喉笛のどぶえ)” の例文
あんなむごたらしい目に逢はせた、惡者を擧げて下さいますやうに。私はもう、喉笛のどぶえへ噛み付いてやりたいやうな心持になつて居ります
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
その喉笛のどぶえには娘がえりに刺した筈の針がささっている、娘は悲鳴をあげると地にくずおれた、従者たちは叫びをあげて逃げ散った。
と、啓之助をゆすっていると、どこからか、ヒュッ——と風を切ってきた矢が、三次の喉笛のどぶえを貫いて、白い矢羽やばねを真ッ赤に染めた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし畜生の悲しさには、それとも知らぬ狼の群は彼の正面に半円を書いて喉笛のどぶえを狙ってパッパッパッと電光のように飛びかかる。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「だって才次の野郎はあにいを恨んでたろう」と金太は云った、「いつでも隙があったら喉笛のどぶえへくらいつきそうな顔をしてたぜ」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
安「只今に成って婆さんに帰ってくれろと申しまするとんなにおこるか知れません、私の喉笛のどぶえへ喰い付きそうな権幕ですから」
「実際、考えて見ると床屋ぐらい信用のある商売はありませんな。俺は斯うやって旦那の喉笛のどぶえへ剃刀へ当てがっています」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
倉地は喉笛のどぶえをあけっぱなした低い声で葉子の耳もとにこういってみたが、葉子は理不尽にも激しく頭を振るばかりだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
弥五右衛門は「喉笛のどぶえを刺されい」と云った。しかし乃美が再び手を下さぬ間に、弥五右衛門は絶息した。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
若い地鶏は、勝にじょうじてそのあとを追ったが、やがて、築山の頂に立って大きな羽ばたきをした。そして牝鶏の群を見おろしながら、たかだかと喉笛のどぶえを鳴らした。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
仰向あおむきに倒れてもがいている熊の喉笛のどぶえに、虎の牙が突き刺さっていた。強靭きょうじんな肩の筋肉がムクムクと盛りあがって、太い首が鋼鉄の器械のように左右に振り動かされた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いっそ飛びかかって白い喉笛のどぶえを食い切ってやろうかとまで、劇しい忿怒ふんぬにかられていた。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「どうしてもこうしてもあるものか。御定おさだまりのつのをはやしたのさ。おれでさえこのくらいだから、お前なぞがって見ろ。たちまち喉笛のどぶえへ噛みつかれるぜ。まず早い話が満洲犬まんしゅうけんさ。」
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
竹のほこにてみずから喉笛のどぶえを突き通して相果てた。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
喉笛のどぶえにそとすべらせば
玉盃の曲 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
片手にはドギドギする剃刀を持つて、喉笛のどぶえを狙ひ寄るやうに——思はずアツと聲をあげて、その剃刀の手を掴んだのも無理でせうか
と、逸早くその手はサッとうしろへ逃げて、万太郎の短気、あわや、自分の小柄こづかで自分の喉笛のどぶえを切ってしまうところでありました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孝「困りますな、みす/\鼻の先へかたきが出れば仕方がございませんから、立派な侍でもなんでもかまいません、とびついて喉笛のどぶえでも喰い取ってやります」
彼は見物席に向かってと声高く咆哮ほうこうしたかと思うと、いきなり二本の前脚を倒れている美女の胸にかけて、その喉笛のどぶえに、今度こそは生きた人間の喉笛に、きばを突き立てようとした。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その混乱の中に、あるいは今自分は倉地の喉笛のどぶえに針のようになった自分の十本のつめを立てて、ねじりもがきながら争っているのではないかとも思った。それもやがて夢のようだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一匹の巨大な白犬が、人間の男を抱きすくめ、その喉笛のどぶえを食い裂いているのです。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小町 まあ、何と云う図々ずうずうしい人だ! 嘘つき! 九尾きゅうびの狐! 男たらし! かたり! 尼天狗あまてんぐ! おひきずり! もうもうもう、今度顔を合せたが最後、きっと喉笛のどぶえみついてやるから。口惜くやしい。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
傷口は喉笛のどぶえから右耳の下へなゝめに割いた凄まじいもので、得物は匕首あひくちか脇差か、肉のハゼて居るところを見ると、相當刄の厚いものらしく
子之吉は、筏をはなすと同時に、脇差わきざしをぬいて、みごとにわが喉笛のどぶえをかッ切ったまま、ほりのなかへ身を沈めてしまったのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とあわや喉笛のどぶえへ突き立てようと身構えました。さて文治が再度の難船に舟人諸共もろとも気絶いたしました次第は前回に申上げました。天義士を棄てず、あたりの船頭がこれを見付けまして
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さてしばらくみ合いまするうちに、猛獣のいずれかが傷つくは必定ひつじょう、さあ、一たん血を見ますると、肉にえたる彼らは、俄然がぜんとしてその兇暴きょうぼう性を増しきたり、ついには敵の喉笛のどぶえ
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうして喉笛のどぶえを噛み切った。虚空こくうつかむ指が見えた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「その通りだ、——物置の羽目板に立つた矢を拔いて、お駒の喉笛のどぶえへ突つ立てた奴が居るんだ。現場でその證據を見せてやらう」
いきなり締めつけられたような呼吸の逼迫ひっぱくを感じると、もう、うしろの人間の五本の指が、食いこむように左右太の喉笛のどぶえを、圧していた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と考えて居りますと、片方かたっぽでは片手でさぐり、此処こゝあたり喉笛のどぶえと思う処を探り当てゝ、懐から取出したぎらつく刄物を、逆手さかてに取って、ウヽーンと上から力に任せて頸窩骨ぼんのくぼ突込つッこんだ。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「さような女の怨みなど、恐れて恋が出来ようか。もうこうなれば二人の中、どっちか死なずば納まるまい。右衛門さんのお身の上、どうなるものか気にはかかれど、降りかかる火の粉は払わねばならぬ。そっちが鎌ならこっちはこれじゃ。喉笛のどぶえ刺されぬ用心しや」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つかみに行くのじゃ。——オオ、一度江戸表へ立ち帰った上に、改めて、阿波二十五万石の喉笛のどぶえへ、とどめを刺しに出なおそう!
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お濱さんが一應疑はれるわけさ、が、正面から喉笛のどぶえへ突き立てた出刄が、後ろへ突き拔けるほど深く刺してあるんだぜ、全く恐ろしい力だ。
死骸は喉笛のどぶえを左から掻き切られ、足を縁側に投出して、それでもたしなみよく、半分疊の上に、押しつくねたやうにこと切れて居りました。
一足飛びのいた作左衛門が喉笛のどぶえ狙って突き上げた手練のはやさ誤またずぐさッと刺したので、血は水玉と四辺あたりに飛んだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と見るや、あの直刄すぐばの匕首が火の中をサツと飛んで、縁側で呆然と見て居る鶴屋利右衞門の喉笛のどぶえへグサと突つ立つたのです。
ギュッと喉笛のどぶえをしめつけられ、さらにうらみかさなるこぶしの雨が、ところきらわずに乱打らんだしてきそうなので、いまは強がりンぼの鼻柱はなばしらがくじけたらしく
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「血がひどいから滅茶滅茶に見えるが、後ろから抱きこむように、急所を狙って喉笛のどぶえを掻き切ったのは大した手際だね」
驚いた薛覇せっぱが、上を見て、あッ——といったと思うと、これまた、クルクルッと体を廻してぶっ仆れた。その喉笛のどぶえにも、彼方の死骸にも、矢が立っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
調べて見ると、傷は後ろから抱きすくめて喉笛のどぶえをゑぐつたらしく、大變な血ですが、其處には刄物も落ちては居ません。
あかやりがサッとさがる——玄蕃はふみこんで、二の太刀をかぶったが、そのとき、流星のごとくとんだやりが、ビュッと、鬼玄蕃おにげんば喉笛のどぶえから血玉をとばした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
顔へ掛けたきれを取ると、荒縄で喉笛のどぶえを絞め上げられた、番頭正次郎の顔は、二た眼とは見られないすさまじいものです。
袖に巻いて、あわや、自分の喉笛のどぶえ——グサッと突き立てそうにしたので、万吉があわてて袖を引っ張ると、お綱はそれを振りもぎって、パタパタと奥の部屋へ。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少し乗出し加減に虚空こくうつかんでおりますが、深々と喉笛のどぶえをえぐった傷の様子では、声をも立てずに死んだ様子です。
「いや、俺の立場としては、断じて、生かして置くことはゆるされない。見ていてくれ、今にきっと、喉笛のどぶえを掻っ切られた綽空の空骸むくろが、往来にさらされる日がやってくるから」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傷は左の喉笛のどぶえ、二丁剃刀かみそりか、細身の匕首あひくちか、さう言ふもので掻き切り、あまり聲も立てずに死んだことでせう。
幾度か、瀬兵衛のすがたは、朱をあびて、よろめいたが、ひょうのごとく、躍ってはまた、敵をたおした。——というよりは、遂には、口をもって、敵の喉笛のどぶえへ噛みつくような勢いだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
噛み切つた夜具の袖の布だよ、——下手人はお君の喉笛のどぶえを切つて、直ぐ夜具の袖で口を押えたのだ。聲を
「ウーム……」と、源次は縄の輪に喉笛のどぶえをしめられて、苦しそうな眼を吊りあげた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喉笛のどぶえ、少し右寄り、前から後ろへ突き拔けるほどの傷で——部屋の中には血の氣もない短刀が一つ」
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)