逡巡しりごみ)” の例文
いよいよ薄気味が悪くなって、侍女どもは思わず逡巡しりごみすると、中間は主人のおん大事というように姫を囲って彼の前に立ちはだかった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
否食ってしかるべき滋味と心得るようになってからは、剥膳はげぜんに向って逡巡しりごみした当時がかえって恥ずかしい気持になった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
の声のする暗い隅の方へとかく逡巡しりごみばかりして、いつもの元気もなく出渋るやつを、無理無体に外へ引出しました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一身の危い様な場合には兎角に逡巡しりごみする者だよ、殊に此の様な室へ余が独りで忍び込んで居る所を見ては、何の様な命知らずだろうと奥底を計り兼ね
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
青年わかものはこれに答うるすべも知らぬさまに、ただじろじろと後室の顔をみまもったが、口よりはまず身を開いて逡巡しりごみして
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「わたしは自分の眼で見たものをすべて信じなければならないのですか」と、ジョヴァンニは以前の光景を思い出して逡巡しりごみしながら、声をとがらして訊いた。
おもつてせねばらぬ事件じけん出逢であうても二や三逡巡しりごみするのがどうかといへばかれくせの一つであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼はいかなることにも逡巡しりごみしないという評判を取っており、また、単に勇気を誇示せんがためのみではあったが、ある時警察署から物を盗んだということも、皆に知られていた。
もとより蟠龍軒の悪人なことは界隈かいわいたれ知らぬ者もございませぬ故、係り合って後難こうなんを招いてはと皆逡巡しりごみしてたれ一人いちにん止める者もございませぬ、ところへ丁度わたくしが通りかゝりましたから
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
南無三なむさん。」とわたくし逡巡しりごみした。おほく白晢はくせき人種じんしゆあひだ人種じんしゆちがつた吾等われら不運ふうんにも彼等かれらとまつたのである。わたくし元來ぐわんらい無風流ぶふうりうきはまるをとこなのでこの不意打ふいうちにはほと/\閉口へいこうせざるをない。
彼女の居間に灯のついていることが、幾度か窓の下へ近よってゆくことを逡巡しりごみさせましたが、ようやく思切って忍足に障子の際までゆくと、幸いその破れから内部を覗くことができました。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
願はくは誘ひ出して舞の群に入り給へとなり。われ逡巡しりごみして、否われは舞ふこと能はず、かつて舞ひしことなしと答ふれば、サンタ重ねて、家のあるじたる我身おん身に請はゞ奈何いかにといふ。われ。
いかに逡巡しりごみをするほどのきたならしいものでも、一度皮切りをやると、あとはそれほど神経にさわらずに食えるものだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いまから二三年前ねんまへのこと、其時そのときは、ふね出懸でがけから暴風雨模樣あれもやうでな、かぜく、あめる。敦賀つるが宿やど逡巡しりごみして、逗留とうりうしたものが七あつて、つたのはまあ三ぢやつた。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それでもかれ我慢がまん出來できるだけつとめた。出代でがはり季節きせつときかれはまたしきりにまどうたが、どうも其處そこつてしまふのがしい心持こゝろもちもするし、逡巡しりごみして居据ゐすわりになつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ゆかの下に鳴き弱る虫の声を聞き澄ますかのように押し黙っていたが、もともとそれを言いたいがために、わざわざ尋ねて来た以上、今さらおめおめと逡巡しりごみしている訳にもゆかないので
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
逡巡しりごみをする五助に入交いれかわって作平、突然いきなり手を懸けると、が忘れたか戸締とじまりがないので、硝子窓がらすまどをあけてまたいで入ると、雪あかりの上、月がさすので、明かに見えた真鍮しんちゆうの大薬鑵。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今しがた霊山の子刻ここのつを打った、これから先が妖物ばけものの夜世界よ。と一同に逡巡しりごみすれば
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえ、お前さん、何だか一通ひととおりじゃあないようだ、人殺ひとごろしもしかねない様子じゃあないか。」さすがの姉御あねご洞中ほらなかやみに処して轟々ごうごうたる音のすさまじさに、奥へ導かれるのを逡巡しりごみして言ったが
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
逡巡しりごみすれば、「馬鹿なことを、と笑われて、「それではともしてかかりましょう。暗くなりました。「怪談は暗がりに限るよ。「ええ! 仕方がありません。先月の半ば頃一日あるひ晩方の事……」
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
息苦しいほどで、この日中が思遣おもいやられる。——海岸へ行くにしても、途中がどんなだろう。見合せた方がよかった、と逡巡しりごみをしたくらいですから、頭脳あたまがどうかしていはしないかと、あやぶみました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ、からもう、」というばかり、逡巡しりごみの上に、なおもじもじ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とばかり、口も利き得ず、すごすごと逡巡しりごみして帰ったのである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「え、わっしあ、私あ、もう、」と逡巡しりごみする。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はい、」とひとしく逡巡しりごみする。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)