柄頭つかがしら)” の例文
とたんにがけの両側からバラバラと飛び下りて来た野袴のばかまの武士、前をふさいで十人あまり、いずれも厳重な草鞋わらじがけ、柄頭つかがしらをそろえて
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女はソロソロと、神経質に、部屋の中を見廻してから、懐中ふところへ手を入れた。短刀の柄頭つかがしららしい物が、水色の半襟の間から覗いた。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ああ、どうぞ」甲子雄がって渡すのを、受取った兵馬、眼を据えて柄頭つかがしらからずっと拵えを見ていたが、ぎらり抜放って中身をあらためる。
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と生涯寢床の下に愛刀をはさんで、柄頭つかがしらを枕にならべてゐた人だけに、父は武人の心がけを忘れずといつた顏で、幾振いくふりかを出して見せてゐる。
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
ツイ三四間先には死骸が一つ、中年者の武家姿ですが、右手を柄頭つかがしらに掛けたまゝ、大袈裟おほげさに斬られて、縡切こときれてをります。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
またぞろ刀の柄頭つかがしらをおさえながら、屍体のまわりをめぐりあるいていましたが、その瞬間、そこに腰をぬかしている佐平治のすがたが目にうつったのでしょう。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
禿かむろを呼んで、その客の脇差を取寄せると、間違いも無いこしらえ、目貫めぬきの竹に虎、柄頭つかがしらの同じ模様、蝋塗ろうぬりの鞘、糸の色に至るまで、朝夕自分が持たせて出した夫の腰の物である。
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
もし、彼が帯刀を許されていたならば、彼の手はきっと、その柄頭つかがしらを握りしめたに違いない。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
思い設けないこの出会い……月輪の剣列けんれつ、いたずらに柄頭つかがしらをおさえてじっと見据えていると!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
颯爽さっそうとしたその英姿! 凛然りんぜんとしたその弓姿ゆんすがた! 土壇のあたり、皎々こうこうとしてまばゆく照り栄え、矢場のここかしこ仙台藩士の色めき立って、打ち睨むその目、にぎりしめる柄頭つかがしら
両の筒袖つつそでにはまた銀星をちりばめた幅広の紅紙べにがみを巻き、腰にはブリッキの手製のサアベルをさえ吊るし、さて、そのサアベルの柄頭つかがしらに左の手をうしろへ廻り気味に当て、腰をかまえ
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
腰にはいかめしき刀を差し、時々は扇子せんすかなめ柄頭つかがしらのあたりに立てて、思い出したように町並まちなみや、道筋、それから仰いで朧月おぼろづきの夜をながめているのは、いつのまにこの地へ来たか
私と向ひあつてゐた侍は慌しく身を起して、柄頭つかがしらを片手に抑へながら、屹と良秀の方を睨みました。それに驚いて眺めますと、あの男はこの景色に、半ば正氣を失つたのでございませう。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
片手で烈しく柄頭つかがしらをたたいた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
前へ出ようとすると、自失したように棒立ちになっていた又八の手が、握っている刀の柄頭つかがしらで、いきなり老母ははの肩をどんと突いた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足を薙ぐの例の悪剣! こいつでバラバラ斬り落とそうと、臼杵九十郎肩を沈め、両手を下げて握った刀の、柄頭つかがしらを膝へ引き附けたとたん
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いや、自分の手で匕首の柄頭つかがしらを握つて、自分の喉に突つ立てゝ居るんだから、間違ひもなく自害だらうよ。でも、俺にはどうも腑に落ちないことがあるんだ」
青白く光らして、柄頭つかがしらぐいとこきあげながらその胸元へ突きつけると、もうどうしようもない。腕には諸羽流もろはりゅうの術がある。柄頭ながらそのひと突きは大身槍の穂尖ほさきにもまさるのです。
私と向ひあつてゐた侍はあわたゞしく身を起して、柄頭つかがしらを片手に抑へながら、きつと良秀の方を睨みました。それに驚いて眺めますと、あの男はこの景色に、半ば正気を失つたのでございませう。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
月丸は、左手を、鯉口へかけて、柄頭つかがしらを、じりっと、上へ突き出しつつ
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
一声おめいた時、栄三郎の手はわれ知らず柄頭つかがしらにかかっていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
例によって田舎者は、二本の足を左右へ踏ん張り、しないを上段に振り冠ったが、これまた柄頭つかがしらから相手の眼を、凝然ぎょうぜんと見詰めたものである。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、刀の柄頭つかがしらで、かれのひじを打ち当てますと、その勢いで了戒の一刀は、つば眉間みけんに加えるばかり深く相手にのぞみました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間に平次は四方あたりの様子を念入りに調べます。ツイ三四間先には死骸が一つ、中年者の武家姿ですが、右手を柄頭つかがしらに掛けたまま、大袈裟おおげさに斬られて、縡切こときれております。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
中でも一番人を斬りたくてうずついているらしいのが、最初に追っかけて来た四十侍に代り合って若衆髷の帰路を遮断すると、もう柄頭つかがしらに手をかけながら、口汚なく挑みかかりました。
さなきだに殺気立っている黒装束の九人は、それと見るが早いか、新九郎の警固を離れて、そこへ駈け寄って来るなり各〻柄頭つかがしらをきめつけて言い罵った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浪人が腰の物を素破すっぱ抜いて、斬ろうともせず、突こうともせず柄頭つかがしらで喰らわしたのを眉間へ受けて、遊び人ふうの人間が、往来のはずれへケシ飛んだのである。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ぐいと胸を張って、ポンと叩いたのは柄頭つかがしらです。
で、左手ゆんで右手めての指を、一本一本いて行った。と、切っ先から柄頭つかがしらまで、ベッタリ血汐で濡れていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此方こなたにあった大月玄蕃はそれと気づいたが悠然として、大刀の目釘にしめしをくれながらそれへ出て来た。そして作左衛門と三歩ばかりの間隔に立って傲然ごうぜん柄頭つかがしらを握りしめた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不意に右衛門は足を止め、大鉞を地へ突き立て、その柄頭つかがしらへ両手をのせ、その甲の上へ額をあてた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
くようなが、かれらの笠の上からりつけた。有村も一角も、はかまの上から小袖を脱いで、白い肌着になっていた。柄頭つかがしらの金具や刀のつばも、手をふれると熱いほど焼けている。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刀の柄頭つかがしらを胸へあて、肩を縮めたも一刹那、うむと突き出した双手もろて突き、きまった! まさしく! 敵の咽喉へ! だがその間に敵の一人、右手からさっと切り込んで来た。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
右手めてに持っている助広の柄頭つかがしらで、イヤという程、のどを締めている相手の腕をなぐった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武士は柄頭つかがしらに手を掛けた。たちまち刀身がひらめいて、抜身が武士の手に持たれた……。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
同時にオオッと、栴檀刀を大上段にかぶった河内房は、柄頭つかがしら兜巾ときんの辺りに止め、熒々けいけいたる双眼を新九郎の手元へあつめて、両腕の円のうちから隙もあらばただ一挫ひとひしぎにとにじり寄った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曹操は、佩剣を立てて、柄頭つかがしらのうえに、両手をかさねたままじっと立っていた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「世辞にもうまいとは云えねえなあ。力はある、そいつは認める、太刀さばきは落第だぜ。鍔際つばぎわをしっかり、握った握った、それから浮かすのよ、柄頭つかがしらをな。解ったらもう一度切り込んで来い!」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、雑人の着物を着、山袴やまばかま穿いたが、余りに、立派な太刀が目立つので、さやは布で巻き、柄頭つかがしらの金具は取り捨て、野武士か何ぞのように、わざと無頼ぶらいな恰好に、それを腰へ横たえた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここで刀の柄頭つかがしらを、茅野雄はトントンと右手で叩いたが
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とたんに、異様な精気にふくらんだ武松の五体が眼をひいた。左右の諸袖もろそでをたくし上げ、内ぶところからは短剣の柄頭つかがしらをグイとみ出して、その鯉口こいぐちをぷッつり切った。——同時に、あッというまもない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その柄頭つかがしらへ両手をかけ、グーッと首を突き出した。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ホンの形ばかりに、柄頭つかがしらへ指をふれて見せると
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)