茶筅ちゃせん)” の例文
逞しい駿馬しゅんめの鞍に、ゆらと、乗りこなしよくすわって、茶筅ちゃせんむすびの大将髪、萌黄もえぎ打紐うちひもで巻きしめ、浴衣染帷子ゆかたぞめかたびら、片袖をはずして着け
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒いところはすっかり洗い落されて、昔に変るのは茶筅ちゃせん押立おったてた頭が散切ざんぎりになっただけのこと。身体からだには盲目縞めくらじまの筒袖を着ていました。
まくらもとに控えている、茶筅ちゃせんあたまに十徳の老人は、医師であろう。詰めかけている人々も、ひっそりとして、一語も発する者もない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ただ清浄無垢むくな白い新しい茶筅ちゃせんと麻ふきんが著しい対比をなしているのを除いては、新しく得られたらしい物はすべて厳禁せられている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
材は松板をったものでありますが、茶人だったら塵取ちりとりにでも取り上げるでしょう。荒物屋ではまたささらのような茶筅ちゃせんを売ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼らは往々竹細工に従事し、その所製の茶筅ちゃせんささらを檀家に配るの習慣を有した。これ彼らの徒にチャセン或いはササラの称ある所以である。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
地肌の透けて見える精のない薄白髪うすじらがを、真田さなだの太紐で大段おおだん茶筅ちゃせんに結いあげ、元亀天正の生残りといったていで、健骨らしく見せかけているが
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
普通には山茶ともいい、煎じたものを茶筅ちゃせんで泡立てて飲むことは、以前の茶の用い方も同じであり、またただの茶に交えて煎じることもあった。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
春先の陽気の定めもなく、空はにわかに曇って来て、銀灰色の満天に、茶筅ちゃせんの尖で淡くき混ぜたような白濁の乱れ雲が渦を撒き散らしております。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これも片田舎で出来る事ですが玉子一個ひとつの白身ばかりへ少しの砂糖を混ぜて、極く大きな湯呑ゆのみかあるいはコップの中へ入れて、茶筅ちゃせんかササラか五
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
薬鑵から湯を汲み出して茶碗に注ぎ込み、茶筅ちゃせん(図656)をくるくる廻しながら茶碗の内をまるく回転させることに依て、茶碗と茶筅とを洗う。
下ぶくれのほおで、一見すると大変やさしい。半白の髪を茶筅ちゃせんに取り上げ、薄茶のかたびらの着流しである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
父はなれた手つきで茶筅ちゃせんを執ると、南蛮渡りだという重いうつわものの中を、静かにしかも細緻なふるいをもって、かなり力強く、巧みに掻き立てるのであった。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
さわが十五になった年、三番倉の脇にむしろを敷いて、せっせと茶筅ちゃせんを作っていた。すると誤って指にとげを刺し、それがとれないので困っていると、国吉が通りかかった。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夜盗のたぐいか、何者か、と眼稜めかどきつく主人が観た男は、額広く鼻高く、上り目の、たぶ少き耳、やりおとがいに硬そうなひげまばらに生い、甚だ多き髪を茶筅ちゃせんとも無く粗末に異様に短くつかねて
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
白髪を、根の太い茶筅ちゃせんにゆい、かきいろの十とくを着て、厚いしとねのうえにチョコナンとすわったところは、さながら、猿芝居の御隠居のようだ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
特殊民の一部族にしゅくの者というのがあります。これはハチヤとか、茶筅ちゃせんとか、ささらとか、産所とかいう類のもので、比較的世間からいやがられませぬ。
その少ない髪では茶筅ちゃせんにもえないのだろう。二つに折って、塩辛トンボみたいな小さいちょんまげに結っていた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風俗習慣は変じて昔日の面影もなくなった。粉茶は全く忘れられている。明の一訓詁学者くんこがくしゃは宋代典籍の一にあげてある茶筅ちゃせんの形状を思い起こすに苦しんでいる。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
そのよそおいは同じであるが、正雪は白面端麗な容貌、総髪を肩に波立たせ、そり身に威儀をつくろっている。時行となると髪は茶筅ちゃせん、しかも半分白髪である。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大原「それから三日目には何です」お登和「三日目は玉子と牛乳の淡雪あわゆきといいまして先ず大きな玉子の白身二つばかり茶筅ちゃせんで泡の沢山立つまでよく掻き廻してそれを ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
薄茶紬うすちゃつむぎ道行みちゆきに短い道中差、絹の股引に結付草履ゆいつけぞうりという、まるで摘草にでも行くような手軽ないでたち。茶筅ちゃせんの先を妙にへし折って、儒者じゅしゃともつかず俳諧師はいかいしともつかぬ奇妙な髪。
ことにおかしいのはその頭で、茶筅ちゃせんを頭の真中で五寸ばかり押立おったてている恰好かっこうたらない。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
楽焼らくやき煎茶せんちゃ道具一揃ひとそろひに、茶の湯用のうるし塗りのなつめや、竹の茶筅ちゃせんほこりかむつてゐた。
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
あるいは茶筅ちゃせんとか、鉢屋はちやとか、宿しゅくとか、ささらとか、トウナイとか、説教者とか、いろいろの名称をもって呼ばれましたが、身分は賤しい者と思われても
茶筅ちゃせんさじ柄杓ひしゃく羽箒はねぼうきなどが手ぢかにならんで、忠相はひさかたぶりの珍客泰軒に茶の馳走をしているのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たれがてるのやら、その道の者はいないので、侍臣のうち、少々は茶筅ちゃせんの持ち方ぐらい知っているのが、がちゃがちゃと掻きまわして来るにちがいない。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茶筅ちゃせんのハケ先さえバラバラに乱れ、朱盆のような顔一面酒気をみなぎらした木曽義明は、一升入りの朱塗りのはいを、片手に持って虎のように、侍女どもを睨んで吠えるのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その玉子を深い大きな丼鉢どんぶりばちへ割って玉子一つに中位な匙一杯の割で白砂糖を入れて黄身も白身も砂糖も一緒にして茶筅ちゃせんかササラでまわしますが茶筅よりも竹のササラがよし、細いはしを五
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
玄心斎の茶筅ちゃせん髪はくずれ、たっつけ袴は、水と煙によごれたところは、火事場からのがれてきた人と見える。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
茶筅ちゃせんのかろいはやおとが、寧子の指さきからササササと掻き立てられている。——が、なぜなのか、又右衛門のことばと共に、彼女の顔には、さっと紅い羞恥はじらいがさして見えた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御坊おんぼと呼ばれ、番太と呼ばれ、茶筅ちゃせん或いはささらと呼ばれ、説経者と呼ばれたのもまた同じ様なもので、由来賤職に従事するものは決して常に同一職業をのみ固執しているものではない。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
わけても正面敷皮の上に寛々と胡座こざした武士はひときわ威風四辺あたりを払って、一座の頭目と一眼で知れた。雪のように白い頤鬚あごひげを垂らし、頭髪を紫の茶筅ちゃせんに取り上げ茶の胴服をまとっていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこでの鼎坐ていざはだいぶ長かった。小姓たちまでみな退けて、極く内輪うちわの密談らしく思われた。ひとり許されていた連歌師の幽古ゆうこのみが、頃をはかって、陰で茶筅ちゃせんの音をたてていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山陰道筋の鉢屋はちや、山陽道筋の茶筅ちゃせん、北陸道筋のトウナイなどと呼ばれた人々の如きは、もと葬儀にあずかり、屍体の穢れに触れるので、やはりその身が穢れていると思われてはいたが
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
ある者が次第に深みに沈みいて、鉦打かねうち茶筅ちゃせんの徒はもとより、しゅくとか、鉢屋はちやとか、唱門師しょうもんじとか、犬神人いぬじにんとか、エタとか、番非人とか、その他各種の特殊民の源をなしたものと解せられるのである。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
茶筅ちゃせんの音。そして亭主からすすめる。客側がいただく。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正徳二年七月に、備後地方のエタと茶筅ちゃせんとの間に於いて、支配権限の争いが起った。そこで福山のエタ頭三吉村関助・九郎助の二人が領主の命により、京都へ上って、従来の振合いを問い合せに来た。
エタ源流考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
茶筅ちゃせん髪は、折髷おりまげえている。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
16 御坊おんぼ土師部はじべ鉢屋はちや茶筅ちゃせん
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)