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横雲
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よこぐも
五日の月が、西の
山脈の上の黒い
横雲から、もう一ぺん顔を出して、山に
沈む前のほんのしばらくを、
鈍い
鉛のような光で、そこらをいっぱいにしました。
夕方は、まんまるな
紅い日が、まんじりともせず
悠々と西に落ちて行く。
横雲が一寸
一刷毛日の真中を横に
抹って、画にして見せる。
最早穂を
孕んだ
青麦が夕風にそよぐ。
僕
一人先づ目覚めて
船甲板を徘徊して居ると、水平線上の
曙紅は乾いた
朱色を染め、
他の三
方には
薄墨色を重ねた幾層の
横雲の上に早くも
橙色や
白金色の雲の峰が肩を張り
差渡し、
池の
最も
廣い、
向うの
汀に、こんもりと一
本の
柳が
茂つて、
其の
緑の
色を
際立てて、
背後に
一叢の
森がある、
中へ
横雲を
白くたなびかせて、もう
一叢、
一段高く
森が
見える。
此の
時の
旅に、
色彩を
刻んで
忘れないのは、
武庫川を
過ぎた
生瀬の
停車場近く、
向う
上りの
徑に、じり/\と
蕊に
香を
立てて
咲揃つた
眞晝の
芍藥と、
横雲を
眞黒に、
嶺が
颯と
暗かつた
……
即ち
風の
聲、
浪の
音、
流の
響、
故郷を
思ひ、
先祖代々を
思ひ、
唯女房を
偲ぶべき
夜半の
音信さへ、
窓のささんざ、
松風の
濱松を
過ぎ、
豐橋を
越すや、
時やゝ
經るに
從つて、
横雲の
空一文字