医師いしゃ)” の例文
旧字:醫師
金と云ってもいくら埋めて好いか判らない、それに医師いしゃや葬式のために非常に入費がかかって、現金があまりないことは判っていた。
餅を喫う (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は、元来、この町に、立派な玄関を磨いた医師いしゃのうちの、書生兼小使、と云うが、それほどの用には立つまい、ただ大食いの食客いそうろう
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれとらえられていえ引返ひきかえされたが、女主人おんなあるじ医師いしゃびにられ、ドクトル、アンドレイ、エヒミチはかれ診察しんさつしたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
二時ごろに、昨夜ゆうべ医師いしゃが来て診て行った。医師は首をかしげながら、叮寧ていねいな診察のしかたをしていたが、別に深い話もしなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今までに覚えたことのない軽い一種の眩惑めまいを感じる。「君、どうかしたんじゃありませんか、医師いしゃに見てもらうほうがいいですぜ」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「自分は医師いしゃでありながら、何故う不注意だろう。」と、彼は自己おのれを叱っても追付おっつかない。市郎は余りに慌てて我家を出たのであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「御免なされませ。まことは私、盗みました。それも母親の大病、医師いしゃに見せるも、薬を買うも、心にまかせぬ貧乏ぐらしに」
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
なおると医師いしゃもいうじゃアないか。ねエ浪さん、そうじゃないか。そらアおっかさんはその病気で——か知らんが、浪さんはまだ二十はたちにもならんじゃないか。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
医師いしゃを呼べ、医師を呼べと怒鳴る。家の悪戯小僧の仕事ですとお父さんは言訳しても、早くしないと恐水病になる、恐水病になると剛情を張る。真正ほんとうに年寄は聞分けがない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
『ウン。警察では又かチウて笑いよった。いま警察から医師いしゃが来て診察するち云いよった』
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
医師に掛かると、傷寒しょうかんの軽いのだということだったが、今日でいえばちょうチブスであった。お医師いしゃは漢法で柳橋やなぎばしの古川という上手な人でした。前後二月半ほども床にいていました。
元より大病というではありませんから今はお医師いしゃにもかゝらず、たゞ気まかせにさせてあるんで、尤も最初はじめのうちは晋齋も可愛そうだと思召し、せめて病気だけはなおしてやろうと
「一体どうしたのだ。医師いしゃを五六人呼んでこい。早く早く」
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『師匠、お医師いしゃをお呼びいたしますから……』
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
老公はまたお医師いしゃ宗典そうてんをかえりみて
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(高松のお藤さん)(長江のお園さん、おみつさん)医師いしゃの娘が三人揃って、(百合さん)(婦美ふみさん)(皐月さつきさん)歯を染めたのでは
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暑中休暇中には、どうしても快復させたいという考えで、清三は医師いしゃを変えてみる気になった。こんどの医師は親切で評判な人であった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「そんなに酒を飲んでもいいらか。あの医師いしゃがああ言うくらいだで、どこかよい医師に診てもらうまで、むやみなことをしない方がいい。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私の父と云うのは、私の家へ養子に来て、医師いしゃになったものでありまして、もとは小学校の教師をしておりました。
薬指の曲り (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
揺つてみても正体がないので、それから大騒ぎになつたのですが、継子さんはもうそれぎり蘇生いきかえらないのです。お医師いしゃの診断によると、心臓麻痺まひださうで……。
「いいえね、あちでも——医師いしゃも待ってたし、暮れないうちがいいから、すぐ今度の汽車で、ね」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
けれども、医師いしゃにもかけましたが、やっぱり加減はよろしき方には向わず、段々大儀が増すばかり故、ついに私も意を決し、これは母のために面倒を見るものが必要であると考えて来ました。
「ウハッ。あの若い医師いしゃか……」
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ちとたりないほどの色男なんだ——それが……医師いしゃも駆附けて、身体からだしらべると、あんぐり開けた、口一杯に、紅絹もみの糠袋……
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ようやく小学校を出た時分から男とと関係して、田舎の医師いしゃのところへ縁づく前には、ある薪炭商しんたんしょうの隠居の世話になっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
医師いしゃは一週間目に大便の試験をしたが、十二指腸虫は一疋もいず、ベン虫の卵が一つあったばかりであった。けれどこれは寄生虫でないから害はない。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
医師いしゃはその水を液量器の中に垂らして細君さいくんの口元に持って往った。細君は泣きじゃくりしながらそれを飲んだ。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
現に浪のおとっさんもあんな健康じょうぶかたですし、浪の妹——はああのおこまさんです——あれも肺のはの字もないくらいです。人間は医師いしゃのいうほど弱いものじゃありません、ははははは
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
方々の医師いしゃにも診て貰ったが、どこでも申合わしたように、お前のからだには決して刺青なぞをしてはならぬ、そんな乱暴なことをすると命がないぞと、おどかすように誡められるのですが
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その人というのは小柄な人で、ひげをちょいとやし、打ち見たところお医師いしゃか、詩人か、そうでなければ書家画家といったような風体で至極人品のよい人である。格子こうしの外から熱心にのぞいて見ている。
医師いしゃに見せたかね」
眼を開く (新字新仮名) / 夢野久作(著)
男はまだしも、おんなもそれです。ご新姐しんぞ——いま時、妙な呼び方で。……主人が医師いしゃの出来損いですから、出来損いでも奥さん。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
終局は誰が勝利を占めるか……そうしたブルタルな気分にかわくこともあった。若いその医師いしゃは、容易に症状を告げなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すると四番目の女の子がその音に驚いて引きつけ、医師いしゃにかけたがなおらないで八月の十五日に歿くなった。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おしいことをたな。今お医師いしゃが来て、角川の小旦那は蘇生いきかえったぞ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今宮辺の堂宮の絵馬を見て暮したという、ひま医師いしゃと一般、仕事に悩んで持余もてあました身体からだなり、電車はいつでも乗れる。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
欽也は気取った医師いしゃらしい風をしてじきにやって来たが、笹村の方からもその後お銀と一緒に出かけて行った。そして連れ立って寄席よせなど聞きに入った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「お前さんが表の戸を開けに往って、ひっくりかえったきりで、判らなくなったから、お隣の方に来てもらったり、お医師いしゃを頼んだりして、大騒ぎしていたのだよ」
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「大丈夫だとお医師いしゃ受合うけあった。何しろ、早くあがって来い。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この頃、また、ちっと塩梅あんばいが悪いので、医師いしゃへ通っていますから、今日こちらへお出でなさる事も、貴下がお出掛けの直ぐあとへ行って聞いて来ました。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「大変な歯ですね。よく今まで我慢していましたね。」と医師いしゃに言われてきまりがわるいくらいであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
甚内は、狸が人に化けるには、木の葉を舐めて貼ると聞いているが、なるほどそうだなと感心して見ていると、狸はもう立派な医師いしゃになって、薬籠さえかまえていた。
村の怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ごくごく内証ですが、日本橋のお医師いしゃで、山の井光起さんとおっしゃる方、という。いよいよとなりましたろう。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あから顔の医師いしゃ薬籠やくろうを持ってあがって来た。医師いしゃは細君の傍へ往って四辺あたりの様をじっと見た。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
毒じゃない、私は医師いしゃです。早くお飲みなさい。という顔をまずきって、やがて四辺あたりを見廻しつ、泰助に眼をそそぎて、「あれは誰方どなた。泰助は近く寄りて、 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
河野はその時長沢在仲ながさわざいちゅうと云う医師いしゃを紹介者として、山女やまめを持って面会を求めた。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
……医師いしゃげた、この別嬪べっぴんさんの使ですかい、きみは。……ぼくは店用で行って知ってるよ。……果報ものだね、きみは。……可愛がってくれるだろう。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其の当時は、医師いしゃに免許状を持たした時で、それまで医師をやっていた家へは、内務省からお情け免状をくれました。で、父は祖父が亡くなりますと、其のまま家業を継いで医師になりました。
薬指の曲り (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
医師いしゃを煩わすほどでもなかった。が、繃帯ほうたいした手に、待ちこがれた包を解いた、真綿を幾重にも分けながら。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この国の海岸の町に生れて三つの年に医師いしゃをしていた父に死なれ、母親が再縁した漁業会社の社長をしている人の処で大きくなり、三年ぜんに母が亡くなったころから家庭が冷たくなって来たので
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)