漆喰しっくい)” の例文
漆喰しっくいの割目から生え伸びているほどで、屋根は傾き塗料は剥げ、雨樋あまどいは壊れ落ちて、蛇腹じゃばらや破風は、海燕の巣で一面に覆われていた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
これを巡ると、大宮口から吉田口に到るまでの間に殊に多く灰青色の堅緻なる熔岩流があり、漆喰しっくいで固めたように山を縦に走っている。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
なぜといって、壁はレンガだけでなくて、室内の側には、レンガの上から漆喰しっくいが塗ってありますし、また、板の腰張りがあります。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一片の漆喰しっくいが流れの中に落ちて、数歩の所に水をはね上げたので、ジャン・ヴァルジャンは頭の上の丸天井に弾があたったのを知った。
奉納のいき人形や細工物もいろいろありましたが、その中でも漆喰しっくい細工の牛や兎の作り物が評判になって、女子供は争って見物に行きました。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
外まはりの漆喰しっくいは青ずんで、ところどころげ落ちてゐる。ポーチを支へてゐる石の円柱も、風雨にさらされて黒ずんでゐる。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
昔の煉瓦建れんがだてをそのまま改造したと思われる漆喰しっくい塗りの頑丈がんじょうな、かど地面の一構えに来て、煌々こうこうと明るい入り口の前に車夫が梶棒かじぼうを降ろすと
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この部屋に酔って寝ている東作を麻酔させておいて、軒下の漆喰しっくい伝いに足袋でも穿いて玄関へまわれば、足音も聞えず、足跡も残りませぬ。
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ところが庭は板石といったところで漆喰しっくいみたようなものですからじめじめ湿って居りますからそのバタの腐敗した臭いが堂内に満ちて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
壁は煉瓦で出来ていたが、もともとあまり上等な家ではなく、不器用に煉瓦をそっと積み上げて、その上に漆喰しっくいを塗ったような建物であった。
満洲通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
これはかなりの広さの町で、石と漆喰しっくいで出来たらしい建物が多い。背後には灌漑の行き届いているらしい豊かな牧場がある。
鎖国:日本の悲劇 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
泥溝の水面には真黒な泡がぶくりぶくりと上っていた。その泥溝を包んだ漆喰しっくいげかかった横腹で、青みどろが静に水面の油をめていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ま新しい漆喰しっくいが雨に打たれて、壁からはげ落ちるのと同じだった。彼はなお信じつづけてはいた。しかし彼の周囲には神が死にかかっていた。
それも名だたる彫刻家の業なら別ですが、実に平凡な漆喰しっくい屋が、いとも平易に作り上げてしまうのですから一層の驚異です。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
仏さまの頭へ笊を植えるなどは甚だ滑稽でありますが、これならば漆喰しっくいの噛り付きもよく、案としては名案でありました。
それから、寝床へはいり、湿しめった漆喰しっくいのところどころにできた水脹みずぶくれを見つめながら、彼は、自分の意見をし進める。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
漆喰しっくいの土間のすみには古ぼけたビクターの蓄音器が据えてあって、磨り滅ったダンスレコードが暑苦しく鳴っていた。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
ここの漆喰しっくいだけはだいたい火の力に耐えていたが、——この事実を私は最近そこを塗り換えたからだろうと思った。
黒猫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
……『雁鍋がんなべ』の屋根に飛んでいた漆喰しっくい細工の雁のむれを、不忍から忍川の落込むきわの「どん/\」の水の響きを、ああ、われわれはいまどこにもとめよう。
上野界隈 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
むしろやら、空箱やらを取除けた跡に、漆喰しっくいで固め、角材を組んでその上に幅二尺、長さ四尺、高さ三尺ほどの御影石みかげいしの唐櫃——三寸ほどの短い足の付いたのを
それは漆喰しっくいで固めてあるらしく、滑々すべすべした表面を持っていたが、果然指先に、壁の面から飛びだした固いものを探りあてた。それは小さいスイッチであった。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
天国にあるその恋人の神聖な幻にでもね。こんな、漆喰しっくいの人形のような女のむくろなんぞにささげられべきたちのものではないわ。あたしちゃんと知っててよ。
町の北寄りのヘンリストリートに立つ木造の二階家で、ウォシントン・アーヴィングは、小さなみすぼらしい漆喰しっくい塗の木造の建物で、いかにも天才の巣ごもりの場所らしく
シェイクスピアの郷里 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
それを彼は四方の壁や、剥げ落ちた漆喰しっくいや、庭に転がっている煉瓦れんが陶瓦タイル破片かけらの上に読んだのだ。家屋と庭園の一切の歴史は、それらのものの上に記されていた。
「作ってからまだ間がないらしいよ、その証拠に、漆喰しっくいがまだ乾ききっていないところもあったもの」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
げかかった漆喰しっくいの壁に向ってじっと横臥おうがしていると、眼の前を小さな虫のような影がとびちがう。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
それらの建物は概して木造でありペンキが塗られていたり、漆喰しっくいであったりして少しも欧洲の古い建築の如き永久的な存在の感じを起させない処の建物ばかりである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
小手垣味文が漆喰しっくい細工の村越滄洲、こて先で朝野名士の似顔額面数十枚を作って展覧会を催したり、東両国中村楼大広間の大天井を杉板まがいに塗り上げて評判の細工人。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
コチョコチョと石を積上げた築山つきやまをつくり、風入れや、日光をわざとさえぎってしまって、漆喰しっくいの池に金魚を入れ、夏は、硝子ガラスの管で吹きあげる噴水のおもちゃを釣るした。
南アメリカの一部では土人のみか白人までも病的に土をたしなみ、子供などは夜中に壁の泥や漆喰しっくいを剥がして食うから、それを制するため仮面を着せて寝かせるそうである。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
見ると漆喰しっくいで叩き上げた二坪ほどの土間に、例の車屋のかみさんが立ちながら、御飯焚ごはんたきと車夫を相手にしきりに何か弁じている。こいつは剣呑けんのんだと水桶みずおけの裏へかくれる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
変ったものといえば浅い木箱に入った油土パテ漆喰しっくい土だけである。しかしそれもすぐ判った。勝手口の扉の傍の壁が二合ほど剥げ落ち、それを塗り直した壁土の余りである。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それ等は煉瓦と漆喰しっくいとの単一の密実な塊である。竈は一端で開き、相互に穴で通じている。
一里四方の城壁で、漆喰しっくい煉瓦れんが瀝青チャンとをもって、堅固に造られているのである。高さおおかた五十尺、その厚さに至っては十人の男が肩を並べて自由に歩けるほどであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
灰色の瓦を漆喰しっくいで塗り込んで、碁盤の目のようにした壁の所々に、腕の太さの木を竪に並べてめた窓の明いている、藤堂とうどう屋敷の門長屋が寄宿舎になっていて、学生はその中で
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
共同水道場の漆喰しっくいの上を跣足のままペタペタとんで、ああええ気持やわ。それが年ごろになっても止まぬので、無口な父親もさすがに冷えるぜエと、たしなめたが、聴かなんだ。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
無闇に間口ばかり広い二階だてで、一階の外壁は漆喰しっくいも塗らないで赤黒い煉瓦がき出しになっているが、もともと汚ならしい煉瓦が烈しい天候の変化に逢って一層くろずんでいる。
見渡すと、女の人数だけずらりと並んだ鏡台と鏡台との間からはわずかに漆喰しっくい剥落はげおちた壁が現れていてその面にはあとから後からと、かさなって書き添えられたいたずら書のさまざま。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこは壊れた敷石の所々に、水溜りの出来ている見窄みすぼらしい家並やなみのつゞいた町であった。玄関の円柱はしらに塗った漆喰しっくいが醜くはがれている家や、壁に大きな亀裂ひびのいっている家もあった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
彼の考がここまで漂流して来た時、俊助は何気なにげなく頭をもたげた。擡げると彼の眼の前には、第八番教室の古色蒼然たる玄関が、霧のごとく降る雨の中に、漆喰しっくいげた壁を濡らしていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
外廻そとまわりは白い漆喰しっくいぬりで、かわらぶきの屋根にげっちょろけの煙突を立てているその家は、現在の主人の祖父や曾祖父が植えこんだ桑やアカシヤやポプラの緑のなかに、すっぽり埋まっていた。
嫁入り支度 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そして、正面入口の破風の漆喰しっくいに波にたわむれる人魚の絵がかいてある建物の三階へあがっていった。この建物にはエレベーターがあったらしいが、いまは外囲いの網戸だけがのこっている。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼が一けんの家をじっと見ている中に、その家は、彼の眼と頭の中で、木材と石と煉瓦れんが漆喰しっくいとの意味もない集合に化けてしまう。これがどうして人間の住む所でなければならぬか、判らなくなる。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
男も漆喰しっくい運びの女も、こっちへやって来ると、子供の群に加わった。
あいだをつないでいる漆喰しっくいは五十年もたったもので、今でももっと固くなりつつあるといわれていた。しかしそういうことは人がとかく真偽をたしかめずにただいい触らしたがる口上の一つである。
左官たちは、漆喰しっくい板の泥を浴びて、板の上からころげ落ちた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シャンとすると、驚くべき敏捷びんしょうさで、そこに置いてあった煉瓦を取り、こてを持ち、漆喰しっくいをすくって、壁の穴へ、煉瓦を二重に積み始めた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
脱走計画に好機を与えたのは、ちょうどその時、屋根職人らが監獄の屋根の一部を作りかえ漆喰しっくいをぬりかえてることだった。
元来仏像はギリシア彫刻の影響の下にガンダーラで始まったのであるが、初期には主として石彫であって、漆喰しっくいや粘土を使う塑像は少なかった。
麦積山塑像の示唆するもの (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
いやしくも棟梁とうりょうといわれる大工さん、それが出来ないという話はない、漆喰しっくいの塗り下で小舞貫こまいぬきを切ってとんとんと打って行けば雑作もなかろう。