寡婦やもめ)” の例文
それにもう一つ悲しいことには、わたし達はそのとき、二人とも寡婦やもめになっていました。何方どちらも、良人おっとが戦争に出て戦死したのです。
二人の母親 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
古い洋風擬ひの建物の、素人下宿を營んでゐる林といふ寡婦やもめの家に室借りをしてゐた。立見君は其室を『猫箱』と呼んでゐた。
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
あしたよりゆうべに至るまで、腕車くるま地車じぐるまなど一輌もぎるはあらず。美しきおもいもの、富みたる寡婦やもめ、おとなしきわらわなど、夢おだやかに日を送りぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二、三年ののち、久しく寡婦やもめでくらしていた女髪結に若い入夫にゅうふができた。この入夫が子供嫌いでややもすればおたみを虐待するようになった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その靴をしきりに自慢し、めつたに穿かないといふことをも云つた。四十を越した寡婦やもめの上さんは、その靴を大切にして飾つてゐるのであつた。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
やごめは寡婦やもめ、わろんじは草鞋のおかざきぶりであるが、そんな通り言葉ができたほどみよの草鞋は人々にもてはやされた。
日本婦道記:箭竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
礼助はあきれた顔をしてみせると同時に、世間でも実枝が何時まで若き寡婦やもめで通すのかと興味を持つてゐるのだなと思つた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
わが斯くいへるは皇帝トラヤーノの事なり、ひとりの寡婦やもめ涙と憂ひを姿にあらはし、その轡のほとりに立てり 七六—七八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
あるじ寡婦やもめで、父親は田舎にいる時分からちょいちょいそこへ入り込んでいた。お庄の家とはいくらか血も続いていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
わっちに手拭や何かくれて此の間立花屋へ連れて行って、お前さんと別れて寡婦やもめ暮しになったら文治郎さんを連れて来てくれと云ってふみを頼まれたから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
成都にある玄徳は、これより以前に、劉瑁りゅうぼうの未亡人で呉氏という同宗の寡婦やもめを後宮にいれ、新たに王妃としていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
婦人はスムウト氏がユウタア州の生れだといふ事を訊くと、寡婦やもめ雌鶏めんどりのやうにぐつと反身そりみになつて近づいて来た。
順吉にはまえから痔の気があったのだが、坑内で働いているうちに悪化したのである。附添いには寮の掃除婦をしているおすぎという寡婦やもめが附いていった。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
私は今寡婦やもめでございますが、この間まで歴乎れっきとした夫がございました。子供は今でも丈夫でございます。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして来ればうまい物を送ってよこさないことはなかった。姨は家にいる寡婦やもめの嫁にことづけをした。
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
『別に変わった物音も聞きませんでした』『では、ミコライ、お前はその当日、これこれの日の、これこれの時刻に、これこれの寡婦やもめが妹と一緒に殺害されて、金品を ...
昔ながらの松明まつのあかり覚束おぼつかなき光に見廻はせば、寡婦やもめらしの何十年に屋根は漏り、壁は破れて、幼くてわが引き取られたる頃に思ひらぶれば、いたく頽廃たいはいの色をぞ示す
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
どうかすると彼は、家の方を思出したような眼付をしながら、夏梨をむく曾根の手を眺めていた、曾根が連の寡婦やもめは宗教の伝道に従事していることなどを三吉に語った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
クールフェーラックは居酒屋を少しうちこわしながらも、寡婦やもめの上さんを慰めようとしていた。
去年の春下谷の伯母を訪ねて、その寡婦やもめ暮しの聞きしにまさる貧しさに驚かされた私は、三崎町の「苦学社」の募集広告を見て、天使の救いにおうたように、雀躍こおどりして喜んだ。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
夕張ゆうばり炭田に行き、コックは世帯道具を売って、ある寡婦やもめの家へ入り婿となって、彼自身沖売ろうになり、日用品や、菓子などを舟に積んで、本船へ持って来るようになったことだ、が
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
あたしは寡婦やもめですからね。正直に白状すればとてもやきもちがけますの。あなたのところへ奥さんの手紙が来た翌日からあなたの御様子が変ったように見えて。御免なさいな、病的でしょうか。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
マチルドは、ふるえながら、寡婦やもめのようにしゃくり泣きをしている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
同じ三重県でも『度会わたらい郡方言集』、すなわち神宮周囲の村落の語では、今でも稲扱器のことをヤマメと謂うそうである。ヤマメは寡婦やもめのことである。何故にそのような名前が稲扱器に附与せられたか。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かかれとて虫の寡婦やもめは啼かざらむ鴉こまかに啄みにけり
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ある貴婦人で大金持の寡婦やもめ
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ああ若くしてるべなき寡婦やもめ
古い洋風擬ひの建物の、素人下宿を営んでゐる林といふ寡婦やもめの家に室借へやがりをしてゐた。立見君はそのへやを「猫箱」と呼んでゐた。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
綾子さん、このごろの習慣ならわしで、寡婦やもめ妊娠はらむのは大変な不名誉です。それに貴女あなたのそのおなかは誰の種だか、御自分で解りますまい。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
來りて汝のローマを見よ、かれ寡婦やもめとなりてひとり殘され、晝も夜も泣き叫びて、わがチェーザレよ汝何ぞ我と倶にゐざるやといふ 一一二—一一四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
みなし児かかえた寡婦やもめを家から追ん出そうなんて! いったいわたしはどこへ行ったらいいんだろう
病院を建て学校を開き、病人を見舞い、娘には嫁入じたくをこしらえてやり、寡婦やもめには暮らしを助けてやり、孤児は引き取って育ててやった。ほとんどその地方の守り神だった。
『どうか貧しい寡婦やもめのためになるべく余計に払つてください』それから、またいふ。『ドクトルは麦酒ビール一杯二十五万麻克マルクするといふことを御存じでせうねえ。ああ麦酒ビールが飲みたいですねえ』
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
芳三の死が思いがけないものであっただけに、あきらめきれないものが残っていて、気持のまぎらしようのないことがある。おすぎが寡婦やもめの身の上を強く意識するのは、そういうときであった。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
由「寡婦やもめ、それは有難い、やもめのいのはないかと心掛けてるので」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
老舗しにせ立つひと町は寡婦やもめのごとく
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それは鍛冶屋の隣りのおよし寡婦やもめが家、月三圓でその代り粟八分の飯で忍耐がまんしろと言ふ。口に似合はぬ親切な爺だと、松太郎は心に感謝した。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
輪を造りて我眉となる五の火の中、わがくちばしにいと近きは、寡婦やもめをばその子の事にて慰めし者なり 四三—四五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
前の下宿のおかみで、なくなったラスコーリニコフの許嫁いいなずけの母に当る寡婦やもめのザルニーツイナも
それは鍛冶屋の隣りのおよし寡婦やもめが家、月三円で、その代り粟八分の飯で忍耐がまんしろと言ふ。口に似合はぬ親切な野爺おやぢだと、松太郎は心に感謝した。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
わが寡婦やもめわが深く愛せし者はその善行よきおこなひたぐひ少なきによりていよ/\神にめでよろこばる 九一—九三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
彼女は遠方から来たのではなく、この町に住んでいる下士の寡婦やもめだと名乗った。
其隣がお由と呼ばれた寡婦やもめの家、入口の戸は鎖されたが、店の煤び果てた二枚の障子——その處々に、朱筆で直した痕の見える平假名の清書が横に逆樣に貼られた——に、火花が映つてゐる。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
其隣がお由と呼ばれた寡婦やもめの家、入口の戸は鎖されたが、店のすすび果てた二枚の障子——その処々に、朱筆しゆふでで直した痕の見える平仮名の清書が横に逆様に貼られた——に、火光あかりが映つてゐる。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『で、何かな、そのお由さんといふ寡婦やもめさんは全くの獨身住ひとりずみかな?』
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
『で、何かな、そのお由といふ寡婦やもめさんは全くの独身住ひとりずみかな?』
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)