性急せっかち)” の例文
その養子というのは、日にやけた色の赤黒い、巌乗がんじょうづくりの小造こづくりな男だっけ。何だか目の光る、ちときょときょとする、性急せっかちな人さ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世の中にこれ位性急せっかちな(同時に、石鹸玉しゃぼんだまのように張りつめた、そして、いきり立った老人の姿勢のように隙だらけな)心持はない。
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
何者か、性急せっかちに彼の実行をせき立てるのが感じられました。機会が到来したという考えが、彼の雑念を立所に一掃いっそうして了いました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は自分の性急せっかちに比べると約五倍がたの癇癪持かんしゃくもちであった。けれども一種天賦てんぷの能力があって、時にその癇癪をたくみに殺す事ができた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まあ! 貴君あなたも、性急せっかちですのねえ。妾達わたくしたちには約婚時代というものが、なかったのですもの。もっと、こうして楽しみたいと思いますもの。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
性急せっかちで汗っかきの圓太郎は丸顔いっぱいの汗をしきりにこぼれ松葉の手拭で拭きながら、薄暗い山城屋の店先へ腰を下ろした
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
と仙夢さんはややもすると立ち上りそうになる。余程性急せっかちだ。休憩させた以上は疲労を認めている筈だのに、催促の積りか知ら?
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
酒が来ると、さあさあと性急せっかちに私につぎ、つぎ終るや間髪を入れず、すでに左手に用意していた盃にカチリと銚子を当てる。チュウとすすって
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
四十男の理三郎は、用心深い代りに、いざとなると性急せっかちでした。八五郎を案内に、神田の平次の家へ来たのは、事件があってから三日目の昼過ぎ。
藤吉郎は、逃げるように座敷へ駈けこむ。暁までも聟を擒人とりこにして帰すなと、悪戯いたずら好みの友たちは円坐を作って、酒々と性急せっかちに呼び立てたりする。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分のやうに性急せっかちにしてはいけないのだと知りながら、何とかして食べるところを見届けたさに、無理に窓際から引き離して、部屋のまん中へ抱いて来て
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ままさんが性急せっかちですからね、急にお詣りをおさせしてお宅のほうへもお寄りさせようと、こんなことをひとりぎめにきめてお宅へ言ってあげたのがよくないと思います。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「初めはあんなに躊躇していらしたくせに、今になって、どうしてそう性急せっかちなことを仰言るの?」
子を奪う (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
性急せっかちに進んだかと思うと、突然手を休めたり、また思いだしたように遣りはじめたりするのであった。うつ向いて、口を堅く結んで、額にはむずかしそうな八の字をよせていた。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
相も変らぬ「のろま」でしたから性急せっかちな主任のS教諭は、私の遣り方を見て、他の助手や看護婦の前をも憚からず Stumpfスツンプ, Dummドウンム, Faulファウル などと私を罵りました。
痴人の復讐 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「おい! 前川さん、あんたは何て性急せっかちなんだ。私はまだ話を終っていないよ……」
罠を跳び越える女 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
性急せっかちな私は彼女の話の最中に、便所に行く振りをして、ソッと茶の間に来た。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
性急せっかちの父が先ず狼狽あわて出して、座敷中を彷徨うろうろしながら、ソレ、風呂敷包を忘れるな、行李はいか、小さい方だぞ、コココ蝙蝠傘こうもりがさおれが持ってッてやる、ともとより見送って呉れる筈なので
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼の父は秋成又左衛門といって、身分は寄合、運上所うんじょうしょ元締をしていた。又四郎は父が四十歳のとき生れた一人息子である。又左衛門はまれにみる性急せっかちな人で、「せかちぼ」という綽名があった。
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は歯を喰いしばって、ステッキを性急せっかちにふりながら、近づいて行った。
私のそういう性急せっかちな印象が必ずしもにせではなかったことを、まるでそれ自身裏書きでもするかのように、私のまわりには、この庭を一面におおうて草木が生い茂るがままに生い茂っているのであった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
抱え主も性急せっかちには催促もしず、気永に帰るのを待つことにしていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あるとき、豊国は蔵前の札差ふださしとして聞えたなにがしの老人から、その姿絵を頼まれました。どこの老人もがそうであるように、この札差も性急せっかちでしたから、絵の出来るのを待ちかねて、幾度か催促しました。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
珪次にいわせると「そう性急せっかちに利益を挙げようたって無理だ」
扉の彼方へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「貴方は妙なところに性急せっかちね、ふだんは、のんきな癖に。」
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
性急せっかちに詰め寄るのを、警保局長はマアマアと手でおさえ
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
奥さんは性急せっかちな、しかし良家に育った人らしい調子で
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ほ、ほ、これはまた、性急せっかちな方!」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そうして、最も性急せっかちならざる心を以て、出来るだけ早く自己の生活その物を改善し、統一し徹底すべきところの努力に従うべきである。
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
読本よみほんは絵のとこが出て子に取られ)少年はきれいなおんなの容易ならない身の上が案じられますから、あとを性急せっかちに開ける、とどうです。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おおかたもうじきでしょう。叔父さんはあんな性急せっかちだから。それに継子さんはあたしと違って、ああいう器量好きりょうよしだしね」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と野崎君はおこっていた。もっともこの男は学生時代から荒かった。性急せっかちどもる癖があって、詰まると手の方が先に出る。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
自分のやうに性急せっかちにしてはいけないのだと知りながら、何とかして食べるところを見届けたさに、無理に窓際から引き離して、部屋のまん中へ抱いて来て
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ほんとに性急せっかちな赤ちゃんね。今教えてあげますからおとなしくしているんですよ。」
掠奪せられたる男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
性急せっかちそうに歌っている父橘家圓太郎の高座姿がアリアリと目に見えてきた、いや、下座げざのおたつ婆さんの凜と張りのある三味線の音締ねじめまでをそのときハッキリと次郎吉は耳に聴いた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
カッフェの戸口から女が性急せっかちに声をかけると、女将おかみが鍵と燭台をもって来て
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
私は彼の説明を待ち切れなくて、性急せっかちに次の質問に移って行った。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
性急せっかちの鶴さんは、蒲団の上にじっとしてはおらず、縁側へ出てみたり、隠居の方へいったりしていたが、おゆうも落着きなくそわそわして、時々鶴さんの傍へいって、はしゃいだ笑声をたてていたりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今が今——というように、小六から性急せっかちにいいつけられて、鍛冶小屋へ飛んで戻るなり、鉄砲の関金をち直していた国吉は、邸のうちに何が起ったのも、時が経ったのも、物音も一切知らなかった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やゝ性急せっかちだと思われる位口早に訊いた。
神の如く弱し (新字新仮名) / 菊池寛(著)
くだんの婦人は落着払い、そのひややかなる眼色めつきにて、ずらりと四辺あたりを見廻しつ、「さっさとしないか。おい、お天道様は性急せっかちだっさ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
意地の悪い言い方をすれば、今日新聞や雑誌の上でよく見受ける「近代的」という言葉の意味は、「性急せっかちなる」という事に過ぎないとも言える。
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
兄の神経の鋭敏なごとく自分は熱しやすい性急せっかちであった。平生の自分ならあるいはこんな返事は出なかったかも知れない。兄はその時簡単な一句を射た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分のように性急せっかちにしてはいけないのだと知りながら、何とかして食べるところを見届けたさに、無理に窓際から引き離して、部屋のまん中へ抱いて来て
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「えゝ。あの通り性急せっかちですから、いとなるともうっとしていられないのです。その節は種々いろいろとお世話を戴きまして、宜しくお礼を申上げてくれと言いつかって参りました」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
庸三は性急せっかちに言い出した。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
性急せっかちなことをよく覚えている訳は、ももを上げるから一所においで。ねえさんが、そう云った、ぼうを連れて行けというからと、私を誘ってくれたんだ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の性急せっかちにも子供のうちかららされていた。落ちつかない自分は、電話でもかけて、どうしたのかこっちから父の都合を聞いて見ようかと思った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それは/\。お草臥くたびれでしょう。常子は性急せっかちだからね。大抵のお客さまは辟易へきえきするよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「マアオ待チナサイ、アナタハイツモ性急せっかちナンダカラ」
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)