大路おおじ)” の例文
それがまた末はほのぼのと霞をかけた二条の大路おおじのはてのはてまで、ありとあらゆる烏帽子えぼしの波をざわめかせて居るのでございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
揺れる火影ほかげに入乱れる処を、ブンブンとうなって来て、大路おおじの電車が風を立てつつ、さっ引攫ひっさらって、チリチリと紫に光って消える。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを、宮は物見(車の小窓)から振向いておられたが、牛車はもう表門を出て銀一色の人通りもない大路おおじの夕を打っていた。
往来ゆききの人や車が幻影まぼろしのように現われては幻影まぼろしのように霧のうちに消えてゆく。自分はこんな晩に大路おおじを歩くことが好きで。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
大路おおじの砂は見る見る乾きてあさ露をこぼし尽したる路傍みちばたの柳は、修羅の巷の戦を見るに堪えざらんように、再び万丈の塵を浴びて枝も葉も力なげに垂れたり。
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
暗くなってから行列は動いて、二条から洞院とういん大路おおじを折れる所に二条の院はあるのであったから、源氏は身にしむ思いをしながら、さかきに歌をして送った。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
昼は肴屋さかなや店頭みせさき魚骨ぎょこつを求めて、なさけ知らぬ人のしもと追立おいたてられ。或時は村童さとのこらかれて、大路おおじあだし犬と争ひ、或時は撲犬師いぬころしに襲はれて、藪蔭やぶかげに危き命をひらふ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「そうなった日の暁には、この民弥さんも輿こしに乗り、多くの侍女を従えて、都大路おおじを打たせます」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
文化三年九月二十日の、鏡のような秋風が、江戸の大路おおじを流れていた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それから、三条を西へ折れて、耳敏川みみとがわの向こう岸を、四条まで下ってゆく——ちょうど、その四条の大路おおじへ出た時の事である。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ある日は、新郎新婦が、そのうちに乗って、岡崎から吉水までの大路おおじを牛飼に曳かせ、都の人々から嫉妬しっとの石を雨のようにぶつけられたその輦でもあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又そのようなことを言うてはおなぶりなさるか。その日の風にまかせて、きょうは東へ、あすは西へ、大路おおじの柳のようになびいてゆく、そのやわらかい魂が心もとない。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
てたり。大路おおじの人の跫音あしおと冴えし、それも時過ぎぬ。坂下に犬のゆるもやみたり。ひとしきり、一しきり、のきに、棟に、背戸のかたに、と来て、さらさらさらさらと鳴る風の音。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また源氏の注意をくはずもないちょっとした地方官の娘なども、せいいっぱいに装った車に乗って、気どったふうで見物しているとか、こんないろいろな物で一条の大路おおじはうずまっていた。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
米俵を二俵ずつ、左右へ積んだ馬をひいて、汗衫かざみ一つの下衆げすが、三条坊門のつじを曲がりながら、汗もふかずに、炎天の大路おおじを南へ下って来る。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
路傍に、えて、こもをかぶっている人間のすがたにも、刀槍をきらめかせて、六波羅大路おおじを練り歩く武将にも、新たな、観る眼があいて世の中を考えだした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鴨川の水も底を見せるほどに痩せて枯れて、死んだ魚は白い腹を河原にさらしていた。大路おおじの柳はぐたりと葉をたれて、広い京の町につばめ一羽の飛ぶ影もみえなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
明眸めいぼうの左右に樹立こだちが分れて、一条ひとすじ大道だいどう、炎天のもとひらけつゝ、日盛ひざかりの町の大路おおじが望まれて、煉瓦造れんがづくりの避雷針、古い白壁しらかべ、寺の塔などまつげこそぐる中に、行交ゆきかふ人は点々と蝙蝠こうもりの如く
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
猪熊いのくまのばばに別れた太郎は、時々扇で風を入れながら、日陰も選ばず、朱雀すざく大路おおじを北へ、進まない歩みをはこんだ。——
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ところがやがてひるごろ、べつな一隊がまた大路おおじの方からくだって来た。そのなかには正成の姿が見えた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、西洞院にしのとういんから東の大路おおじは、なにやら、六波羅に異変があって、往来を止めてあるとのことで……」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一条二条の大路おおじの辻に、盲人が一人さまようているのは、世にもあわれに見えるかも知れぬ。が、広い洛中洛外らくちゅうらくがい、無量無数の盲人どもに、充ち満ちた所を眺めたら、——有王ありおう
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
牛車は、法成寺址の瓦礫がれきやら、路地のぬかるみに揺られ揺られ、まもなく大路おおじへ出て来た。鬱蒼うっそうたる宮苑(その頃二十余万坪)の森は、もうすぐ眉にせまって見える。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう云うと沙門は旗竿を大きく両腕にいだきながら、大路おおじのただ中にひざまずいて、うやうやしげに頭を垂れました。そうして眼をつぶったまま、何やら怪しげな陀羅尼だらにのようなものを、声高こわだかし始めました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
郊外千里に霞む起伏の丘を四方よもに、古都の宮城は朝映あさばえ夕映えの色にかがやき、禁門の柳、官衙かんが紫閣しかく大路おおじ小路こうじ、さらに屋根の海をなす万戸の庶民街にいたるまで
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朱雀すじゃく大路おおじと、諸所に勢ぞろいしていた万余の軍勢を一巡閲兵してまわると、ひたいは発汗に濡れて来て、もう彼女の存在など毛穴の一つにもとどめてはいず、完全なる三軍の将義貞だった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
拝謝して、白馬に乗換え、ここで玄徳と別れて道を北の大路おおじへとった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに、羽柴はしばじゅ参議秀吉さんぎひでよし入洛じゅらくちゅうのにぎやかさ。——金の千瓢せんなり、あかい陣羽織じんばおり、もえおどし小桜こざくらおどし、ピカピカひかる鉄砲てっぽう、あたらしい弓組、こんな行列が大路おおじ小路こうじに絶えまがない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠くからでも明らかに皇居の大内裏だいだいり十二門の一劃とわかる官衙殿堂が、孔雀色くじゃくいろいらか丹塗にぬりの門廊とおぼしき耀かがやきを放ッて、一大聚落じゅらくをなしており、朱雀すじゃく、大宮などを始め、一条から九条までの大路おおじ
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大路おおじ打たすは
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)