はすぐ飛び起きた。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
シナ兵は
怯懦
(
きょうだ
)
である、
曰
(
いわ
)
く何、曰く何、一つとしてよいことは無いように云われている。しかも彼らの無規律であり怯懦であるのは、根本の軍隊組織や制度が悪いためであって、彼らの罪ではない。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
獅子に似た兇心、兎の
怯懦
(
きょうだ
)
、
狐狸
(
こり
)
の狡猾……
狂人日記
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
オリヴィエは自分の意志の堅忍と矛盾するそういう身体の
怯懦
(
きょうだ
)
を、みずから恥ずかしい気がして、それと戦おうとつとめていた。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
あるいはまた
怯懦
(
きょうだ
)
な知識階級の特色としての現実逃避であるとも見られるであろう。しかしこれらの観照は「悠々たる」観の世界を持つものとは言えない。
『青丘雑記』を読む
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
しかし、今では僕は、幸いなことに、あの嘘つきの、
怯懦
(
きょうだ
)
の、ありとあらゆる「認識者」を無視できるのだ。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
人々は陸遜の
怯懦
(
きょうだ
)
を
嘲
(
わら
)
って、もう成るようにしかならない戦と——
匙
(
さじ
)
投げ気味に部署についていた。
三国志:10 出師の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そして彼らは父がかかる
怯懦
(
きょうだ
)
なる
器量
(
きりょう
)
をもって、
清盛
(
きよもり
)
を倒そうともくろんだのは、全く
烏滸
(
おこ
)
の沙汰であると放言しました。むろん、わしは彼らの話の
細部
(
さいぶ
)
は信じなかった。
俊寛
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
この皇帝は外征を好んだ父のアウレル皇帝とは性格がまったく違って、戦争が大嫌いで、
奢侈
(
しゃし
)
遊楽のみに
耽
(
ふけ
)
り、まことに
懦弱
(
だじゃく
)
怯懦
(
きょうだ
)
で、非常に
我儘
(
わがまま
)
勝手な皇帝でありました。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
その成猫した横着な、取りすました、そのくせ
怯懦
(
きょうだ
)
にして、安逸を好み、日当りとこたつだけになじみたがる——そうして最後には、ただ化けて来ることだけを知っている。
大菩薩峠:26 めいろの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
自由意志と宿命とに関らず、神と悪魔、美と醜、勇敢と
怯懦
(
きょうだ
)
、理性と信仰、——その他あらゆる
天秤
(
てんびん
)
の両端にはこう云う態度をとるべきである。古人はこの態度を中庸と呼んだ。
侏儒の言葉
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
熊城は相手が法水だけに、ほとんど
怯懦
(
きょうだ
)
に近い警戒の色を
泛
(
うか
)
べたが、検事は
腿
(
もも
)
を叩いて
聖アレキセイ寺院の惨劇
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
電話を聞いた時、彼女は、この機会を力綱に、一つ潔く、率直に、自分の計画を実行しようという、頼もしい勇気を感じるどころか、却って、後じさりする
怯懦
(
きょうだ
)
な自身を感じた。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
モロッコのマグラ市近き野に獅が多いが極めて
怯懦
(
きょうだ
)
で、小児が叱ると狼狽
遁
(
に
)
げ
去
(
さ
)
る
十二支考:01 虎に関する史話と伝説民俗
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
私の
欺瞞
(
ぎまん
)
、私の汚辱、私の
怯懦
(
きょうだ
)
、私の裏切り、私の罪悪、それを私は一滴一滴と飲み、また吐き出し、また飲み込み、夜中に終えてはまた昼に始め、そして私の朝の
挨拶
(
あいさつ
)
も偽りとなり
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
それでは先日来の貴下に対するあの消極的な
曖昧
(
あいまい
)
な態度、電話での応対などを如何に説明するかと仰せられるでもあろうが、あれは持ち前の異性に対する
怯懦
(
きょうだ
)
と
羞耻心
(
しゅうちしん
)
とがさせたことで
細雪:03 下巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
私は戦うに
怯懦
(
きょうだ
)
であり、また時機を失したとはどうしても思えない。私は戦い敗れた。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
こう言う羽目に陥るのは
必
(
かならず
)
しも彼女の我我を
却
(
しりぞ
)
けた場合に限る
訣
(
わけ
)
ではない。我我は時には
怯懦
(
きょうだ
)
の為に、時には又美的要求の為にこの残酷な慰安の相手に一人の女人を使い兼ねぬのである。
侏儒の言葉
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
君たちは自国の大人物どもの
怯懦
(
きょうだ
)
を知らないのだ。僕は初め君一人が知らないのだと思っていた。君が行動しないのを許していた。しかし実際では、君たちは皆同じ考えをもってる連中なのだ。
ジャン・クリストフ:09 第七巻 家の中
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
すべての
怯懦
(
きょうだ
)
のさ中に凝然と身を固め直立して歩かなくてはならない。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
人は
怯懦
(
きょうだ
)
でいられましょうか、他人により縋っていられましょうか。
男女交際より家庭生活へ
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
何かたくみがあるのではないか、危険な
罠
(
わな
)
へ落し込まれて行くのではないか。———だが、彼はすぐにその
怯懦
(
きょうだ
)
な考えを耻じた。老女の顔がへんに
凄
(
すご
)
いのは、夜の明りのせいだ。外に何も原因はない。
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
怯
漢検準1級
部首:⼼
8画
懦
漢検1級
部首:⼼
17画
“怯”で始まる語句
怯
怯気
怯々
怯者
怯弱
怯勇
怯惰
怯気々々
怯夫
怯奴