眩暈めまい)” の例文
佐々が気づいたとき、最先まっさきに感じたのは恐ろしい眩暈めまいであった。脳味噌が誰かののうちにギュッと握られているような感じだった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女は大空に浮かんでるような眩暈めまいをまだいっぱいたたえてる眼つきを、彼のほうへ向けた。数秒かかってようやく彼を見てとった。
……見あげると眩暈めまいのするような巨木が一列になって歩き廻っていると書いてありましたけど、ちょうどそんな感じのところなんですの
黄泉から (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
急にふらふらっと眩暈めまいがした咄嗟に、こんな夫婦と隣り合ったとは、なんという因果なことだろうという気持が、情けなく胸へ落ちた。
秋深き (新字新仮名) / 織田作之助(著)
止まれ! 早く、額の汗が乾かないうちに、眼を空に転じ、胃のから眩暈めまいがやってくる前に、崇高な思念をび起こすことを努めろ。
深雪は、こう云うと共に、眩暈めまいしたような気持になった。自分の言葉で、自分を泥の中へ、蹂躙ふみにじったように感じた。涙が出てきた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
と祖母さんも言って、一頃ひところは電車に乗ってさえ眩暈めまいが起ったほどの節子に引越の手伝いの出来る時が来たことをよろこび顔に見えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
眩暈めまいがして倒れそうになったが、軈ていくらか落付きを取り戻し、冷静になると昨夜からのいろいろのことが頭に浮んできた。
妖影 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
彼はただ大光明のために、烈しく眩暈めまいが起るのを感じた。そうしてその光の中に、大勢おおぜいの男女の歓喜する声が、澎湃ほうはいと天にのぼるのを聞いた。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
岡本吾亮だ! 藤沢はガンと眩暈めまいを感じた。彼は立ち上がりながらテーブルの横に手を伸ばした。臆病な胸が急に騒ぎ出した。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
突然いとまを告げて、そしてぼんやり自宅いえに帰った。かれは眩暈めまいのするような高いところに立っていて、深い谷底を見ろすような心地ここちを感じた。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
真夏の太陽がじかに首すじに照りつけ、眩暈めまいに似たものをおぼえながら、彼は、ふと、自分には夏以外の季節がなかったような気がしていた。
夏の葬列 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
いつも人と会うときには殆どぐらぐら眩暈めまいをして、話をしていなければならんような性格なので、つい酒を飲むことになる。
わが半生を語る (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は眩暈めまいを感ずるほどの絶望におそわれ、はっはっと喘いだりうめいたりしながら、茶屋のある東仲町のほうへ歩いていった。
雪と泥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
何物にもなぐさまなかった小さな心が、縹渺ひょうびょうとした海の単調へ溶けるように同化してしまうのを感じて、さわやかな眩暈めまいを覚えた。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そして執拗しつようにじろじろめまわしている。私はぞっとした。私は眩暈めまいを感じて倒れかかり、危く近所の土人の家に辿たどりつき、休ませて貰った。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
心細いからしばらくいてくれ、訳のわからん東洋の薬なんぞ飲んで今に発熱したり眩暈めまいがすると思うと、俺には堪えられん
葛根湯 (新字新仮名) / 橘外男(著)
定斎の持合せがないのは、それだけによくこの薬を常用するがためで、凡そ腹痛下痢はさらなり、頭痛、眩暈めまい、何ぞというと必ず定斎を用ゆる。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
読経の合間合間に経輪がまわっている。むせっぽい香煙や装飾の原色。だんだんケティは眩暈めまいのようなものを感じてきた。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
けれども、父親の老先生が朝食後ひどく眩暈めまいもよおして水にはいれぬことになってしまったので、小初先生が先導と決った。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
トイウノハ、眩暈めまいガヒドクテ歩行ニ困難ヲ伴ウヿガシバシバナノデアル。路上デ仰向ケニ倒レソウニナルヿモ始終デアル。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私は後支索にしっかりとすがりついていなければならなかったが、何もかも私や眼の前で眩暈めまいするほどぐるぐる𢌞っていた。
日常生活から余りにかけ離れた、この一種異様の光景に、若い警官は眩暈めまいを感じて、フラフラと足場を失いそうになった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
外から帰って来ると間もなく眩暈めまいがして二三回吐いた。かゝりつけの丹波さんが直ぐに駈けつけて、暑気中しょきあたりと診断した。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
鏡面の波動を感ずる味わいは、丁度船のおだやかなピッチングのようである。少し快よい眩暈めまいを感じさせる程度である。
触覚の世界 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
一度は、ファラデーがガラス管の内に塩化窒素を少し入れたのを指で持っていたとき、温いセメントをその傍に持って来たら、急に眩暈めまいを感じた。
それから今度は下の方へ傾き、すべり、ずっと落ちるので、ちょうど夢のなかで高い山の頂上から落ちるときのように気持が悪く眩暈めまいがしました。
なんのために。あかいセエムがわがちらつく気持でした。眩暈めまいが起ればよかったのです。がぼくは、そのまま歩き続けました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そこで、だまって、障子の中へ入って行く途端に、自分のかおが大きくお絹の見ていた鏡へうつるのを見出して、思わずクラクラと眩暈めまいがしました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
少し無理な勉強をすると、眩暈めまいがして卒倒する。講堂で卒倒して、同級のものに送られて寺へ帰ることなぞがあった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
ともすると、鼻の先がびッしょり汗ばんで、眩暈めまいがしそうになるのを、ジッと耐えて、事務卓デスク獅噛しがみついていた。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
彼は、クラクラする眩暈めまいを振切って立上るとそのボックスを、グッとにらんでつき飛ばされるように、松喜亭を出た。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
傷は浅いと見えてもうあまり眩暈めまいもしない。「もう大丈夫です」と答えると、駅長はちょっと紳士の方を向いて
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
くらくらする眩暈めまいに抵抗しながら、私はその食事の場所へ行った。そしてまたしても板の間に額をこすりつけて
市川女寅めとらが本郷の春木座へ稽古に通う途中、湯島切通しの坂へ差しかかりし時、俄かに眩暈めまいを感じて人力車を降り、路ばたの西洋小間物屋へ転げ込みしに
明治演劇年表 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ところが日暮れごろになると、彼は眩暈めまいを感じはじめ、昨夜の夢のなかにあらわれた幻覺に何かしら似通ったものが、數瞬間ずつ彼を捉えるようになった。
その藻の堆積たいせき腐敗ふはいし、絶望的なにおいを放っていた。まことにそれは眩暈めまいのするようないやな臭気であった。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そしてその人を傷つけた責めをだれが背負うべきかを考えて不合理な感じばかりに先立たれました。私は帰る道で考えると眩暈めまいがするような気がしました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
この部屋で空気から完全に遮断しゃだんされているという気持が、彼に眩暈めまいを覚えさせた。自分のそばの羽根布団の上を軽く手でたたき、弱々しそうな声で言った。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
その時代助はその絶壁の横にある白い空間のあなたに、広い空や、遥かの谷を想像して、怖ろしさから来る眩暈めまいを、頭の中に再現せずにはいられなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「上へ上へと積み上げたもんだから、一等上の方から、地面を見ていると、眩暈めまいがして来るくらい高いわ。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
彼はぐいとにじり寄って、花とすれすれまで手を伸ばしたが、花は人命を奪うような毒気を発散して、防いでいるように彼には思われた。彼は眩暈めまいがして来た。
ぐらぐらと眩暈めまいがして、背後うしろへ倒れそうなやつを、湯呑水呑ゆのみコップあおりやがるんで、身体からだ中の血が燃えてまさ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その瞬間、彼はちょっと軽い眩暈めまいを感じはしたが、それでもなおその回転する虹に見入っていると、それがいつしか彼に子供の頃の或る記憶をび起させた。……
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そのななめに傾いた煙突の半面が、あさひのオリーブ色をクッキリと輝かしながら、今にも頭の上に倒れかかって来るような錯覚の眩暈めまいを感じつつ、頭を強く左右に振った。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
くびが顕われ、微かな眩暈めまいのごときものを覚えると共に、「気配」のなかからついに頭が見えはじめ、そしてある瞬間が過ぎて、K君の魂は月光の流れに逆らいながら
Kの昇天:或はKの溺死 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
鼓膜の破れた人が耳を洗う時眩暈めまいを感じたり、また健全な者でも少時間グルグル舞うた後には平均を失うて倒れたりするのは皆この三半規管を刺戟するためだという。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
絶望の底へつきのめされた新九郎は、くらくらと暗い眩暈めまいを感じたかと思った間に、梶新左衛門に襟がみを引ッ掴まれ、不浄門から戸外おもての方へ突き出されてしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同じ襦衣こしごろもに、白襟を重ねて、豊かな黒髪は後ろへ結び下げて居りますが、その美しさは全く輝くばかり、江柄三十郎眩暈めまいがするように思いましたが、顔を合せるや否や
ひどく疲れて、軽石のようにボサけた頭脳は、ハッとした瞬間、眩暈めまいでのめりそうになってきた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)