いか)” の例文
新字:
顏も體格に相應して大きな角張つた顏で、鬚が頬骨の外へ出てる程長く跳ねて、頬鬚の無い鍾馗そのまゝのいかめしい顏をしてゐた。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
妹はいかつく口を噤んで黒瞳くろめを相手の顏へ据ゑたが、すると、馬越はそのわざとらしい浮薄な態度にむかつとして、急に起ち上つて玄關の方へ出た。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
第一に男性のである故に、また第二に黒くたけいかめしい故に。ヘイに來てからも手紙を郵便局へ入れた時も、まだその顏は私の前に浮かんでゐた。
いかし、嚴つし、嚴めし、啀喍いがむの類の語も、深く本づくところを考ふれば、皆氣息いきに關して居るかも知れぬ。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この上もなくいかめしく構へた阿星右太五郎は、自分の言葉に感極まつて、ポロポロと泣いてゐるのです。
云ふ一体に新道には不平と見え馬も舊道行人ゆくひとも舊道なり只運送馬車のみ道は遠けれど平坦たひらゆゑ新道を驅けるとぞ此邊の屋作り皆な玄關搆へにていかめしく男も雪見袴ゆきみばかまとかいふものを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
提唱ていしやうのある場所ばしよは、矢張やは一窓庵いつさうあんから一ちやうへだゝつてゐた。蓮池れんちまへとほして、それをひだりまがらずに眞直まつすぐあたると、屋根瓦やねがはらいかめしくかさねたたかのきが、まつあひだあふがれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かれたゞいかめしくえる警察官けいさつくわんおそろしくてどうしてもあしすゝまないのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さうして民家の上方に、一郭の城がいかめしく聳えてゐた。廣びろと橋がこちらに架けられた。大きく門が開かれた。高だかと角笛が鳴りひびいた。聞くがいい! 喧噪、武具の音、吠える犬。
なんとやらいかめしき親分おやぶん手下てかにつきて、そろひのぬぐひ長提燈ながてうちんさいころことおぼえぬうちは素見ひやかし格子先かうしさきおもつての串談じようだんひがたしとや、眞面目まじめにつとむる家業かげうひるのうちばかり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とき享保きやうほ十年九月七日越後高田の城主じやうしゆ榊原家さかきばらけ郡奉行こほりぶぎやう伊藤いとうはん右衞門公事方吟味役小野寺源兵衞川崎金右衞門其外役所へそろひければ繩付なはつきのまゝ傳吉を引据ひきすゑ訴訟人そしようにん上臺憑司かみだいひようじをも呼出し伊藤はいかめしく白洲しらす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なんだつッて?』芋蟲いもむしいかめしさうにつて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
いはば巫覡かんなぎいからしく
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
太く黒い眉、黒い毛を横にかしてあるので益々かくばつて見えるいかついひたひ、それでもつて私は彼をあの旅人だと知つた。
「本當に奇麗な人なら、それでいゝんですけど、あたしなんぞ駄目よ。お化粧しないと、顏がいかつくなつて。」
新婚旅行 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
もう一人、鞍掛藏人くらかけくらんどといふ恐ろしくいかめしい名を持つた浪人者が居候をして居ります。四十年輩ねんぱいの遠縁のお國者で、名前のむづかしいに似ぬ、猫の子のやうな二本差でした。
そして牧師があすこで云はうとしてゐるやうに、確かに最もいかめしい神の裁き、消しがたい業火ごふくわ、死ぬことのない蟲けらの地獄にちて行くのが當然なのだ。
こんなことで外へ出ると、眼の前に、道をへだてていかめしい武家屋敷が立ち塞がつてをります。
田屋三郎兵衞といふいかめしい名は、二本手挾たばさんだ時の名をそのまゝ、器用と小祿で覺えたアルバイトのかざりを、浪人した後の暖簾のれん名、田屋の三郎兵衞と名乘つたといふことでした。
尤も身扮みなりはありふれた町娘で、少しのいかめしさもあるわけはないのですが、折り屈みがキチンとして、少し淺黒くさへある、白粉おしろいつ氣のない顏立ち、それもまた不思議な魅力です。
次の間から出て來た又次郎、——若い美しい女房におぼれ切つて、家業より外には何の樂しみも望みも持つて居ないらしい若者、父親のいかめしい眼を避けるやうに、いそ/\と先に立ちます。
中年の武家は、樣子のいかめしさに似ず、ひどく折入つた態度になるのでした。
庚申塚かうしんづかから少し手前、黒木長者のいかめしい土塀の外に、五六本の雜木が繁つて、その中に、一基の地藏尊、鼻も耳も缺け乍ら、慈眼を垂れた、まことに目出度き相好さうがうの佛樣が祀られて居りました。
御召物は粗末なつむぎで、御羽織は少し山が入つて居ましたが立派な羽二重で御座いました。御紋は丸に二つ引、御腰の物のこしらへも、大變御粗末でしたが、御人柄は立派で、少しいかつい方で御座いました。