蹂躙ふみにじ)” の例文
見よ、心なき消火夫か泥草鞋もて蹂躙ふみにじりつゝ行く方三尺の淡彩図を。嗚呼、是れシラギントワイトの『西蔵探険記』の挿図に非ず哉。
深雪は、こう云うと共に、眩暈めまいしたような気持になった。自分の言葉で、自分を泥の中へ、蹂躙ふみにじったように感じた。涙が出てきた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
避けようとすればするほど、余計に巻込まれ、蹂躙ふみにじられて行くような気もした。彼は最早、苦痛なしに姪の眼を見ることが出来なかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
婦人をんな蹂躙ふみにじつたり、置いてきぼりにしたりして、それであとから後から恋女こひをんなの出来るなぞも、多分こんな理由わけからかも知れない。
世上貫一のほかに愛する者無かりし宮は、その貫一と奔るをうべなはずして、わづかに一べつの富の前に、百年の契を蹂躙ふみにじりてをしまざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自分の真心のありったけを尽して愛情を送っても、美しい若い男は次から次へと女をこしらえては、彼女の心を蹂躙ふみにじっていたものと見えます。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
傍なる一人の男、その紙何の用にか立つべきとつぶやきしに、媼目を見張りて、うぢのもの言はんとするにや、大いなる足の蹂躙ふみにじらんを避けよといふ。
かれめにかげはるれば、人間にんげんかたちせ、めらるればおとろへ、蹂躙ふみにじらるればなやみ、吹消ふきけさるゝといのちせる。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
どうすることもできない、このうえにたって御免と云えば、こんどは南部八郎太の名を蹂躙ふみにじることになるから
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
脅喝、詐僞、姦通、強姦、喰逃……二十も三十も一時に喊聲をあげて頭腦を蹂躙ふみにじる。見まい、聞くまい、思出すまいと、渠は矢庭に机の上の『創世乃卷』に突伏した。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
親鳥が雛をはぐくむように胸に育てていた其たのしみの萌芽も、この一条の鋼索と雪の上に印された無数の足跡とに依って、未だ二葉ならざるにむざと蹂躙ふみにじられてしまった。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
雨の中で打合うちあいが始まり、大の男が女をとらえて蹂躙ふみにじります様子が烈しいゆえ、見兼て丹治殿が突然いきなり女を連れて逃げようとする仁助の横鬢よこびんつ、たれて仁助はよろける途端
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すでに曾無一善ぞうむいちぜんの裸の身と申しながら、またも一枚の着物を惜しみ……一面の琵琶を惜しむ、浅ましい心、それが無惨に蹂躙ふみにじられたのは、もとよりそのところでございます。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「うウむ、飽くまできたなき彼の振舞、蹂躙ふみにじってくれたけれど、重蔵も定めし疲れたであろう、と云って不承知を申せば、飽くまで今日の勝利は我にありと彼等が言い張るに相違ない」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵野は筑波おろしのからッ風、秋の暮から冬三月を吹いてふいて吹きとおして、なお且つ花さく日にも吹きやまず、とかくして三春の行楽をも蹂躙ふみにじろうとすること必ずしも稀らしくはない。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
英国へ何の異心を企図していたわけでもないのです。しかもこの無抵抗な私たちさえも、こうして集まって来さえすれば暴動の前提として、理も非もなく英国兵は馬蹄に掛けて蹂躙ふみにじってしまうのです。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
夜はいたけにければ、さらでだに音をてる寂静しづかさはここに澄徹すみわたりて、深くも物を思入る苦しさに直道が蹂躙ふみにじる靴の下に、瓦のもろるるが鋭く響きぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
這奴しゃつ等が群り居た、土間の雨に、引挘ひきむしられたきぬあやを、驚破すわや、蹂躙ふみにじられた美しいひとかと見ると、帯ばかり、扱帯しごきばかり、花片はなびらばかり、葉ばかりぞ乱れたる。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蹂躙ふみにじられるような目付をして、三吉も種夫の方を見た。その時、夫婦は顔を見合せた。「ひょッとかすると、この児も?」この無言の恐怖が互の胸に伝わった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
脅喝、詐偽、姦通、強姦、喰逃……二十も三十も一時に喊声をあげて頭脳あたま蹂躙ふみにじる。見まい、聞くまい、思出すまいと、渠は矢庭に机の上の『創世乃巻』に突伏した。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
若い門弟は身体からだぢゆうが痺れたやうな気味で、そつと足を引つ込めようとした。返礼はすぐに来た。猫のやうな柔かい足は、素晴しい勢ひで門弟の足の甲を蹂躙ふみにじつた。
人にさいなまれようとも、蹂躙ふみにじられようとも、かまわないと思召すなら、わたしを突き出してもようござんすけれど、あなたは、そんな惨酷ざんこくなお方じゃなかろうと、わたしは安心していますのよ
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
蹂躙ふみにじらるるとの自白だ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
およそ、つきとともに、影法師かげぼふしのあるところくだんもの附絡つきまとはずとことなうて、ひ、め、蹂躙ふみにじる。が、いづれひと生命いのちおよぶにはがあらう。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あるものは黄いろい蘂の粉が地べたに染みこむまで力強く蹂躙ふみにじられた。
飛鳥寺 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
みぎ盲人めくらは、れいものは、をんなかげを、めう、はう、とらへよう、蹂躙ふみにじらう、取啖とりくらはうとつけ𢌞まはす——こなたからことづけて、けるやうひなさい、とまをしたのを、よくもかずに
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)