執念しゅうねん)” の例文
カーテンのあいだからは、あのピストルが執念しゅうねんぶかく、ねらいをさだめていて、いつまでたっても、立ちさろうとはしないからです。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
窯焚かまたきの百助ももすけは、無論あのまま黙ってはいない。なお、執念しゅうねん深く、兆二郎ちょうじろうの疑点をいくつも探り、佐賀の城下へ出て密告した。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
根城ねじろとしていた六天山塞を焼きはらって、かれらは解散したのであろうか。いやいや、そうは思われぬ。あの執念しゅうねんぶかい四馬剣尺のことだ。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
売薬は先へ下りたが立停たちどまってしきりに四辺あたりみまわしている様子、執念しゅうねん深く何かたくんだかと、快からず続いたが、さてよく見ると仔細しさいがあるわい。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「しかし、本田、このまま放っとくと危いぜ。ことに狐の奴と来たら執念しゅうねん深いからな。頬ぺたを下級生にひっかかれて默っちゃおらんだろう。」
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
武道の執念しゅうねん栄辱えいじょく憤恨ふんこん、常日頃の沈着を失った平馬は、いまは、両眼に、大粒な口惜し涙を一杯に浮かべてさえいる。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
まことにばかげた話であるけれど、世におそるべきは賢明な人の優良な計画だけではない、執念しゅうねんの一つは賢愚不肖けんぐふしょうとなく、こじれると悪いわざをします。
わしの生命いのちの根は執念しゅうねん深く断ちきれない。このあさましいわしのごうをいつまでもさらさせようとするのか。食を断っても断っても死にきれぬへびのように。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
馬鹿あかせ、三銭のうらみ執念しゅうねんをひく亡者もうじゃ女房かかあじゃあてめえだってちと役不足だろうじゃあえか、ハハハハ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今日のりきみは身をそん愚弄ぐろうまねくのなかだちたるを知り、早々にその座を切上げて不体裁ぶていさいの跡を収め、下士もまた上士に対して旧怨きゅうえんを思わず、執念しゅうねん深きは婦人の心なり
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
近藤は執念しゅうねん深く口をつぐんで、卓子テエブルの上の紅茶茶碗へじっと眼を据えていたが、大井がこう云うと同時に、突然椅子から立ち上って、呆気あっけに取られている連中をあと
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と堀口生は執念しゅうねん深いから、ナカナカあきらめない。どうかして花岡家へ遊びにゆきたいのだ。もしこれがかなうなら、正三君初め優良連中と和解してもいいぐらいに思っている。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そもそも、大岡様や泰軒がこの事件に関係しだし、また、剣魔左膳が壺の内容を知って、いっそう執念しゅうねんの火をもやすようになったについては、こういういきさつがあったのです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すくなくとも、彼はそう感じて、その自暴自棄じぼうじき憤怒ふんぬ——かなり不合理な——が彼を駆って盲目的に、そして猪進ちょしん的に執念しゅうねんの刃をふるわせ、この酷薄な報復手段をらしめたに相違あるまい。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
と卯平の精悍せいかんな顔にちらと悲しげな影がすぎたが、すぐにもとの元気な顔になって、執念しゅうねん深いきつねだ、今日で十日になるのにまだ出て行かん、戸まどいして女房にいたりなどして阿呆狐めが
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
毎晩の如く現われて尽きる模様もない刑事の執念しゅうねん——というか、徹底した警戒ぶりに、貫一は日頃の自信が崩れ出したのを認めないわけに行かなかった。
不貞の女をもなお且つ貞女にし、不孝の子をもなお孝子として、彼方あなたの世界へ送るのが人情でもあり、回向えこうでもあるべきに、これはあまりに執念しゅうねんの残る戒名であります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
気味の悪い平田一郎の執念しゅうねんから逃れることが出来たので、彼女はホッと胸なでおろす気持だった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すでに和するの敵に向うは男子のはずるところ、執念しゅうねん深きに過ぎて進退しんたいきゅうするのたるをさとり、きょうに乗じて深入りの無益たるを知り、双方共にさらりと前世界の古証文ふるしょうもんすみを引き
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「貴公も執念しゅうねんぶかい男だな。なんにしても過ぎたこと。いではないかもう……」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
異国の帝王には、この世の宝玉や愛妃あいひへの執念しゅうねん墳墓ふんぼにまでしたがえていったような人もあるが、じぶんは今、臨命にさいして、妻子への未練も、王位や珍宝にたいする妄念も、何ら持ってはいない。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうも鬼というものの執念しゅうねんの深いのには困ったものだ。」
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私が企てた復仇ふっきゅうを待つまでもなく今天涯てんがいにのがれ出でた相良十吉であったが、風間真人の執念しゅうねんは未だにくつることなくの人の上にかかっているようだ。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
米友は聖人とは言いにくいけれども、いまかつて夢らしい夢を見たことのない男です。彼は何かに激しておこることは憤るけれども、それを夢にまで持ち越す執念しゅうねんのない男でした。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それをまるで気にもしないで、緑ちゃんの最期さいごも見とどけないで、逃げだしてしまうなんて、あの執念しゅうねんぶかさとくらべて考えてみると、おかしいほど大きな手落ちじゃないか。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「私はもう阿波へ帰るのは嫌なのでございますけれど、執念しゅうねんぶかい宅助が、あの通りつけ廻しているので、川長の家へもウッカリ帰れませぬし、もうどうしていいか、路頭に迷っているところなのでございます」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その鞄は、執念しゅうねん深いというのか、海上をただよううちに海岸へ漂着ひょうちゃくした。元村もとむら桟橋さんばしのすぐそばであった。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ゴリラは、四本の手足をめったむしょうに動かして、はらいのけようとしますが、逃げてはあつまり、逃げてはあつまり、執念しゅうねんぶかくせめてくるので、どうすることもできません。
魔法人形 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まるきり執念しゅうねんのない者と、どこまでも執念の深い者は、どちらも始末に困ります。
学士は朦朧もうろうと落ちてゆく意識のうちに、しきりに口を大きくひらいてはあえいでいた。だが彼の執念しゅうねんぶかい両手は、なおも大尉の急所を掴んでそれをゆるめようとはしなかった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ようございますか、お内儀かみさん……お前さんは江州生ごうしゅううまれとかおっしゃったな。江州女のことは存じませんが、この紀州の女というものは、なかなかその、執念しゅうねんの強いものでございますよ」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その執念しゅうねんぶかいかこみを切りぬけることは、なかなかむずかしいのです。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
白い航跡こうせきが消えて、元のウルトラマリン色の青い海にかえるところあたりに、執念しゅうねんぶかくついてきた白いかもめが五六羽、しきりに円を描いては、漂流ひょうりゅうするごちそうめがけて
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
明智君、おれは執念しゅうねんぶかいぞ。戦いは、これからだ。おれはマユミと俊一を、かならず、とりこにしてみせる。一度は、きみのおせっかいで失敗したが、そんなことで、ひきさがるおれじゃない。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
というわけで、今や醤買石は、執念しゅうねんの火の玉とし、喰うか喰われるかの公算五十パアセントの危険をおかしても一矢いっしをむくわで置くべきかと、あわれいじらしきことと相成あいなった。
もちろん、アトランティス大陸の生物の多くは、その地変のとき死んだが、そのうち執念しゅうねんぶかく生きのこったのが、今日の海底超人という一族だ。どうだ、これで問題はとけたではないか
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おンや。この野郎。また生き返って来たぞ。執念しゅうねんぶかい野郎だ」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)