おめ)” の例文
しばらく、誰も声を出さなかったが、もう丘に近い河原地まで、敵と、少数の味方との声や打物のおめきが聞えて来たので、刑部は
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵馬は望月家の門前へ立って案内を乞うと、なるほど広庭でもって若い者が大勢、剣術の稽古をしておめき叫んでいました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その時王の使おめいて彼を海へ追い込み、牝馬を伴れ帰って介抱すれば、海馬生まると(一八一四年版ラングレー仏訳『シンドバード航海記』一二頁)
おめき叫ぶ声、射ちかうかぶらの音、山をうがち谷をひびかし、く馬の脚にまかせつつ……時は正月二十一日、入相いりあいばかりのことなるに、薄氷うすごおりは張ったりけり——
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
幸ひに陸尺ろくしやくの七右衞門惡口雜言あくこうざふごんを申し其上太田樣の者共此多兵衞の働きにて引色になりたるを七右衞門大いにいきどほりらいの如くおめいてたちまち嘉川樣の者共を追返おひかへなかにも私しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『進めえッ、進め!』とおめくのである。
弓弦ゆづるを離れた門弟どもや、腕のうずきぬいている剣客の誰彼は、我こそと大刀をぬくが早いか、前後からおめきかかって浪人を取り巻いた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おめいて走り出そうとする。押さえた男、弥吉の顔を壁へ捻じ向ける。とたんに、荒壁の上下左右に火玉が飛んだ、と見えたも瞬間、めりめりと壁を破って両腕を突き出した人間ひとの立姿! それが
それからというもの、史家の裏手の柳圃やなぎばたけでは、必死に教えをうける龍児と師範との「えいっ」「おうっ」のおめきが聞えない日はなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おめきながら、馬の蹄をあげて、だだだだっと、橋板を踏み鳴らして、張飛のそばへ迫りかけた。張飛はくわっと口をあいて
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おめいたが、相手は、抜き合すのも間に合わないのである。余りに自分ら三名の力を信じ過ぎていただけに、狼狽ろうばいの度もひどい。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
部下の血を見ると孟獲は本来の蛮人性をあらわして、おのれとおめきざま、王平へ跳びかかってきた。王平はいつわって逃げだした。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとは一時にすさまじい屋鳴やなりとおめき。ふすま障子の狼藉ろうぜきはもとよりのこと、旅芸人の仮の家だけに、家財器具のなかっただけが幸せです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
草むらの中へ、首を突っこみながら、彼女はおめいた。頭を土にぶつけても、彼女の頭のなかにある、小童こわっぱの城太郎という観念は脱けなかった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、けものの如きおめきをあげ、剣前何ものも無碍むげ、いきなり新九郎の平青眼を踏み割るが早いか、さっと、脳天から褄先つまさきへかけて斬り込んできた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手はしびれて何の知覚もなくなっていたが、だだだと、ふた足三足、床を踏み鳴らしたまま、えおっと、おめいて撃ち返した。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「口ほどでもないやつ」と、追いかけると、陳応は、何をっとおめいて、飛叉ひしゃを投げつけた。趙雲は、それを片手に受けて
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十数万人にのぼる人間が、敵味方にわかれ、京都という一小盆地の底で、夏じゅう、明けても暮れても、おめき合い、殺しあっていたのであった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
囲いの中に、おめきや雑音の騒動がハタとやむと、後はまたもとに返ってソヨともしない森の静けさ——住吉村の奥らしく、ジーッと気懶けだる蝉時雨せみしぐれ
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大蕪菁おおかぶら馬簾ばれんを揉んで急襲し、左右から本庄越前守、山吉やまよし孫二郎、色部修理、安田治部などがおめきかかる形をとった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、いうようなおめきと喚きが、甲冑の響きやつるぎの音に入り交じって、この世のものとも思われない凄愴せいそうこだまを呼んだ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なにを」と、おめきあって、力戦したが、黄蓋にはかなわなかった。馬をめぐらして急に味方の中へ逃げこむと、総軍堤の切れたように敗走しだした。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——すわや」と、太史慈はよろこび勇んで、手勢の先頭に立って壕橋ほりばしを駈け渡り、西門の中へどっとおめき込んだ。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵士らは、どっとおめきかかり、林冲の体をッ伏せ、高手小手に縛り上げて、その日のうち獄へ下げてしまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すわ」と、坂道を下へ、ふりかえった刹那せつなには、味方より多い賊のむらがりが、高い所、低い所、いちめんからおめきかかっていたのであり、仲時の手が
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おめくのを聞くと、残る者たちはにわかに怯気おじけづいて、わらわらともと来た方へ蜘蛛くもの子となって逃げ散った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふたつのおめきが、同時に、お袖のかぼそい影をし伏せた。もろ手を、後ろへられながら、お袖はさけんだ。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらの武器とおめきが、轟々ごうごうと吹きうなる風の音と一つになって、すさまじい乱戦の渦をそこに描き出した。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、味方の物見の者とわかったので、すぐにまた、腰をすえかけると、近づいて来た味方のその物見たちが、口々に、たいへんだっ——といきなりおめいた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これを見、宋江の卑下ひげと関勝の傲岸ごうがんに腹をたてた林冲りんちゅう、史進、秦明しんめい馬麟ばりんなどの連中は、小癪こしゃくな! とばかり前後から、関勝ひとりをつつんで、おめきかかッた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二将はおめき合って血の中へ挺身してきたが、王平、姜維きょういの二軍に阻まれ、かつ手勢を討ち減らされて
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白鞘なので、斬り人は、仮鍔かりつばを入れ、白布で柄巻して、かぶった。慎重な構えと、澄み切った気息の合致したせつな、やッと満身からおめいて、壇の上の鍔を斬った。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かなり沈着な部将にしてさえ、呶罵どば、地だんだ、ただ、てんやわんやのおめきの中に吹きくるまれる。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「心得たり」と、聞えたと思うと、彼は画桿がかん大戟おおほこをふりかぶって、董卓の眼前に躍り立ち、「勅命によって逆賊董卓を討つ」と、おめくや否、真っ向から斬り下げた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上から婆がおめいているまに、又八は耳もかさず、木の根にすがりながら深い沢へ降りてしまった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おめいた一人が、槍もろとも、躍りかかると、張飛は、団扇うちわのような大きな手で、その横顔をはりつけるや否や、槍を引ッたくって、よろめく尻をしたたかに打ちのめした。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、関羽、張飛など、平原から夜を日に次いで駆けつけて来しともがらが、一度におめきかかって来た。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「我こそ、彼の首を」と、おめきかかるし、退こうとすれば、部下を督戦して叫んでいる自己の言を裏切るものだし、曹操もまた自縄自縛に陥ってしまうような苦戦だった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちまち、砂塵を捲いて、霹靂へきれきに似たおめきに狂う龍虎両雄の、三度目の一騎討ちが始まった。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十数人の部下はみな諸洞の中でも指折りの猛者もさばかりだし、弟の孟優も重なる怨みに燃えているので、「おうっ」「わあっ」と、おめき合って、どっと、四輪車へ向ってきた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、おめきあわせて、槍をたくった大介は、それを持ち直して、相手の胸いたへ突き返した。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おめきつつ、阿修羅あしゅらのように、槍もろとも、泥水をね上げて突ッかけて来る人間を見ると
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くともおめくともつかない怒号をつづけて暴れ狂った。醜態といえば醜態なほど嘆いた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城太郎は、呪文じゅもんのように、一刀ごとにおめきながら、残る二人を敵にまわして斬りむすぶ。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
徐晃じょこうは、蜀兵を見ると、終日の血の飢えを一気に満たさんとする餓虎のようにおめきでた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呂布は、怪しみながらも、そこで出会った陳宮の兵を合わせ、彼を連れて蕭関へ急いで来たが、そこへ近づくや否や、砦の内から一斉に曹操の兵が不意を衝いておめきかかってきた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
張任の一令に、なお背後にのこっていた数千の兵は、どっとおめきかかって行った。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、相手の耳もつんぼにしてしまおうと計ってでもいるように、おめはやした。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつのまにか迂回していた蜀の姜維きょうい、関興の二将がおめきこんで来たのである。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駆けちがう万騎のひづめ弩弓どきゅうのうなり、鉄箭てっせんのさけび、戛々かつかつと鳴るほこ鏘々しょうしょう火を降らしあう剣また剣、槍はくだけ、旗は裂け、人畜一つおめきの中に、屍は山をなし、血は雪を割って河となした。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)