這般しゃはん)” の例文
つまり全く彼の文学上の観念の曖昧さを彼自身それに就いて疑わしいものがないということで支えてきた這般しゃはん奥義おうぎを物語っている。
這般しゃはんの理をあきらかにして、いわば飜訳の骨法ともいうべきものを一挙にして裁断した文句が、『玉洲画趣』の中に見出される。いわ
翻訳遅疑の説 (新字新仮名) / 神西清(著)
彼はその有難さに日常身の置くところを知らず、病んで危篤となるや、這般しゃはんの系図を拝しつつ極めてうやうやしく死んでいったという。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
したがって、這般しゃはんの疑問は、呉一郎の夢中遊行の存在を的確に立証し得るものに非ず。唯、一箇の補遺的参考としてここに掲ぐるを得るのみ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一史家が鉄のごとき断案を下して、「文明は保守的なり」といったのは、よく這般しゃはんのいわゆる文明を冷評しつくして、ほとんど余地を残さぬ。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
一茶流の俗語を駆使するばかりが、野趣の表現にかなうわけではない。大まかを極めたこの種の叙法も、なお這般しゃはんの野趣を盛って余あるのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
水一滴もむだにしてはならぬという這般しゃはんの消息になると、もはや経済論の外に出た話で、本来はこの物語の中に採録すべき記事ではないのであるが
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
この一言の中には這般しゃはんの消息が感じられるように思え、孔子様を今更深い主観を持った人だと感心する次第である。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
左馬介も、這般しゃはんの消息はまだふかく聞いていないが、今暁、ここの城門をたたく者があって、云々しかじかの由を、寝耳に聞かせられたときから、彼としては
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は這般しゃはんの大震災で世界の各地から蒐集しゅうしゅうした再び得がたい三千有余の珍らしい玩具や、江戸の貴重な資料を全部焼失したが、別して惜しいとは思わない。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
ピエールロッチの名著阿菊おきくさんの末段は、這般しゃはんの情緒を描き尽し、人をして暗涙を催さしむる力があった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
現に電気以前の『ツィゴイネルワイゼン』(六一五三)が、今日までビクターのカタログに傲然として載っているのを見ても、這般しゃはんの消息の一部が解るだろう。
作歌のおもしろみは這般しゃはんうちにも存じて居り、作者生活の背景ということにも自然関聯かんれんしてくるのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ましてその辺のチョンチョン格子、安女郎ばっかり買っている奴には這般しゃはんの消息のわかるはずがねえ。
善悪両面鼠小僧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あれはね、いいかい、這般しゃはん瑣事さじはだ、雪折笹にむら雀という処を仕方でやったばかりなんだ。——わりの二の段、方程式のほんの初歩さ。人の見ている前の所作なんぞ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
趣味標準の相違を発見し云々と「病牀六尺」に述べられたるごとき、明かに這般しゃはんの消息を認む、ひびに「モルヒネ」を服してわずかに痛苦を忘れんとしつつある際においても
絶対的人格:正岡先生論 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
現代の支那を如何にすべきか? この問題を解決するものは、共和にあらず復辟ふくへきにあらず。這般しゃはんの政治革命が、支那の改造に無力なるは、過去既に之を証し、現在また之を証す。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ですから、健吉くんと保一くんとあなたとの三人並べて、だれが這般しゃはんの事情を利用するにもっとも適しているかと問うならば、だれしもあなたであると答えるに違いありません。
愚人の毒 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
随って算盤が座右の銘さ。家内なぞは這般しゃはんの消息に通じない悲しさ、良人おっとが一生懸命に算盤玉を弾いて公明正大の商売取引をしているのにつのやす。実際女子と小人養い難しだよ
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
這般しゃはん世界に於ける大乱の結果、世界改造という事が起った。
始業式訓示 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
しかも、その大部分は、この事例に於けるが如く、常に笑うべき浅薄なる手段なるに照しても、這般しゃはんの疑問が不自然に非ざるを知り得べし。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は然し這般しゃはんのうちに、速力を主とした文字改革ということの文化問題としての重大さを痛感させられた気もした。
文字と速力と文学 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
宿場問屋に働いている自分ごときものには、這般しゃはんの事情はもとより分らないが、何となく、安からぬ思いがして
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
湯の谷の主は習わずしておのずから這般しゃはんの問に応ずべき、経験と知識とを有しているので
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けだし這般しゃはんの情事は烟花場裏一夕の遊戯にして新五左衛門しんござえもん等の到底解し得べきところにあらざるなり。われ田舎の人より短冊を乞はるることあるや常に唖々子が句を書してせめふさげり。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
現に「農家義人伝」は「伝吉、一郷いっきょう悪少あくしょうと共にしばしば横逆おうげきを行えりと云う。妄誕もうたん弁ずるに足らざる也。伝吉は父讐ふしゅうを復せんとするの孝子、あに這般しゃはん無状ぶじょうあらんや」と「木の葉」の記事を否定している。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
這般しゃはんの消息は解し得る人の推諒すいりょうに任せる。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
即ち這般しゃはんの第一回の発作は、その夢中遊行の直接誘因とも見るべき有形的の暗示が「一女性の寝顔の美」という簡単なるものに過ぎず、且つその刺戟が
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
庄吉は近代作家の鬼の目、即物性、現実的な眼識があるから、もとより這般しゃはんの真相は感じもし、知ってもいた。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
藤吉郎にも、もとより這般しゃはんの消息は、知るよしもなかった。けれど彼は彼で、その間、よい見学をしていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「む、そんなに謂ってくんなさりゃおれも男だ借りやしょう。」と肩をそびやかし、まなこを据え、「このざまだからせやせん、そのかわりにゃ姉御、おらあ死にます。」這般しゃはんの決心十を併さば
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行長と義智は這般しゃはんの事情を知悉ちしつしながら、之を率直に上申して秀吉の機嫌をそこねる勇気に欠けてゐたのである。真相を打開けて機嫌をそこねる勇気はない。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
このことは、勝豊の不平として、外部へまで洩れていたから、他国の隠密なども耳にしたろうし、従って、秀吉なども這般しゃはんの消息には通じていたにちがいない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
這般しゃはんの事業の国民精神に影響する事の如何に深遠なるものがあるかを疑い得ない次第である。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
今度の選挙で共産党が三十五人になったのは、民自党の二百六十何名同様予想を絶した現象であったが、這般しゃはんの理由は、だいたい新聞の報ずるようなものであったろう。
インテリの感傷 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
へたないきり立ちをして騒ぐ事は、かえって君意をわずらわし、いわゆる這般しゃはんの妙機を邪魔するだけだ。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現在斯界しかいの専門家、及び、遺伝学者間の論議の中心となりおり、しかも這般しゃはんの奇現象を説明し得べき学説のうち、最も権威あるものとして、他の諸説を圧倒しつつあるは目下のところ唯一つ
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
手紙の中には、この重大な霊感あつておでん屋へ駈けつけた日の記憶すべき月日が記してあるのだが、それが丁度数日前の月日に当つてゐるのでも這般しゃはんの苦吟が分るのである。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
のみならず、彼としては、すでに前日、光秀から這般しゃはんの消息はうかがっている。さすがに、五十余齢の光秀は、童形の青年蘭丸とはちがって、露骨にことばには出さなかった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時の人、太宰春台だざいしゅんだいは、その著「三王外記」のうちに、這般しゃはんの事情を、こう書いている。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これが人間の良識であり、這般しゃはんの限界に遊ぶことを風流と称するのである。
這般しゃはんの事情はよく分らないが、六波羅の職はまもなく辞めてしまった。鎌倉住居は性に合わぬといって、鎌倉にも行かず、越後の本領は、長兄が継いでいるので越後にも帰らない。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
這般しゃはんの理窟は一々鮮明に色揚げしてみても無意味だと思ふのでやめるが、とにかく私は、私自身ホントに経験したままを直接描いたことは一度もないし、これからもないだらうと考へてゐるが
文章その他 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
何とぞご賢慮をもって、這般しゃはんのいきさつを深くご洞察ねがわしゅうぞんじます
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この蛮夫ばんぷめ、無知め、扈成は先頃、陣見舞のみやげを持って、こうを申し入れてきた者ではないか。その肉を食らい酒も飲んだきさまは、這般しゃはんの約も知っているはずだ。だのになんで、降人の家族を
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北条氏政は、這般しゃはんのかけひきに、誤算を持つような男ではない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
這般しゃはん機微きびと大勢を早くも観破かんぱしたからである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)