へた)” の例文
紫玉は我知らず衣紋えもんしまった。……となえかたは相応そぐわぬにもせよ、へたな山水画のなかの隠者めいた老人までが、確か自分を知っている。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
イヤ、思はず識らずウツケ千萬な、ヌカリ切つてへたた石を下しさうな事では有るまいか。數學の問題が解決出來ぬどころでは無い。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
しかし近頃ちかごろではもうそんなへた真似まねはいたしません。天狗てんぐがどんな立派りっぱ姿すがたけていても、すぐその正体しょうたい看破かんぱしてしまいます。
油断をすると此方こっちの方があぶないぞ、馬鹿なやつだあれを知らぬかなどゝ、い加減に饒舌しゃべれば、書生の素人しろうとへた囲碁で、助言じょげんもとより勝手次第で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ジプシイの女は紙片かみきれを取り出して、へたな文字でその年の一八四九年へその数字をそれ/″\書き加へた。
またもとの俗骨ぞくこつにかへり、われも詩を作ることを知りたるならば、へたながらも和韻わゐんと出かけて、先生をおどろかしたらんものをとまけだましひ、人うらやみ、出来できことをコヂつけたがる持前もちまへ道楽だうらくおこりて
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
その内状をあばきにかかるべく、いかなる手段を取ろうかと考えたが、これはへたなことをするよりは、いきなり南条にぶっつかって、その度胆どぎもを抜いてやるのが面白かろうと、結局、こうして今日
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
足許の地面から拾い上げた巻紙のきれに、へたな薄墨の字が野路の村雨むらさめのように横に走っているのを、こう低声こごえに読み終った八丁堀藤吉部屋の岡っ引葬式とむらい彦兵衛は、鶏のようにちょっと小首を傾げた後
もっとも今の羽左衛門が家橘かきつといった頃はへたさ加※はお話になったものでなく、私は到底今のようになろうとは思わなかった、私が明治三十五年頃、歌舞伎座へ『柿木金助かきのききんすけ』という新作物を書いた
当今の劇壇をこのままに (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ところが、僕は女を口説くがへたなのだ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
紫玉は我知われしらず衣紋えもんしまつた。……となへかたは相応そぐはぬにもせよ、へたな山水画のなかの隠者めいた老人までが、確か自分を知つて居る。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
にもづいたてんがまだないではありませぬが、へた言葉ことばでとてもつくせぬようにおもわれますので、はは臨終りんじゅう物語ものがたりは、ずこれくらいにしてきましょう。
音楽は耳を慰める外に、へたながら自分でも演奏者となる事が出来るからである。最後は文学だが、富豪かねもちでゐてほんとうに文学を愛するといふ者は滅多に見た事がない。
へたな細工で世に出ぬは恥もかえって少ないが、遺したものを弟子めらに笑わる日には馬鹿親父おやじが息子に異見さるると同じく、親に異見を食う子より何段増して恥かしかろ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
へたなことをやってくれると、おたがいの為めにならねえんだからね
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いいえ、いきものをね、分って?……取るのは、うまれつきへたなんですって。ですから松露を捜す気もなかった処へ、火事だって騒ぎでしょう。煙が見えたわ。
二人が舎利しやり魂魄たましひも粉灰にされて消し飛ばさるゝは、へたな細工で世に出ぬは恥も却つて少ないが、遺したものを弟子め等に笑はる日には馬鹿親父が息子に異見さるゝと同じく
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
わたくし自分じぶんながらへたなことをいたとすぐ後悔こうかいしましたが、しかしこれで妖精ようせいとすらすら談話はなしのできることがわかって、うれしくてなりませんでした。わたくしはつづいて、いろいろはなしかけました。——
「お酌はへたですよ。旦那が気が利かないから、下戸げこの処へ、おまけにただもんめなんですから。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きっと命中あたる! 私も世界を廻るうちに、魔の睫毛一毫の秒に、へた基督キリストの像の目を三度射た、(ほほほ、)と笑って、(腹切、浅野、内蔵之助くらのすけ——仇討かたきうちは……おお可厭いやだけれど、 ...