情夫おとこ)” の例文
妹はどんな女だか、なにか情夫おとこでもあるらしい様子はねえか、東山堂の親達はどんな人間か、そんなことを判るだけ調べて来てくれ
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そちも聞いているはず。幼少から仕えている西華門院せいかもんいんのお内を、情夫おとこゆえに逃げ退いて、女院のお名にまでご迷惑をかけたみだらもの
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
階下したは小さなカッフェになっていて、曖昧な娼婦おんな達や、それらに飼われている情夫おとこ達がそこに集まって花牌はなをひいていた。
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
なんしろ相手がよくない船乗りのことで、定石じょうせきどおり、子供ははらむ、情夫おとこには捨てられたということになって、半年ほど前に、すごすご帰って来たんです
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
かと思うとそのあとへ、磯五には内証だが、田舎いなかの金持ちの息子という新しい情夫おとこができて、よろしくやっているというような文句もつけ足してあるのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
浅井の言ったとおりに、日本橋の方の、ある料理屋に女中をしていた知合いの女と、その情夫おとこのある学生との間に出来た子だというのが、事実らしく思えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いたってえかくなっていやらしく成ったもんだから、間ア悪がって……早くっされよ、ちいさえうちは大概ていげえわしおぶったんだ、情夫おとこが居るもんだから見えして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蝶子の情夫おとこが彼女の病気を見舞いに行くから一緒に行こうと言出したため、折角の機会も空しくなった。
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
流石に商売柄、此方こちらから正直に女から聞いた通りを口に出して訊ねて見ても、其様な悪い情夫おとこの付いていることなんか、少しも知らぬことのように、何でもなく言う。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「沢山情夫おとこを数え立ててやろう」師匠の八重梅にからかわれ、女弟子の小仙、面喰らってしまった。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼女は、昨夜ゆうべ、自分の情夫おとこが他のものと一緒にいたことを耳にして、大変なけんまくで駈けこんで来たのだ。彼女は下駄もはいたままで座敷へ飛込みかねない物凄ものすごい有様だった。
「どうも、この犯罪の裏には情夫おとこがあると思うんです」
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「そうだろう。てめえの前の情夫おとこ——村上賛之丞も、この音をきくと、身ぶるいをしたものだ。てめえが、嫌うのもむりはねえ」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現にうちの若旦那ともおかしい素振りが見える。そればかりでなく、ほかにも二、三人の情夫おとこがあるという噂もきこえている。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それが今情夫おとこを連れて逃げて来やアがって、親が得心でかくまって置いたら、石原の舎弟や親達に済むかよ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女が情夫おとこと別れて、独立の生活を営むにつけて、足手纏あしてまといになる子供を浅井にくれて、東京附近の温泉場ゆばとかへかせぎに行っているのだということも、真実ほんとうらしかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
品川から駕籠に乗んなすった時おりから深夜よふけ、女身一人、出歩こうとは大胆だが情夫おとこにあいたいの一心から、家を抜け出して来たんだな、こう目星を付けたってものさ。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
只もう可愛い情夫おとこ、それは彼女の肉と精神こころのすべてを捧げた恋人であったのだ。彼は、逆上した瞬間に人をあやめた。しかしその恐ろしい負目おいめは、もう払ってしまったではないか。
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
が、もともと相識しりあいはしりあいなのだし、知りあいどころか、ついこのあいだまで大事な情夫おとこであったのだから、そうむげに追い立てるということも、おせい様にはできなかった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二三日にさんちあと一寸ちょいと行ったが、彼女あれには悪い情夫おとこが付いている。初め大学生の処に嫁に行っていたなんて言っていたが、まさか其様そんな事は無いだろうと思っていたが、その通りだった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
『うんにゃ、そうは行かねえ。実をいうと、俺にもまだとっくり腑に落ちねえ所がある。何うやら、あいつには情夫おとこがあるらしい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は狐を夫にしていたが、近ごろほかに情夫おとこをこしらえた為に、狐が怒って彼女を殺したのであると、まことしやかに云い触らす者もあった。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今清藏に聞きまして魂消たまげましたぞ、われ情夫おとこを連れて此処こけへ走って来たではねえか、何ともはア云様いいようのねえ親不孝なア奴だ、これ屋敷奉公に出すは何のためだよ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うぬは乳くり合っているそうじゃの! この怨みが一つある! わしの情夫おとこの範覚を、よくもおのれは横取ったの! この怨みが一つある! ……一つの怨みには左の乳房を
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
天にも地にもたった一人の可愛い者であったあの情夫おとこが、宿のカッフェで花牌はなをひきながら彼女を待っていてくれたから——彼女はそんなことを思いだしながら、腰にしなをつくって
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
ふだつじ辺りの煙草屋の看板娘が情夫おとこに瞞されたあげくの果てでげす、世の娘にはいい見せしめでげす、なんかと斜に片付けて納まり返るしったかぶりもあったが、そんな詮議は二の次としても
「じゃ言う! ……私には情夫おとこがあるの!」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
まるっこいお尻はもう宵のくち情夫おとこの張三の甘美するにまかせて、なお飽かない不足をぷっと怒っている恰好といえようか。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八橋の情夫おとこという宝生栄之丞に逢って、八橋が身請けのことを掛け合って見たいような気になって、彼はまっすぐに大音寺前の方へ足を向けた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黙っていることは最早もうならぬ……お前の情夫おとこは私の嫌いな、あの狐池如来衛門きつねいけにょらいえもん、それだによってこれまでも、如来衛門は見捨ててしまえ、逢ってはいけぬと云い渡しても
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うから馴染の情夫おとこに相違ないようだ、君の前で云うのはんだが、本当にあれが君を思って貞女を立て通す気かも知れないが、君の処へまつろうと云うものが遊びに来ましょう
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蜒女上りの莫連女ばくれんもの情夫おとことぐるで仕組んだ手品にちげえねえ。
今までお前を欺していたが、栄之丞は自分の従弟いとこではない、実は自分の情夫おとこであるということを、八橋は泣いて白状した。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だが、弟子や小僧たちは、皆、二階のお粂を不愍ふびんがった。情夫おとこがあると聞けば、よけいに、可憐いとしがるのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ありもしない小母様に病気をさせて、情夫おとこに逢いに来るなんて、隅に置けない歌舞伎者かぶきものさ」
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
訳は大概てえげえ極ってる、亭主に嫌われて離縁され、世間へ顔向けが出来ねえとか、内証ねえしょ情夫おとこが出来て親に面目ねえんで死ぬのか知らねえが、今の若さで親に先立さきだって済む訳のものじゃアねえ
たぶん情夫おとこでも出来て、駈落ちでもしたんだろうということになってしまったんですが、田町たまちの重兵衛はそれに何か目星をつけた事でもあるのか
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
性来の淫婦といっても、ひと通りな巧雲こううんではない。かつは情夫おとこ裴如海はいにょかいがしたたか者。わるくしたら行くすえ邪魔者の楊雄ようゆうに一服毒を盛らないものでもない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつづけの客や情夫おとこなどを、宿の遊女おんな達はこの茶屋まで、きっと送って来たものであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
貴公達はもとの事を忘れたのか、物覚えの悪い人たちだ、心得のため云って聞かせよう、貴公達は龜甲屋に奉公中、御新造様に情夫おとこ媒介とりもって、口止に貰った鼻薬をちび/\貯めて小金貸こがねかし
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
江戸へ出るまではなんにも言うめえと思って、道中でも口を結んでいたが、あの吉原の女はおめえさまに隠して情夫おとこを持っているんでごぜえますよ
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一頃はお蝶の情夫おとこであった、かの山屋敷の仲間ちゅうげん龍平が、あわれにも変り果てた姿でした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いうまでもなく情夫おとこの方が、やんわりと当るに違えねえ。だがそいつあ勘弁して貰い、厭でもあろうがおいら二人を、亭主に持ってはくれまいか、ちょっくら相談ぶって見ようてな。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
んな貧乏世帯を張ってるから、使いに出すたび一緒に附いては往かれませんよ、だが浮気をして情夫おとこを連れて逃げるようなじゃアありません、親に愛想あいそうが尽きて仕舞ったに違いないんだよ
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
娘のお照は江戸を離れるのがいやなのと、もう一つには情夫おとこと別れるのが辛いのとで、どうしても行かないと駄々をこねる。親子喧嘩がたびたび続く。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
情夫おとこ西門慶せいもんけいの姿が梯子段はしごだんをころげるように降りて来るなり、隣家の王婆の裏口へ消えて行ったし、女の金蓮きんれんは金蓮でまた、にわかにわが手で髪をみくずし、紅白粉べにおしろいを洗い落すなど
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ドシ/\雨の降ってる最中に可愛い情夫おとこを出してやるは、何うも人情仕悪しにくいものでございますんで、お若さんは頻りに止めますから、伊之助もそれではと小歇こやみになるまで見合すことにいたし
「御用番というほどのことでもねえが、あの晩、おれと一緒にいたお鉄というおんなに情夫おとこでもあるのかえ」
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「じゃその情夫おとこを、何で、裏を掻いて殺しゃあがったか、さ、返辞をしろ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そこで、その女には情夫おとことか何とかいう者はねえのか。それだけの売れっ妓なら何かあるだろう」
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)