傀儡かいらい)” の例文
彼は、自分の意志で働くというよりも、女の意志によって働く傀儡かいらいのように立ち上ると、座敷に置いてある桐の茶箪笥に手をかけた。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
俗見の傀儡かいらい同様だッた俺の半生を諷刺し、俺を悲運に沈湎ちんめんさせた卑小な気質に報復するのに、これこそは恰好な方法だと思った。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もうどうしようにも仕方がない境遇が私を引っ張って行く。今さら出家はもう出来ぬ。私は境遇の傀儡かいらいとなって盲目めくら滅法に進むまでじゃ。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そしてこの種の小説の欠点としては、作中人物が作者によって勝手に操縦される傀儡かいらいになりがちだということが、指摘される。
死刑囚最後の日解説 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
友之助が真犯人の傀儡かいらいに過ぎなんだ様に、友之助を射った曲者も同じ傀儡の一人かも知れない。元兇は遠いもやの中に全く姿を隠している。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「じゃ、矢張り、悪人たちの手で、傀儡かいらいに使われたのだろう。しかし、そのわが子を、作兵衛は何でこんなに窮命きゅうめいするのか」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヘロデ党はローマ帝国の立てた傀儡かいらい政権たるヘロデ家を支持する党派であった。これらすべてに対して抗議するエッセネ派という一派もあった。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
が、それすら世間は春廼舎の別号あるいは傀儡かいらいである如く信じて二葉亭の存在を認めるものは殆んどれであった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「僕の立場も少しは察してくれ給え。今度君が帰らなければガヷナーはイヨ/\僕を君の傀儡かいらいと思い込む。僕だって辛いぜ。居心いごころが悪くなるばかりだ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それだのに今自分にあの男を自分の欲望の傀儡かいらいにしようと思っていたような気がしてならないのは何故だろう。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
しかしそれもさして悪くはない、権力争奪の傀儡かいらいにされるより、はるかに人間らしく、生き甲斐もありそうだ。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夫のために犠牲として、夫の事業の傀儡かいらいとなったのであろう。けれどそれは最初のことで、運命は転換した。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その何物かは葉子のすぐ手近にありながら、しっかりとつかむ事はどうしてもできず、そのくせいつでもその力の下に傀儡かいらいのようにあてもなく動かされていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
○どんなに個性の強烈な演出者と、どんなに従順な俳優とを結びつけても、俳優が生きているかぎり、彼が文字どおり演出者の傀儡かいらいになりきることはあり得ない。
演技指導論草案 (新字新仮名) / 伊丹万作(著)
聴覚のほうが主になれば役者は材木と布切れで作った傀儡かいらいでもよい。人形芝居がすなわちそれである。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
十年か十五年か前に見た一婦人にたいする、空想的な馬鹿げた恋で身を焦がしてるある傀儡かいらいを、示さんがためであった——あるいは、恋人に愛されないからといって
描かんとする人物に対して、著作者の同情深厚ならざるときはその制作は必ずうるおいなき諷刺にち、小説中の人物は、唯作者の提供する問題の傀儡かいらいたるにおわるのである。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかも、以前から人知れず強い憎悪にくしみの矢を放って、お艶という女を呪いつづけてきた弥生のことである。このお藤の傀儡かいらいに使われるとは、もとより気づこうはずがない。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
庸三への計画的な復讐ふくしゅうの筋書として、傀儡かいらいあやつっている清川が別室に来ていたのに違いなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
先日のラウペパ王訪問は、果然、大騒を惹起ひきおこす。新しい布告が出る。何人も領事の許可なくして、又、許されたる通訳者なしには、王と会見すべからず、と。聖なる傀儡かいらい
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
完全に梅吉の傀儡かいらいになつて、父の激怒に觸れたり、座敷牢に入れられたり、其處を脱出して女に逢つたり、それを此上もなくロマンテイツクな遊戯いうぎと思ひ込んで居たのでせう。
黒吉には、その哀れな傀儡かいらいであった由子を忘れても、葉子を忘れることは出来なかった。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
それは多分色道しきどう飽食者ほうしょくしゃである夫人が僕の変質に興味を持っているのであるか、それとも、ひょっとすると、同志林田の指摘したように僕の身辺しんぺんねらう一派の傀儡かいらいで、古い手だが
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、これからあとの江島屋一家の運命は例の傀儡かいらい的な因縁また因縁で甚だ妙でない。
今日では山家さんかが浮浪民中の主なものとなっておりますが、昔は傀儡子かいらいしと言ったものがありました。後世では人形使にんぎょうつかいのことのみを傀儡子かいらいしだと心得、人形の事を傀儡かいらいだと云っております。
生活の主体は社会と歴史であって自己はただその傀儡かいらいにすぎない。常識の効果はただこれに則って生活すれば共同生活において安全に生命を維持することができるということに存する。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
常に蝙蝠こうもり傘をもって漫画に描かれた優柔不断のルイ・フィリップがブルジョアジーの傀儡かいらい君主として王位についた時、一層凡庸化し、銭勘定に終始する俗人共の世界に反抗して、ユーゴー
バルザックに対する評価 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
あのような——私をご自分の傀儡かいらいにして、御隠居さまともどもに港の街をはなれさせ、お上の注意をそちらへむけた内に大きなお仕事をなさる計画も、おたてになったのでございましょう。
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
いつの間にか心も体も全く信一の傀儡かいらいとなるのを喜ぶようになってしまった。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かつて自分の夫が、彼らは血も涙も持たない資財の傀儡かいらいだ! と罵倒ばとうした言葉はまったく反対な作用で彼女に働きかけていた。彼女は血も涙もある人間の前に、小さな感謝の塊になっていた。
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その傀儡かいらいであることを知らないで無心で動いている童女のようにも真佐子が感ぜられるし、真佐子を考えるとき、あわれさそのものになって、男性としての彼は、じっとしていられない気がした。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
資本家の傀儡かいらいどもが、商品を濫造らんぞうするように、濫造した、出来合いの御用思想だけが、思想だと思うことをやめて、僕らにゃ僕らの考え方、行ない方があることをハッキリ知らなきゃならないんだ
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
清麻呂の態度は明らかに、阿曾麻呂は道鏡の旨をうけて贋神教をもたらした傀儡かいらいであると断じている。清麻呂の神教自体の語るところが、そうでなければ意味をなさぬ。女帝は道鏡を知っていた。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それはつまり、お前は傀儡かいらいであるからである。竿を持った人形が、人形使いの意のままに動いて観衆を感動させたということは、人形に人形使いの精神と技術とが乗り移ったからであるといえよう。
(新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
閧声ときのこえをあげて押し寄せる帝国主義の傀儡かいらい、近衛の将校は
「これは陰謀でございますな。狐狸の所業しわざではありませんな。怪しいのはその女で、何者かの傀儡かいらいではございますまいか?」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
義昭将軍などは、そのあやまちを、もっともよく身にあらわして、盲動派の傀儡かいらいとなるに都合のよい、位置と性格の人だった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
考えて見ると、私はまるで彼奴の傀儡かいらいにされた様なものだね。彼奴の予め拵えて置いた偽証を、そのまま、彼奴の推理を
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼の生活がすさむに従って、彼は単なる傀儡かいらいであるような異性の代りに、もっと弾力のある女性を愛したいと思った。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その翌日でござる、読者諸君、奸悪無道なる一味は、巧みに病床の伯耆守を動かして重職一統を召集し、いかがわしき若殿を傀儡かいらいにいよいよ御為派追放を計り申した。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
(白人に立てられた傀儡かいらいではない)彼等の心から推服する真の王者へと贈られた・大小酋長からの献上品だ。役人や人夫が列をなして歌をうたいながら贈物を次々に運び入れる。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
完全に梅吉の傀儡かいらいになって、父の激怒に触れたり、座敷牢に入れられたり、そこを脱出して女に逢ったり、それをこの上もなくロマンティックな遊戯ゆうぎと思い込んでいたのでしょう。
それはどっちかが軽蔑けいべつしているのだ。どっちかがすくんでいるのだ、でなければもっと、重大な、何か、ふたりは、表向きだけの夫婦ごっこ、互に傀儡かいらいになったことを知りすぎているのだ。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
惨殺ざんさつ、麻酔、魔薬、妖女ようじょ、宗教———種々雑多の傀儡かいらいが、香の煙に溶け込んで、朦朧もうろうと立ちめる中に、二畳ばかりの緋毛氈ひもうせんを敷き、どんよりとした蛮人のようなひとみえて、寝ころんだまま
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いや現に、洵吉自身ですら、タッタ一度、二三時間の訪問で、すっかり水木の捕虜とりことなり、彼の意のままに、奇怪な写真の創造に欣々と、従う一個の傀儡かいらいとなってしまっているではないか……。
魔像 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
私は結局、傀儡かいらいである。X大使の手によって、勝手にうごかされている人形でしかない。私は口惜しかった。だが、どうすることもできない。なに分にも、相手は四次元の生物X大使だから……。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
崇徳すとく天皇も、近衛幼帝も、みなこれ、かしこ傀儡かいらいたるにすぎません。神にもあらず、人間にもあらず、ただしきかげの御生命であったに過ぎない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父の一喝いっかつって、這々ほうほうていで、逃げ帰った杉野子爵ししゃくは、ほんの傀儡かいらいで、その背後におそろしい悪魔の手が、動いていることを感ぜずにはいられなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
韮崎も今度の男も、あまりに易々やすやすと自決をした。少しもねばりがなく、思い切りがよすぎるという点です。僕は何だか魂のない傀儡かいらいのように感じられるのですよ。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
越中守様を傀儡かいらいとして、田沼様の権勢を傾けようとする、その首謀者であるからで、この手へもしもお浦が渡り、お浦が越中守様に逢われたら、その品が越中守様の手へ渡るからであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)