たま)” の例文
モウ連城れんじょうたまを手に握ったようなもので、れから原書は大事にしてあるから如何どうにも気遣きづかいはない。しらばくれて奥平壹岐おくだいらいきの家に行て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
一五家に久しきをのこ一六黄金わうごん一枚かくし持ちたるものあるを聞きつけて、ちかく召していふ。一七崑山こんざんたまもみだれたる世には瓦礫ぐわれきにひとし。
しかれども水神ありて華陰かいんの夜に現われ、たまを使者に托して、今年祖龍そりゅう死せんとえば、はたして始皇やがて沙丘しゃきゅうに崩ぜり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「大王には宝ではございますまいが、私に取っては連城れんじょうたまでも、これにはおっつかないと思っております。」
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
またゝに、かり炭燒すみやきほふられたが、民子たみこ微傷かすりきずけないで、まつたたまやすらかにゆきはだへなはからけた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小野さんはすぐ来るのみならず、来る時は必ず詩歌しいかたまふところいだいて来る。夢にだもわれをもてあそぶの意思なくして、満腔まんこうの誠を捧げてわが玩具おもちゃとなるを栄誉と思う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
匂うような頬、滴るような唇、精練され切った、銀鈴のような声、この女の全身は、卯の毛で突いたほどのきずも無い、千乗のたまの如く清らかに、美しかったのです。
御両親は掌中たなぞこたまいつくしみ、あとにお子供が出来ませず、一粒種の事なればなおさらに撫育ひそうされるうちひまゆく月日つきひ関守せきもりなく、今年はや嬢様は十六の春を迎えられ
道のあちらこちらにはパル(匂いある黄色の皐月さつき花)、スル(同じ赤皐月あかさつき)その他いろいろの草花にしずくの溜って居る様は、あたかもたまを山間に連ねたかのごとくに見えて居ります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
『博物志』に孔子の弟子澹台滅明たんだいめつめいたまを持って河を渡る時、河伯その璧を欲し二蛟をして船を夾ましむ。滅明左に璧右に剣を操って蛟を撃ち殺し、さてこんな目腐り璧はくれてやろうと三度投げ込んだ。
「お前を殺せば、たまが何處かへ消えるとでもいふのかね?」
盈虚 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
互に得たる幸福しあはせを互に深く讚歎し合ふ、爾時そのとき長者は懐中ふところより真実のたまの蓮華を取り出し兄に与へて、弟にも真実の砂金を袖より出して大切だいじにせよと与へたといふ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それは大きな連城れんじょうたまを得た喜びにもまさっていた。そこで盆の上にせて飼い、粟や米をえさにして、手おちのないように世話をし、期限の来るのを待って献上しようと思った。
促織 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
たとえ天下の名玉崑山こんざんたまでも乱世には瓦や石ころ同然、無価値に等しいものだ。
それと同じ事で我々の心もまた死んだからというて決してめっするものでない。再びこの世に生れ変って来るものであるということを確かに信じて居るのは、いわゆる瓦礫がれき中のたまであるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一身のたっときこと玉璧ぎょくへきもただならず、これを犯さるるは、あたかも夜光のたま瑕瑾きずを生ずるが如き心地して、片時も注意をおこたることなく、穎敏えいびんに自らまもりて、始めて私権を全うするの場合に至るべし。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
引き掛った男は夜光のたまを迷宮に尋ねて、紫に輝やく糸の十字万字に、魂をさかしまにして、のちの世までの心を乱す。女はただ心地よげに見やる。耶蘇教ヤソきょうの牧師は救われよという。臨済りんざい黄檗おうばくは悟れと云う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お前を殺せば、たまが何処かへ消えるとでもいうのかね?」
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ムヽ親方と十兵衞とは相撲にならぬ身分のちがひ、のつそり相手に争つては夜光のたま小礫いしころ擲付ぶつけるやうなものなれば、腹は十分立たれても分別強く堪へて堪へて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
四四ふところのたまをうばはれ、挿頭かざしの花を四五嵐にさそはれしおもひ、泣くに涙なく、叫ぶに声なく、あまりに嘆かせたまふままに、火にき、土にはうむる事をもせで、四六かほに臉をもたせ
蛟龍こうりゅうたまろうする ような天然画の有様がある。そうしてその両岸の山の黒岩の間に斑紋になって居る雪は、あたかもまだらに飛んで居る〔白〕雲のごとき有様に想像されて余程面白く感じたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ムム親方と十兵衛とは相撲すもうにならぬ身分のちがい、のっそり相手に争っては夜光のたま小礫いしころつけるようなものなれば、腹は十分立たれても分別強くこらえて堪えて
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あのしなやかなる黒髪引詰ひきつめに結うて、はらわた見えたるぼろ畳の上に、香露こうろなかばたまなおやわらか細軟きゃしゃ身体からだいといもせず、なよやかにおとなしくすわりてる事か、人情なしの七蔵め
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その時長者は懐中ふところより真実まことたまの蓮華を取り出し兄に与えて、弟にも真実の砂金を袖より出して大切だいじにせよと与えたという、話してしまえば小供だましのようじゃが仏説に虚言うそはない
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)