乙姫おとひめ)” の例文
「——いつちく、たつちく太右衞門どんの乙姫おとひめ樣は、湯屋で押されて泣く聲聞けば、ちん/\もが/\、おひやりこ、ひやりこ——」
またその鐘の面に柄附えつきの鐘様のくぼみあり、竜宮の乙姫おとひめが鏡にせんとて、ここを採り去ったという、由来書板行して、寺で売りいたと。
それも浦島太郎と乙姫おとひめの約束事のやうなもので、二人が行き合つてみなければ、はつきりと、確かめられるわけのものでもない。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
やがて乙姫おとひめさまについて、浦島はずんずんおくへとおって行きました。めのうの天井てんじょうにさんごの柱、廊下ろうかにはるりがしきつめてありました。
浦島太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
艶々つやつやしたる島田髷しまだまげも少しとけかかり、自由自在に行きつもどりつして泳ぐさまは、たつの都の乙姫おとひめが、光氏みつうじを慕って河に現じたり。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それは、客観的には浦島太郎が、龍宮の乙姫おとひめ様のところから、帰って来るのではないかと思われるほど、美しく、詩的であった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ウミイチゴは、まっ赤な大きないちごそっくりで、まったく、おとぎ話の龍宮城の、乙姫おとひめさまの花園といったらいいだろうか。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
そんなことでもできなければ、たッた一人ひとりで、腰元こしもとれずに、竜宮りゅうぐう乙姫おとひめさまをおたずねすることはできはしませぬ。
見物がいくばくとも数知れず出たのでしたから、ちょっと見られぬ有様でして、しまいには柳橋の芸者が、乙姫おとひめになってこの水神祭に出るという騒ぎでした。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
ちつとも恐がることもなければ、吃驚びつくりなさることもありません。わたしは竜宮から来た使者つかひでございます。正助さんを竜王さま、乙姫おとひめさまが御召おめしでございます。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
保吉はこう云う色彩の調和に芸術家らしい満足を感じた。殊に乙姫おとひめ浦島太郎うらしまたろうの顔へ薄赤い色を加えたのはすこぶ生動せいどうおもむきでも伝えたもののように信じていた。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしながら、大阪のカフェーは旅の空か何かで訪問したらさぞ不思議な竜宮りゅうぐうだろう。和洋の令嬢と芸妓げいぎ乙姫おとひめのイミタシオンたちがわれわれをすぐに取り巻いてくれる。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
白雪はくせつ竜馬りゅうめにめされ、なぎさを掛けて浦づたい、朝夕の、あかね、紫、雲の上を山の峰へおしのびにてお出ましの節、珍しくお手にりましたを、御姉君おんあねぎみ乙姫おとひめ様へ御進物の分でござりました。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(中略)おれこそはその者だ、たったいまからおれがこの国の支配者だ(彼はさらに両手を高くあげて叫ぶ)、よく聞くがいい、おれはいま乙姫おとひめがおれの妻だということを宣言する
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
王のそばには紅の錦のすそを長く曳いて、竜宮の乙姫おとひめさまかと思われる美しい女が女王のような驕慢な態度でおなじく珠の榻に倚りかかっていた。千枝松は伸び上がってまたおどろいた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たいや海亀に姿をかえて、たまたま岸近く遊びに出ていた竜宮の乙姫おとひめが、凡俗のために苦しめられているのを救って、豊かに賞せられた話は色々とあり、是にも島ごとの発達は著しいが
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
竜宮城へいって乙姫おとひめ様に歓待されるまま、そこで何日かを遊び暮して元の浜へ帰って来た時には、白髪しらがおきなになっていたといいますが、今の私の場合にも、何かそんな気がしてならないのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
父様ととさま御帰りになった時はこうしてる者ぞと教えし御辞誼おじぎ仕様しようく覚えて、起居たちい動作ふるまいのしとやかさ、仕付しつけたとほめらるゝ日をまちて居るに、何処どこ竜宮りゅうぐうへ行かれて乙姫おとひめそばにでもらるゝ事ぞと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「この近所では亀島河岸のモダン乙姫おとひめと申しております」
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「——いっちく、たっちく太右衛門たえもんどんの乙姫おとひめ様は、湯屋で押されて泣く声聞けば、ちんちんもがもが、おひゃりこ、ひゃりこ——」
「なるほど、乙姫おとひめさまが、人間のいちばんだいじなたからを入れておくとおっしゃったあれは、人間の寿命じゅみょうだったのだな」
浦島太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
わたくしういうものでございますが、現世げんせりましたときからふかくあなたさまをおしたもうし、こと先日せんじつ乙姫おとひめさまから委細いさいうけたまわりましてから、一層いっそうなつかしく
乙姫おとひめは——彼はちょっと考えたのち、乙姫もやはり衣裳だけは一面に赤い色を塗ることにした。浦島太郎は考えずともい、漁夫の着物は濃い藍色あいいろ腰蓑こしみのは薄い黄色きいろである。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
イッチク、タイチク、タエモンドンの乙姫おとひめさまが、チンガラホに追われて——
といって、玉手箱をこわきにかかえたまま、りゅうぐうの門を出ますと、乙姫おとひめさまは、またおおぜいの腰元こしもとをつれて、門のそとまでお見送りになりました。
浦島太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
人間にんげん世界せかいには、浦島太郎うらしまたろうというひと竜宮りゅうぐうって乙姫おとひめさまのお婿様むこさまになったという名高なだかいお伽噺とぎばなしがございますが、あれは実際じっさいあった事柄ことがらなのでございましょうか……。
乙姫おとひめさんのたつの都からくる春の潮の、海洋わたつみかすみが娘の目に来た。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)