所作しよさ)” の例文
「——あの晩、芝居嫌ひなお孃さんが、不思議に夢中になつて、まるで熱に浮かされたやうに、小磯扇次こいそせんじ所作しよさを見て居りました」
彼女は、水盤に近づいて、その上に身をかゞめ、恰も彼女の水瓶を滿すやうな所作しよさをした。そしてそれを再び頭の上に載せた。
火事くわじ見舞みまひ間際まぎはに、こまかい地圖ちづして、仔細しさい町名ちやうめい番地ばんち調しらべてゐるよりも、ずつとはなれた見當違けんたうちがひ所作しよさえんじてゐるごとかんじた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
家流の舞蹈はおほむ所作しよさにて之を見る者なれば、爰に言はず、所謂足取、手振、其一部の形式に到りては、遂に我劇界の一疑問とならずんばあらず。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
僕はそこにある舞台の外に背景や照明や登場人物の——大抵は僕の所作しよさを書かうとした。
或旧友へ送る手記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大藝術家の夫人が窓越しに弟子の話すのを許すと云ふさばけた所作しよさをさう思ふのであつた。此處からはずつと向うが見渡される。起伏した丘にあるムウドンの家竝やなみや形の好い陸橋なども見える。
巴里の旅窓より (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
大芸術家の夫人が窓越しに弟子の話すのを許すと云ふさばけた所作しよさをさう思ふのであつた。此処ここからはずつとむかうが見渡される。起伏した丘にあるムウドンの家並やなみや形の陸橋をかばしなども見える。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ことに参りたる甲斐はありけり、菩薩も定めしかゝる折のかゝる所作しよさをば善哉よしとして必ず納受なふじゆし玉ふなるべし、今宵の心の澄み切りたる此のすゞしさを何に比へん、あまりに有り難くも尊く覚ゆれば
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
しもながれいて、う、かほあらふ、と所作しよさた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
所作しよさになげくや、ただひとり
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
御茶のみづで電車をりて、すぐくるまに乗つた。いつもの三四郎に似合はぬ所作しよさである。威勢よく赤門を引き込ませた時、法文科の号鐘ベルが鳴り出した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「私たちは、あなたがどんな子だか、あなたの所作しよさ通りに考へませう。そのまゝで、いゝ子のやうにやつてゐらつしやい、さうすれば私は滿足するのよ。」
「面白いな八、明日は俺が行つて、娘の所作しよさを見極めよう。そいつは何んか理由がありさうだ」
学問でもする事か、フルベツキさんに英吉利西のことばを習つても三月足らずでめてしまふし、何かなしわかい娘さん達のなかで野呂々々と遊んで居たい、肩上を取つたばかしの十八の子の所作しよさぢや無い。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ほそたけそでとほして、ちないやうに、扇骨木かなめえだけた手際てぎはが、如何いかにもをんな所作しよさらしく殊勝しゆしようおもはれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「娘の所作しよさなんか、俺に訊いたつてわかるものか。袂を裏返したのは、のみをさがすためで、爪を噛んだのは、かんのせゐで、眼をつぶつたのは、眼にほこりが入つた爲とでもして置け」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
くらなかから大事だいじさうにしてたと所作しよさくはへてかんがへると、自分じぶんつてゐたときよりはたしかに十ばい以上いじやうたつといしなやうながめられただけであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その癖路地の外まで筒拔つゝぬけ、十四五の可愛らしい娘が、それを聽かされて今更逃げもならず、袖を頬に當てたり、肩をゆすぶつたり、惱ましい所作しよさを續けて居たことは言ふ迄もありません。
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
然し此姉このあね迄が、いまの自分を、ちゝあにと共謀して、漸々ぜん/\窮地にいざなつてくかと思ふと、流石さすがに此所作しよさをたゞの滑稽として、観察する訳にはかなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
三千代みちよを平岡に周旋したものは元来が自分であつた。それを当時にくゆる様な薄弱な頭脳づのうではなかつた。今日こんにちに至つて振り返つて見ても、自分の所作しよさは、過去をらすあざやかな名誉であつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)