三十日みそか)” の例文
けれども米屋の払を、この三十日みそかにはどうしたものだろうという、苦しい世帯話は、いまだかつて一度も彼らの口には上らなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
し此の三十日みそかまでに金が出来んで返金の出来ぬときは女房お村を貴殿方きでんかたへ召使に差上げましょうと云う証文はどうです
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これなどもただきょうは三十日みそかよというまでの注意であって、つまりはよくないことに相違ないが、そう大きな制裁を下すまでの必要もないという場合には
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
職人の手間を差引くと、幾許いくらも残らないような苦しい三十日みそかが、二月ふたつきも三月も続いた。家賃が滞ったり、順繰に時々で借りたちいさい借金がえて行ったりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
三十日みそかの苦労にお気がつき、さても不思議小さき人一人殖えたればとて、この費物ものいりの相違はと、お二人ともども細かき算盤置きたまへば、なるほど奥様の御出勤故に
今様夫婦気質 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
私がそんな書籍を買っている間、お前はお勝手口で、三十日みそかに借金取の断りばかりしていた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
近江の二六佐々木氏綱ささきうぢつなみそか使つかひにえらばれて、かのみたちにとどまるうち、さきの城主二七尼子経久あまこつねひさ二八山中たうをかたらひて、二九三十日みそかの夜三〇不慮すずろに城を乗りとりしかば
馬と残夢と月と茶の煙とを無理に一句にたたみ込み、三十日みそかやみ千年ちとせの杉とそれを吹く夜風とを合せて十七字の鋳形いがたにこぼるるほど入れて、かくして始めて面白しと思ひし者が
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
こひか、三十日みそかかにせたのは、また白銅はくどうあはせて、銀貨入ぎんくわいれ八十五錢はちじふごせんふのもある……うれしい。ほんこゝろざしと、藤間ふぢま名取なとりで、嬌態しなをして、水上みなかみさんのたもとれるのがある。……うまい。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何處へお客樣にあるいて居たのと不審を立てられて、取越しの御年始さと素知らぬ顏をすれば、嘘をいつてるぜ三十日みそかの年始を受ける家は無いやな、親類へでも行きなすつたかと問へば
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「宿直して」の句は、諸士しょさむらいの上をいったもので大三十日みそかの晩に御殿に宿直をして、さてほのぼのと明けはなれてみるとそれがもう元朝である、我君の春をめでたく迎えたというのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かゝなべて、日には三十日みそかは、三十夜みそよ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
けれども米屋こめやはらひを、この三十日みそかにはうしたものだらうといふ、くるしい世帶話しよたいばなしは、いまかつ一度いちど彼等かれらくちにはのぼらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
とこれからお酒になって紀伊國屋を機嫌く帰しましたが、友之助は正直な男だから気に掛りますが、四月三十日みそかに金子を返す訳にかぬから言訳に参りますと
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何處どこへお客樣きやくさまにあるいてたのと不審ふしんてられて、取越とりこしの御年始ごねんしさと素知そしらぬかほをすれば、うそつてるぜ三十日みそか年始ねんしけるうちいやな、親類しんるゐへでもきなすつたかとへば
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「今時どうしたえ、三十日みそかでもありもせんに。……お師匠さん。」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かゝなべて、日には三十日みそかは、三十夜みそよ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
三十日みそか月無し千とせの杉を抱く嵐 同
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
門松を三十日みそかの夜に立てしかな
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
しからぬ乱暴なことを云って、御冗談を仰しゃるが、手前跡月あとげつ三十日みそかに少々金子に差支さしつかえがあると申したら、何時いつでもいと仰しゃるから宜いと心得て居りましたが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
悲劇マクベスの妖婆ようばなべの中に天下の雑物ぞうもつさらい込んだ。石の影に三十日みそかの毒を人知れず吹くよるひきと、燃ゆる腹を黒きかく蠑螈いもりきもと、蛇のまなこ蝙蝠かわほりの爪と、——鍋はぐらぐらと煮える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
過ぐる年三十日みそか、お茶の水にて小野庄左衞門を切殺し、定宗の小刀しょうとうを奪い取りし覚えがあろう、論より証拠、その差添さしぞえまさしく庄左衞門の差添、しからずと云うならば出して見せえ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それは有難ありがていこんだ、これ多助よ、去年の六月三十日みそかわれえ親父が死ぬ時に枕元におれを呼んで云うのに、おえいは多助と従弟同志なり、今の母様かゝさまは多助のためには実の叔母だ、一家に血統ちすじ寄集よりあつま
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)