琅玕ろうかん)” の例文
自分の膝に、姫の顔をのせて、琅玕ろうかんのようにきとおっているそのおもてと、呼吸をしていない紅梅のような唇元くちもとを見て、四郎はいった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、相手の胸の上には、彼の母が遺物かたみに残した、あの琅玕ろうかん勾玉まがたまが、曇りない月の光に濡れて、水々しく輝いていたではないか。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は時々横眼を使って、裾からもすれば洩れようとするところの琅玕ろうかんのような王昭君の脛を盗み見ようと心掛こころがけたが、仲々成功しなかった。
沙漠の美姫 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
侍女三、四、両人して白き枝珊瑚えださんごの椅子を捧げ、床の端近はしぢかに据う。大隋円形だえんけいの白き琅玕ろうかんの、沈みたる光沢を帯べる卓子テエブル、上段の中央にあり。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
近くに寄せる浪のうねりは琅玕ろうかんの練りもののように、悠揚と伸び上って来ては、そこで青葉の丘のようなポーズをしばらく取り、容易には崩れない。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
琅玕ろうかんがかった緑の深い色が流れたようにしまを描いているのも美しいし、なめらかな冷たい手触りや、しっとりとしたちょうど頃合の重さなども好きで
日本婦道記:墨丸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
長羅は兵士たちの持って来た剣と、からむしの袋の中からとり出した鏡と琅玕ろうかん勾玉まがたまとを父の前に並べていった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
東北は山又山を重ねて、琅玕ろうかん玉簾ぎよくれん深く夏日のおそるべきをさへぎりたれば、四面遊目ゆうもくに足りて丘壑きゆうかくの富をほしいままにし、林泉のおごりきはめ、又有るまじき清福自在の別境なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
天井の何処かに穴があって、其穴からさし込んだ光線は、藍靛らんてんの水を透して底に達し、それが更に反射して下から天井を彩どり、琅玕ろうかんのような色が洞内に漂うている。
秩父の渓谷美 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
大時化の大洋の波が、なにかの拍子にだしぬけに凍りついてしまったといった感じで、十尺以上もある琅玕ろうかん色の氷の畝が、起伏に変化を見せながら、はるばるとひろがっている。
白雪姫 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
円錐えんすい形の、しりとがった大きな柹であるが、真っ赤に熟し切って半透明はんとうめいになった果実は、あたかもゴムのふくろのごとくふくらんでぶくぶくしながら、日にかすと琅玕ろうかんたまのように美しい。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私のほうは もらってもいい ということで文枝さんはお友達にうち明け「琅玕ろうかん」と「沼のほとり」を貸して気心の知れるまでしばらくつきあってみるようにすすめ、もう一度つれてきておいていった。
結婚 (新字新仮名) / 中勘助(著)
白堊はくあの家はつらなり、大理石はいみじき光りに、琅玕ろうかんのように輝いている。その前通りの岸には、椰子やしの並木が茂り、山吹やまぶきのような、金雀児エニシダのようなミモザが、黄金色の花を一ぱいにつけている。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
風が吹くとさざなみが立つ。風がなければ琅玕ろうかんの如くって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「ね、そのままの細い翡翠ひすいじゃあないか。琅玕ろうかんたまだよ。——小松山の神さんか、竜神が、姉さんへのたまものなんだよ。」
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
劉備りゅうびは、剣のにさげている琅玕ろうかんの珠を解いて出した。洛陽の商人は琅玕などは珍しくない顔つきをして見ていたが
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その拍子ひょうし頸珠くびだま琅玕ろうかんが、かすかに触れ合う音を立てた。彼はこの子供のような、いやと云う返事の身ぶりを見ると、我知らず微笑が唇にのぼって来ずにはいられなかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……井戸は石で囲んであった。びっしりと厚くみごとに苔が付いていて、それが絶えず溢れてくる水を含んでいるため、翡翠ひすいとも琅玕ろうかんともくらべ難い眼のさめるような美しい色をしていた。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
半透明な琅玕ろうかん色に、およそ味という味のうち、最も高度な結晶を示している天来の妙味、絶妙ともいうべきその一片を口にしたとき、塩辛さの極点滲じむがごとき甘さとなっているその香味は
プランクトンが棲んでいないので、水はガラスのように透きとおり、五十フィートほどの深い底で珊瑚のようなかたちの熔岩塊が、青い琅玕ろうかん色をしてスクスクと直立しているのがはっきりと見える。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
琅玕ろうかんしずくかともみえる青葡萄の汁。
胆石 (新字新仮名) / 中勘助(著)
らし中には骨董品こっとうひんなどもあって今日でも百円二百円五百円などと云う高価なのがめずらしくない天鼓の飼桶には支那から舶載はくさいしたという逸品いっぴんまっていた骨は紫檀で作られこし琅玕ろうかん翡翠ひすいの板が入れてありそれへ細々こまごまと山水楼閣ろうかくりがしてあったまこと高雅こうがなものであった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夕闇のせいか、半兵衛のおもては、琅玕ろうかんのようにきれいである。——かくまで人は痩せるものかと、涙なきを得なかった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清水のおもてが、柄杓ひしゃくこけを、琅玕ろうかんのごとく、こずえもる透間すきまを、銀象嵌ぎんぞうがんちりばめつつ、そのもの音の響きに揺れた。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ほんとうですが、——ですが、実はあの琅玕ろうかんの代りに、珊瑚さんごの——その管玉くだたまを……」
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
侍女の一人は卑弥呼の胸へ琅玕ろうかん勾玉まがたまを垂れ下げていった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
琅玕ろうかん
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
「この剣には、黄金の佩環はいかんに、琅玕ろうかん緒珠おだまがさがっているのではないか、蓆売むしろうりには過ぎた刀だ。どこで盗んだ?」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お恥かしい、人間の小さな心には、ここに、見ますれば私がすそきます床も、琅玕ろうかんの一枚石。こうした御殿のある事は、夢にも知らないのでございますもの、なさけのう存じます。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古びて見る面影もないがそれは凡人ただびとく剣ではない。琅玕ろうかんたまがついていたはず、戛玉かつぎょくとよぶ珠だよ。剣帯けんたいに革かにしき腰帛ようはくもついていたのだよ。王者のはいとそれを呼ぶ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紙の細工もたまに替って、葉の青いのは、翡翠ひすい琅玕ろうかん花片はなびらの紅白は、真玉まだま白珠しらたま、紅宝玉。燃ゆるも、またたきながら消えない星でございます。御覧遊ばせ、貴女。お召ものが濡れましたか。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
湖のなぐれに道をめぐると、松山へ続くなわてらしいのは、ほかほかと土が白い。草のもみじを、嫁菜のおくれ咲が彩って、枯蘆かれあしに陽が透通る。……その中を、飛交うのは、琅玕ろうかんのようないなごであった。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天竺髷てんじくまげつむり琅玕ろうかん耳環みみわ鳳凰型とりがたくつ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)