甘露かんろ)” の例文
またこれより以上の、夢を追ふ馬鹿者が、口當りのいゝうそ滿喫まんきつし、毒をまるで甘露かんろかなんぞのやうにんだりした例はない、と。
「人間の涙は塩っ辛いが、勧進元の細工なら味があるわけはねえ、本当に仏像の涙なら甘露かんろの味がするかも解らないじゃないか」
からからになったのを甘露かんろ煮にするのだが、番茶でゆでこぼす人もあり、鍋の下にコブを敷く人もあり、こげつかないように竹の皮を敷く人もある。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
と、甘露かんろにしては少し熱いが、ほんとうに熱い甘露であったと、兵馬は、つづいて二口三口と飲んで息をつきました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうして十日ほどたてば、何の人工も加えないで自然に皮の中が半流動体になり、甘露かんろのようなあまみを持つ。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「古いいい草だが甘露かんろ甘露で。これさえ飲んでおりますれば、不平も自棄やけも起こりませぬて。……では今度は次郎冠者殿へ、お相伴を願うでござりましょう」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その膝に覚ゆる一団の微温の為にとろかされて、彼は唯妙ただたへかうばし甘露かんろの夢にひて前後をも知らざるなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
岡は上手じょうずに入れられた甘露かんろをすすり終わったちゃわんを手の先にえて綿密にその作りを賞翫しょうがんしていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
またで、硝子杯コツプ白雪しらゆきに、鷄卵たまご蛋黄きみかしたのを、甘露かんろそゝぐやうにまされました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何のさかながなくッたって、甘露かんろ醍醐味だいごみ、まるッきりうまさが、違わあな——そりゃあ、俺だって、何も、あいつをどうこうしようッていうんじゃあねえ、酌をさせるだけなら
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
弟子の勧めるまま、半蔵は格子越しにそれをうけて、ほんの一、二こんしか盃を重ねなかったが、しかし彼はさもうまそうにそのわずかな冷酒を飲みほした。甘露かんろ、甘露というふうに。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
極楽世界の甘露かんろ も及ばなかったです。一盃は快く飲みましたが二盃は飲めない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
てば甘露かんろといふけれどれなんぞは一日々々いちにち/\いやことばかりつてやがる、一昨日をとゝひ半次はんじやつ大喧嘩おほげんくわをやつて、おきやうさんばかりはひとめかけるやうなはらわたくさつたのではないと威張ゐばつたに
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
唐、天竺は愚か、羅馬ろおま以譜利亜いげりやにも見られぬ図ぢや。桜に善う似たうるはしい花のの間に、はれ白象が並んでおぢやるわ。若い女子等が青い瓶から甘露かんろんでおぢやるわ。赤い坊様ぼんさまぢや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
甘露かんろのような雨はその夜のふけるまで降り通したので、天の恵みをよろこぶ声ごえは洛中洛外に溢れた。彼らは天の恵みを感謝すると共に、玉藻の徳の宏大無量を讃美した。彼らばかりではない。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「人間の涙は鹽つ辛いが、勸進元の細工なら味があるわけはねえ、本當に佛像の涙なら甘露かんろの味がするかも解らないぢやないか」
れ果てた泉に甘露かんろが湧く。竜之助も前にはお浜をこうして見て、心をおののかしたこともあった。
待てば甘露かんろといふけれど己れなんぞは一日一日嫌やな事ばかり降つて来やがる、一昨日半次の奴と大喧嘩をやつて、お京さんばかりは人の妾に出るやうなはらわたの腐つたのでは無いと威張つたに
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くの通りの旱魃かんばつ、市内はもとより近郷きんごう隣国りんごくただ炎の中にもだえまする時、希有けう大魚たいぎょおどりましたは、甘露かんろ法雨ほううやがて、禽獣きんじゅう草木そうもくに到るまでも、雨に蘇生よみがえりまする前表ぜんぴょうかとも存じまする。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
りてまへではなんでありしやら兄弟きようだいにもなき親切しんせつこののちともたのむぞやこれよりはべつしてのことなにごともそなた異見いけんしたがはん最早もういまのやうなことふまじければゆるしてよとわびらるゝも勿体もつたいなくてば甘露かんろと申ますぞやとるげにへど義理ぎりおもそで
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)