狡猾ずる)” の例文
してみると君が試験に狡猾ずるをしたのは、親孝行のためにしたというのか、「そうでござります」という。こういうことは間々ままある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
だから、誰でも直ぐ眩惑げんわくされて、敬愛するようになるが、よく観察すると、内面的には小心で、中々意地の悪い所があり、且つ狡猾ずるい所がある。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「では、云い当てて見ましょうか」と狡猾ずるそうに眼を細めて云ったが、しかし、何故か法水は、胸を高く波打たせていて
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何と言ったらいいか、この手のおんな特有な狡猾ずるい顔付で、眼をきょろきょろさせている。眼顔めがおで火鉢を指したり、そらしたり、兄の顔を盗み見たりする。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
見兼ねたと云う容子ようすで、花房はなぶさ藤沢ふじさわとが、同時にやさしい声を出した。と、大井は狡猾ずるそうな眼で、まっ青になった近藤の顔をじろじろ覗きこみながら
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そうお前のように、私にばかり言わせて……お前も少許ちったあ言わなくちゃ狡猾ずるいよ。あの方をお前はどう思うの」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
号室ごうしつだい番目ばんめは、元来もと郵便局ゆうびんきょくとやらにつとめたおとこで、いような、すこ狡猾ずるいような、ひくい、せたブロンジンの、利発りこうらしい瞭然はっきりとした愉快ゆかい眼付めつき
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
誰も褒めて呉れないといつてべそをかいたり、友達に無意味な意地惡をして見たり、狡猾ずるをしようとしてつかまつたり、みんな子供の言葉に飜譯できる事ばかりだ。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
老按摩はそれをすなおに受取って懐にしまい、立ちぎわに、又もや狡猾ずるそうな笑いを浮べて言った。
按摩 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
打明けずにさえおけば、いつでも兄とした約束を真実ほんとうにすることができるというゆとりがある。不埓ふらちでも、狡猾ずるいのでもない、俺はただそのゆとりが欲しかったのだ。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
子供は幹太郎を見てぎょっとし、逃げ腰になりながら、狡猾ずるそうな眼ですばやく彼を観察した。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たゞ狡猾ずるさるだけは、こうして毎日まいにちなん仕事しごともなく、ごろごろとなまけてゐても、それでおなかかさないでゆかれるので、暢氣のんきかほをして、人間にんげんの子どもらの玩弄品おもちやになつて
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
使用人の芸者にも金の観念はなかったが、主人にも算盤を弾くことをいやがるのがあり、春よしのお神の、勘定をきちきちしないのも、あながち狡猾ずるいとばかりも言えなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
人にしても、辞令じれいたくみ智識ちしき階級の狡猾ずるさはとりませんが、小供こどもや、無智むちな者などに露骨ろこつなワイルドな強欲ごうよく姦計かんけい見出みいだす時、それこそ氏の、漫画的興味は活躍かつやくする様に見えます。
そうして一方では狡猾ずるい私をいかると共に、一方では二十五銭で売った先方を怒った。どうしてこの二つの怒りを同時にやわらげたものだろう。私はにがい顔をしてしばらく黙っていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
娘の癖に狡猾ずるい事を考え、来る時の足の遅さとは反対に、飛ぶ様に家に帰って来た。
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
短かくなった葉巻を灰落しの達磨だるまの口へ突込んで、背中を丸めて、卓子テーブルに頬杖を突いたが、その時にジロリと私を見た狡猾ずるそうな眼付と、鼻の横に浮かんだ小さな冷笑と、一文字に結んだ唇の奥に
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
狡猾ずるい奴ぢや。こんなものは、貰うてやるに限る。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「おやおや、こいつ狡猾ずるい奴だ」
僕はたびたび耳にすることであるが、学校で試験のとき、狡猾ずるをやる学生がある。それを呼び出して聞くと、なかなか相当の理屈がある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
北川は四十男の狡猾ずるさで彼女に対した。彼は剽軽ひょうきんな態度で他の社員には無関心に彼女とふざけ、悪口を取り交わした。内心では代償なしならいつでも喜んで彼女を抱擁するのだった。
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
勝野君はまた勝野君で、どうも彼組あのくみの生徒は狡猾ずるくて不可いかん、斯ういふことが度々重ると学校の威信にかゝはる、生徒として規則を守らないやうなものは休校させろ——まあ斯う言ふのさ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「あの岡本ってやつ、そりゃ狡猾ずるいんだよ。靴を三足も買ってもらってるんだもの」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大井おおい狼狽ろうばいしたと云うよりも、むしろ決断に迷ったような眼つきをして、狡猾ずるそうにちらりと俊助しゅんすけの顔をうかがった。が、その眼が俊助の冷やかな視線に刎返はねかえされると、彼は急に悪びれない態度で
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
のみならず、伸子の云うがごとくに、はたして右の方へ倒れたとすれば、当然廻転椅子に現われた疑問が、さらに深められるものと云わねばならない。熊城は、狡猾ずるそうに眼を細めながら訊ねた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
號室がうしつだい番目ばんめは、元來もと郵便局いうびんきよくとやらにつとめたをとこで、いやうな、すこ狡猾ずるいやうな、ひくい、せたブロンヂンの、利發りかうらしい瞭然はつきりとした愉快ゆくわい眼付めつきちよつるとまる正氣しやうきのやうである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
此奴こやつ狡猾ずるい奴だ」と、兵站へいたん係の衣水いすい子、眼玉を剥き出し
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
と、彼は狡猾ずるそうな笑いを浮べて言った。
按摩 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「みんな狡猾ずるいなあ」と云つて笑つてゐる。尤も当人も一寸ちよいと太陽をけて見た。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もと郵便局員いうびんきよくゐんは、さも狡猾ずるさうにほそめてふ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
浅田は狡猾ずるそうな表情を浮べながら
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
もと郵便局員ゆうびんきょくいんは、さも狡猾ずるそうにほそめてう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
狡猾ずるいわ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)