俯向うつむき)” の例文
さかしまに天国を辞して奈落の暗きに落つるセータンの耳を切る地獄の風はプライド! プライド! と叫ぶ。——藤尾は俯向うつむきながら下唇をんだ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抱起だきおこして「これ、俯向うつむき轉倒ころばしゃったな? いま一段もっと怜悧者りこうものにならッしゃると、仰向あふむけ轉倒ころばっしゃらう、なァ、いと?」とふとな
「泳ぎ自慢の若旦那が、ふなばた俯向うつむきになつてゲエゲエやつて居るから、つい惡戯いたづらがして見度くなつたまでのことですよ、親分」
つまり、ソバカスと思ったいさな斑点は、被害者が心臓を突き刺されて、俯向うつむきになったままバッタリとノビてしまったトタンに、めり込んだ鉄屑なんだ。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
まへおもりがすぎるからいけないかく手紙てがみをやつて御覽ごらんげんさんも可愛かあいさうだわなとひながらおりきれば烟管掃除きせるそうじ餘念よねんのなきは俯向うつむきたるまゝものいはず。
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いつも子供が寝ると、自分も一しょに横になっているのが、その晩は据わって俯向うつむき加減になっていて、末造が蚊屋かやの中に這入って来たのを知っていながら、振り向いても見ない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
知ずやと仰せ有ければ流石さすが不敵ふてきの段右衞門もたゞ茫然ばうぜんとして暫時しばらく物をも言ず俯向うつむきて居たりしが何思ひけんぬつくと顏をあげ今迄いままでつゝみ隱せし我が惡行あくぎやう成程穀屋平兵衞を殺害し金子百兩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして、家と家に挟まれた耕地の所まで乗り付けた時、左側の家の背戸畑の上に俯向うつむきに倒れている人影を見た。彼は馬から飛び下りて人影の側へ走って行き、その人間を抱き起した。
死の復讐 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
直接の関係はなくとも、く間接の感化かんくわをうくるものなれば、尊敬の意をうしなふまじきものなりなど、花は見ずして俯向うつむきながら庭をめぐるに、花園はなぞのひらきて、人の心をたのします園主ゑんしゆ功徳くどく
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
彼女は押入れから布団を出して、頭からそれを引っかむって俯向うつむきになった。
窃む女 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
ぺたんこともゆがんだとも、おほきな下駄げた引摺ひきずつて、前屈まへかゞみに俯向うつむいた、瓢箪へうたん俯向うつむきに、出額おでこしりすぼけ、なさけらずことさらにいたやうなのが、ピイロロロピイと仰向あふむいていて、すぐ
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それに始終俯向うつむき加減に伏目になって、あまり口数もきかず、どこかまだ座敷馴れないような風だから、いかにも内輪うちわなおとなしい女としか思われません。長くこんな商売をしていられる身体じゃない。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「話しにくい?」と云いながら主人は武右衛門君の顔を見たが、先方は依然として俯向うつむきになってるから、何事とも鑑定が出来ない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わだかまりもなく言つて、俯向うつむき加減に莞爾につこりします。こんな無禮な仕打は、日頃の家光には見ようつたつて見られません。
亡夫やどが「これ、俯向うつむき轉倒ころばしゃったか? いま適齡としごろにならッしゃると仰向あふむけ轉倒ころばッしゃらう、なァ、いと?」といふとな、啼止なきだまって「あい」ぢゃといの。(笑ふ)。
お前は思ひ切りが宜すぎるからいけないともかく手紙をやつて御覧、源さんも可愛さうだわなと言ひながらお力を見れば烟管掃除に余念のなきか俯向うつむきたるまま物いはず。
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
改るに質物と見えみな質札しちふだの付たるまゝにて大風呂敷に一包みあるゆゑヤイおのれいづれの者ぞ尋常に申立よと有りしかば久兵衞は俯向うつむきたりしがかしらあげ私しは山崎町油屋五兵衞方の番頭を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
八五郎が避けたのを見ると、五十年輩の浪人者が一人、一刀を提げたまま、自分も脇腹をえぐられて、土間の床几しょうぎ俯向うつむきになって死んでいるではありませんか。
やがて女の頬はほてって赤くなった。白粉おしろいをつけていないせいか、その熱った頬の色が著るしく私の眼に着いた。俯向うつむきになっているので、たくさんある黒い髪の毛も自然私の注意をく種になった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手に持たり是別人ならず島田宿の旅籠屋水田屋藤八成ば別て惣内源藏の兩人は愕然ぎよつとしたる樣子にて俯向うつむき居るに藤八は一同へ向ひ茲な名主惣内殿并に手代の源藏兩人盜賊たうぞくと見たは違ひなしコレ名主手代のしう昨日きのふあさ此九助殿の親類周藏嘉平次といつて確な證據しようこ日蓮樣の曼陀羅まんだら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「もう一つ、喉を刺されて膝も崩さずに俯向うつむきになつて居るのをお前は變だと思はないか」
俯向うつむきになつて死んで居るお縫の姿は不思議に夜の寢卷姿ではなく、見よげな晝の姿——帶は解いて居りますが銘仙の袷に、キリキリと赤い扱帶しごきを卷いて居るのが、異樣に目立ちます。
娘はさすがに極りが惡かつたものか、床の上へ起き直らうとしましたが、眩暈めまひでもしたものか、あわてて前褄まへづまを掻き合せて俯向うつむきになつてしまひました。どこかひどく痛む樣子です。
「井戸端の石の上に俯向うつむきになつてゐました。もう正氣もなかつたやうです」
「井戸端の石の上に俯向うつむきになっていました。もう正気もなかったようです」
凄まじい恐怖きようふが、花火のやうに炸裂さくれつしたのも無理はありません。部屋の中に若い娘が一人、首に強靱きやうじん麻繩あさなはを卷かれ、その繩尻を二間ばかり疊から縁側に引いて、俯向うつむきになつたまゝ死んでゐたのです。
「お寢卷のまゝ、俯向うつむきになつて居ました」