一葉ひとは)” の例文
西風にしかぜかはちるとき西岸せいがんしのをざわ/\とゆるがす。さら東岸とうがん土手どてつたうてげるとき土手どてみじか枯芝かれしば一葉ひとはづゝはげしくなびけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
真白まっしろすすきの穂か、窓へ散込んだ錦葉もみじ一葉ひとは散際ちりぎわのまだ血も呼吸いきも通うのを、引挟ひっぱさんだのかと思ったのは事実であります。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たとへば秋のの葉の一葉ひとは散りまた一葉ちり、枝はそのころもを殘りなく地にをさむるにいたるがごとく 一一二—一一四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「あいにくと、お前さんにけてやるような安茶は持たないよ。一葉ひとはいくらというような佳品しか船にはないよ」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
就中わけてももろいのは銀杏いてふで、こずゑには最早もう一葉ひとはの黄もとゞめない。丁度其霜葉しもばの舞ひ落ちる光景ありさまを眺め乍ら、廊下の古壁に倚凭よりかゝつて立つて居るのは、お志保であつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あの瑞々みずみずしい松の一葉ひとは一葉、青い甍の一枚一枚、白い壁の隅々、あの石垣の一個一個までも、こうした日本民族の真実心の象徴に外ならぬではないかとしみじみ思い知りました。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
黄ばんだこずえゆるぐとも見えぬ先に一葉ひとは二葉ふたはがはらはら落ちる。あとはようやく助かる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一葉ひとは牡蠣かきの殻にも、詩人が聞けば、遠き海洋わだつみの劫初の轟きが籠つて居るといふ。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ふるさとはうれし散りゆく一葉ひとはさへわが思ふことを知るかのやうに
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
夕かけて桐の木蔭に虫ぞ啼く落ちし一葉ひとはやおどろかしけん
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
松の葉の一葉ひとは一葉にこまやけく照るのひかり桜にも照る
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
木末こずえ一葉ひとはだに動くことなし。5885
命の葉もぞ散りゆかむ、一葉ひとは一葉に。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
糸屑いとくづにまじる柳の一葉ひとはかな
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
一葉ひとは
歳時記新註 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
うなじを白く、銅像に前髪をバラリと振った。下唇の揺れるような、鳥冠とさか緋葉もみじを、一葉ひとはぬいて、その黒髪に挿したと思うと
真紅しんくの厚い織物を脳天から肩先までかぶって、余る背中に筋違すじかいささの葉の模様を背負しょっている。胴中どうなかにただ一葉ひとは消炭色けしずみいろの中に取り残された緑が見える。それほど笹の模様は大きかった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふるさとはさびしきわれの心知れば秋の一葉ひとはのわかれ告げゆく
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
わが老鷲を吹くさまは一葉ひとはるに似たりけり
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
無憂樹むいうじゆの枝の一葉ひとは
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そっと、下へかがむようにしてその御神燈をみまわすと、ほか小草おぐさの影は無い、染次、と記した一葉ひとはのみ。で、それさえ、もと居たらしい芸妓げいしゃの上へ貼紙はりがみをしたのに記してあった。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一葉ひとはのふねのうきよなりけり
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一葉ひとはは花は露ありて
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その日一天いつてんうららかに空の色も水の色も青くみて、軟風なんぷうおもむろに小波ささなみわたる淵の上には、ちり一葉ひとはの浮べるあらで、白き鳥のつばさ広きがゆたかに藍碧らんぺきなる水面を横ぎりて舞へり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一葉ひとはは花は露ありて
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
孤家ひとつやともしびかげとても、ちたの、まぼろし一葉ひとはくれなゐおもかげつばかりのあかりさへい。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一葉ひとはにまがふ舟の中
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
玉子なりの色の白い……このものがたりの土地では鶴子饅頭つるのこまんじゅうと云うそうである、ほっとり、くるりと、そのやや細い方をかしらに、のもみじを一葉ひとは挿して、それが紅い鳥冠とさかと見えるであろうか?
赤土の広場の松の、あちこちには、人のぶらつくのも見え、谷に臨んで、茣蓙ござ毛氈もうせんを敷いた一組、二組も、色紙形に遠くながめられる。一葉ひとは二葉ふたはくれないの葉も散るが、それに乗ったのは鶏ではない。