暇乞いとまごい)” の例文
二十年の学校生活に暇乞いとまごいをしてから以来、何かの機会に『老子』というものも一遍はのぞいてみたいと思い立ったことは何度もあった。
変った話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
逡巡しゅんじゅんしていたが、けさ末造が千葉へ立つと云って暇乞いとまごいに来てから、追手おいてを帆にはらませた舟のように、志す岸に向って走る気になった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
暫くして三人は暇乞いとまごいして帰りかけたので余は病床に寐て居ながら何となく気がいらつて来て、どうとも仕方のないやうになつたので
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
成程こいつはもっともだ、と思ったから、しかもお宅が焼けた晩でさ、そら、もうしばらく参りませんッて、お暇乞いとまごいに行ったでしょう。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何十年の間大事にしてきた、三十六の瓢箪を、自分と一緒にこの世から暇乞いとまごいをさせたかったのさ。酒好きの考えそうな事だよ」
其の容体ようだいすこぶ大柄おおへいですから、長二は此様こんな人に話でもしかけられては面倒だ、此の間に帰ろうと思いまして暇乞いとまごいを致しますと
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お母様のお部屋では取止とりとめもないことを語合かたりあって、つい笑い声も立てました。暇乞いとまごいをすると、用がないからと、いつも送って下さいます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
いよい今夕こんせき、侯の御出立ごしゅったつまり、私共はその原書をなでくりまわし誠に親に暇乞いとまごいをするようにわかれおしんでかえしたことがございました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
暇乞いとまごいもいたさせたいのですが——何をいっても昨日今日台湾に着いたばかり、それがほかと違って軍艦に乗っているのでございますから——
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
気を替へしほしほして「おつかさん、私が今晩参りましたのは、御無心では御座りませぬ、お暇乞いとまごいに参りました」といふ。
やはり艇長の役を引うけた蜂谷学士はミドリ嬢と窓に顔をならべて、荒涼こうりょうたる山岳地帯のうちつづく月世界に暇乞いとまごいをした。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「畜生!喧しい、も少し静かにしろ。ところでボートルレ君にもお暇乞いとまごいをしよう。君はなかなか偉い、とうとうここまで発見したんだからね……」
最後に暇乞いとまごいをしようとした時、名所記類を一山授けた。ポルジイは頭痛に病みながら、これを調べたのであった。
その相談はすぐに成立って、清吉は六月の某日青葉の薫る頃に故郷に暇乞いとまごいをして、一人の四十格好の男にれられて、西東も知らない都の空へ旅立をした。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
十二日には、主人の出社を待って、暇乞いとまごいして店を出で、麻布の伯父の家をうて二階に上り、一時間半程ねむった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今に君に見せてる。僕はこう見えても、笑いを含んでこの世に暇乞いとまごいをして見せるよ。おい、ミイツ。泣くな。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
夫としていた男にわかれを告げる手紙も無く、子供等に暇乞いとまごいをする手紙も無かった。唯一度檻房へ来た事のある牧師に当てて、書き掛けた短い手紙が一通あった。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
夫としていた男に別を告げる手紙もなく、子供等に暇乞いとまごいをする手紙もなかった。ただ一度檻房へ来た事のある牧師に当てて、書き掛けた短い手紙が一通あった。
あの荒れの真最中に御夫婦連れの方がお見えになって「小田切の親類の者だが、今日故郷くにへ帰るについて暇乞いとまごいかたがた参詣に来た、是非納骨堂に案内して欲しい」
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
そのなじみのある昔の奉公人のしみじみと主人に暇乞いとまごいをして出て行くのを見ていると、まだ凡ての情の十分に発達していない稚いものでもさすがにあわれを覚える
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
お雪は別れの茶をんで来た。豊世は直樹の家へも暇乞いとまごいに寄ったことを話した。種々な人の噂が出た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
レリヤは皆と別荘を離れて停車場にいって、初めてクサカに暇乞いとまごいをしなかったことを思い出した。
情合じょうあいのない事おびただしいものだ。そんなら立つ前にもう一遍こっちから暇乞いとまごいに行くよ、いいかい」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
予は凱旋がいせんの将の如く得々とくとくとして伯父より譲られたる銀側の時計をかけ革提を持ち、「皆様御健勝で」と言うまでは勇気ありしが、この暇乞いとまごいの語を出し終りたる後は胸一杯
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
暇乞いとまごいに参上いたしますと、ただでさえいつも神々しいような御所でしたが、その折は又円融院えんゆういんの御世からお仕えしているとか云う、いかにも神さびた老女が居合わせて
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その暇乞いとまごいかたがた根岸の親類をたずねた帰りみち悪車夫に誘拐されて上野の山の寂しいところへ連れこまれたところを、蝮の次郎吉がゆくりなくそこを通りかかって助ける。
上野界隈 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
法然の前に合掌礼拝してまかりかえったが、その翌日法蓮房信空の処へ行って暇乞いとまごいをした時、昨日上人から教えられたことを述べて、お蔭様でこんどの往生は少しも疑いがないといって
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(画家あきれて相手の顔を見おり、さてついにおのれも笑いいだす。令嬢また笑う。)それ御覧なさいましな。(間。)まあ、お互にこういたして笑っていられます間に、お暇乞いとまごいをいたしましょう。
拙者わし此度このたび九国への遍歴を思い立ち、もとより絵かきの気楽な境涯もはや親兄への暇乞いとまごいも済まし、其方と今宵語り明して、明朝直ちに発足ほっそくなそうと、御覧ぜられえ、此の通り旅の姿をいたして居る。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「イヤわし最早もう今度はお暇乞いとまごいじゃろう」
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
純一は著作の邪魔なぞをしてはならないと思ったので、そこそこに暇乞いとまごいをして、富坂上の下宿屋を出た。そして帰り道に考えた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
瀧「あの誠になにだがお暇乞いとまごいをしなければ成りませんけれども、少し用が有ると云って早アく帰りました、又四五日内に来ると云いましたよ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今晩も実は一言ひとこと申上げて、お暇乞いとまごいをしましょうと、その事で上りましたが、いつに変らず愛吉々々とおっしゃるので、つい言い出しかねておりました。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親に暇乞いとまごいもし、いろいろ仕度も整えたいから——という口実で、お菊はようやと晩だけ許されて帰りました。
しかしそれは形式上のことだそうで、十六日に今度は千駄木せんだぎの宅の方へ暇乞いとまごいに寄りましたら、もう出立したとのことでした。誰にも時間は知らせないのでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「ホホホホそうですか。あれはわたくしの従弟いとこですが、今度戦地へ行くので、暇乞いとまごいに来たのです」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は日本を出るとき閣老にお暇乞いとまごいをして出て来た者である、早く云えば御老中から云付いいつけられて来たのだ。お前さんが帰れと云ても私は帰らないとリキンダのは、私の方が無法であろう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
八重桜も散り方になり、武蔵野の雑木林が薄緑うすみどりに煙る頃、葛城は渡米の暇乞いとまごいに来た。一夜泊って明くる日、村はずれで別れたが、中数日を置いて更に葛城を見送る可く彼は横浜に往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
夜がけて熱がさめたので暇乞いとまごいして帰途に就いた。空には星が輝いて居る。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ある日ドリスが失踪しっそうした。暇乞いとまごいもせずに、こっそりいなくなった。焼餅喧嘩にりたのである。ポルジイは独り残って、二つの学科を修行した。溜息ためいきの音楽を奏して、日を数える算術をしたのである。
ただお暇乞いとまごいを致そうと存じまして。
「実は君には逢わずに国へ立ってしまおうと思ったのだ。ところが、親父おやじ暇乞いとまごいに来て聞けば、君がいるというので、つい逢いたくなって遣って来た」
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
というと、お隅も母も残念がって歎きますけれども致方いたしかたがない。翌月よくげつの十月の声を聞くと、花車は江戸へ参らなければならぬから、花車重吉が暇乞いとまごいに来て
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わしはちっと思い立つことがあって行脚あんぎゃに出ます。しばらく逢わぬでお暇乞いとまごいじゃ。そして言っておくが、皆の衆決してわしが留守へ行って、戸をあけることはなりませぬぞ。)
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三千代を連れて国へ帰る時は、娘とともに二人の下宿を別々に訪ねて、暇乞いとまごいかたがた礼を述べた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天岸医学士長州へ赴任のため暇乞いとまごいに来る。ついでに余の脈を見る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ソレガ怖いからただ母の病気とばかり云て暇乞いとまごいをしました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「お暇乞いとまごいにまいりました」といいます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
切角せっかく道純をっていた人に会ったのに、子孫のいるかいないかもわからず、墓所を問うたつきをも得ぬのを遺憾に思って、わたくしは暇乞いとまごいをしようとした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と長二は斯様な人と応対をするのが嫌いでございますから、話の途切れたのをしお暇乞いとまごいをして帰りました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)