ただ)” の例文
父がここへ来たのは丁度ちょうど幸いである。市郎はの𤢖について父の意見をただすべく待ち構えていた。が、父の話はんな問題で無かった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家中のものの誰れ彼れが彼を随意につかまえて、彼らの云い分をしゃべりちらし、あれこれと問いただす。それを避けようとはしなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
して彼らの理由をただせば、人間が世の中にいる以上は、優勝劣敗ゆうしょうれっぱいの原則にしたがい競争するを要するがゆえ、かくすると弁解する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
素直にしてくれたのは仕合せでしたが、その代り、どんなに問いただしても、「どうして死ぬ気になったか」一言も漏しません。
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
掛け、作者は語り、読者は聞き、評者は、或いは作者の話に相槌あいづちを打ち、或いは不審をただし、或いは読者に代って、そのストップを乞う。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
何だか無垢の人をあやめた気持で、どんな事情なのか、それは本当なのか問いただす余地もないほど、乞食の老人の言った安宅先生退職の話は
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
履歴をただせば、藩の学問所の学頭をした人のあとで、県政の布かれてからは長らく漢学の私塾を開いてゐたとかいふ事である。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
紋三は三千子の家出の顛末てんまつを聞きただし、山野夫人の方では明智小五郎の為人ひととなりを尋ねたりした。そして結局明智の宿を訪ねることに話が極った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
細君は女の事だからまだ判然はっきり覚えているだろうが、今の彼にはそんな事を改めて彼女に問いただして見る気も起らなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
云う事がイクラカ筋立って来た頃を見計みはからって、なだめつかしつしながら色々と事情を聞きただしてみますと……色情倒錯どころの騒ぎではない。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「だが、そもじの罪障は消えたとて、二人をあやめた下郎のごう永劫えいごうじゃ、私は、今日これから、そなたの前で、そやつをただし上げてみせますぞ」
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
サンドオがバルザツクに会つた時、この数字の意味を問ひただすと、それは著者が十万部売切れた場合、著者の手に渡るべき印税の額だつたと云ふ。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と、馳走した上、音物いんもつを贈って、さまざま君前くんぜんを申しなだめて貰いもし、また、営中の形勢をもただそうとしたのだが、飛騨守は、たもとを払って
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
僕は今日こそ父に向い、断然此方こっちから言い出して秘密の有無うむただそうと決心し、学校から日の暮方に帰って夜食を済ますや、父の居間にゆきました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
一通りの白状ぶりを聞いても、そんなに大した悪戯いたずらをする悪少年とも見えません。けれども甚三郎は、この少年を問いただすことに興味を失わないで
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただしたところで白状なんかするやつじゃない。だから僕は一回だとてそんなはずかしい質問をしたことはないよ。
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
それ故私たちは現在の日本が伝統にもとづいてどんな仕事を続けているか。またかかるものにどんな価値を見出し得るかを、まずただしておかねばなりません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その低い声を聞いて、フラテは彼の細く尖つた顔を上げて、その意味をただすかのやうに彼の顔を見上げた。
しかし当夜口論した事実もあるから一応はただすべきだろう、というので使をやると、南部の邸は空だ。
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「道々、炭焼の者などにも問いただしたなれど、大宮の宿へ出た様子もないとの事、そこでもう一応、尋ねたいと存じますが、誰ぞ山案内をしてくれる者はござるまいか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母は、窩人のおさの杉右衛門の娘、山吹であったということだ。父は里の者で、多四郎という若者だそうだ……そのうち窩人と逢うこともあろう、よく聞きただしてご覧なされ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
文覚は、血相変えて寺にとびこんできた女房に、始めは驚いたが、事の次第を問いただすと
もう一人の友達もこれには至極しごく同感で、実はその白い物が自分の目にも見えて、どうも気分がすぐれないと言った。そこで早速さっそく下宿の主人を呼んで、この旨を聞きただすところまで話が進む。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
内儀にただすとはたせるかな、僕が前日憲兵隊に引留ひきとめられている間、数名の将校が僕の室を占領し、昨夜は一同眠りもやらず徹夜し、今朝がたになってやっと引上げて行ったとの事でした。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
フォー一家についてお尋ねのことは兄に聞きただしてみました。兄は常に善良な王党の人でありますので、御承知のとおりいろいろなことを知っており、いろいろな事を記憶しております。
そう思って庭師にその事をただしてみたが、庭師は夢にも知らぬといった。
「来馬にもただし山田にも聞かぬ上は軽々しく信じられぬ。」
新訂雲母阪 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
さはれ今行き、めづる子に逢ひてたださむ、戰鬪の
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
一度問いただして見なければ気がすまなかった。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
驚いてその仔細をただしたが、彼女かれは何にも答えなかった。赤児は恐らく重蔵のたねであろうと思われるが、男の生死しょうしは一切不明であった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「明朝までに御墨付が返らなければ、生きてお前に逢うのもこれ限りだ、——その娘とやらを拷問にかけても、御墨付の在処ありかただしてくれ」
ハムレットの、心の底の、いつわりの無いところも、よく聞きただしてみて下さい。決して悪いようには、しないつもりです。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
養策はすぐに女中に命じて乞食青年を呼び返させて、勝手口にまわして茶を与えて、自身に親しく身の上を問いただした。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
以上の三がんも更にただせば、また三眼にして一眼なのである。一眼にして三眼なのである。この意味に於て三眼それ自身が「融即」の眼なのである。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一てえ、あいつの宿はどこなんだろう? あしたは、芝居町の方へ出かけて行ってくわしくただしてやらざあならねえ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
直ちに郵便局を検べ集配人をただしたが、何のる所もなかった。その翌日は、外出から帰った長男一郎の折鞄おりかばんの中から、2と記したカードが現われた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
内実ないじつは暫く不問に置かれる、但し、右の古金、新金の在所ありかはこの場でただして帰らねば、身共役目が立ち申さぬ
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし市の有志家が何名か打ちそろって上京した時に、有名な政治家のある伯爵はくしゃくに会って、父の適不適を問いただしたら、その伯爵がどうも不向ふむきだろうと答えたので
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただしたら、お茶をひいて仲間なかまに笑われることだと答えたそうであるが、彼らは日々の飯さえ遠慮して食い、終夜一すいもせぬことしばしばなるに、身体からだの苦しきよりは
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
実に、それが紛糾混乱の始まりとなって、ついに問題は礼拝堂を離れてしまった。法水も、本開閉器メインスイッチの所在を津多子にただす前に、なにより彼の早断を詫びなければならなかった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今日難波屋が巨万の富を擁するにいたりましたも、もとただせば御当家の御恩顧。
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そう考えると、彼は星尾に会ってただしたいと思った。仕度をすると、直ぐに留置場へ行き星尾に、何かべわすれているものはないか、特に電車の中あたりで何か無かったかと尋ねてみた。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
雇人にただしても、ホテル到着の時間は確かに七時前だったのです。
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
「面目もありません。軍律に照して、敗戦の罪をおただし下さい」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は車を飛び出すと、玄関へかけつけ、そこにいた女中を捕えて、いきなりこんなことを聞きただすのであった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこで真赤になって苦笑している妻の松子に耳打ちして、病院に彼女と一緒に寝起きしている看護婦を大至急で呼び寄せて、ユリ子に関する或る秘密を問いただしてみた。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、一体の人数、往来の人に足取りをただし乍ら、目黒の方へ揉みに揉んで馳け付けました。
ただ、米友の場合、困るのは、拾い主には拾い主としての義務がある、責任もあるというその心配なので、まず第一に、自分の住所氏名からただされる、これが苦手であること。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
譬えていえば少女が男子にちかづくことを怖れる、その理由をただせば知らない。
「死」の問題に対して (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
私も妙に存じまして、一度よくただして見ようと考えています内に今度の出来事でございましょう。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)